自分の考えた商品や事業が世に出て、お金を出して買ってもらえる。商品開発の仕事には多くのやりがいがあると思いますが、せっかく一生懸命考えても、一向に売れない商品やサービスも数限りなくあります。そんな時の企画担当者は、ホントにつらいものです。
お菓子メーカーの「江崎グリコ株式会社」で21年、そして「株式会社バンダイ」で16年、新商品企画及び新規事業開発の仕事に携わってきた山崎進一氏は「商品開発、企画開発」には実はコツみたいなものがあって、そのポイントをうまく押さえられているかどうかが、成功するかしないかに大きく影響してくるのではと、だんだんとシンプルに考えられるようになってきたといいます。
たくさんの商品を世に送り出し、時にはヒットに恵まれ、時には鳴かず飛ばずの苦汁を舐め、またそれぞれの会社の先輩や仲間からとっても多くのことを学んだ山崎氏の著書「開発マンの上司は消費者である!商品開発のツボ30+α」から若いマーケッター、商品企画担当者に伝えたい、企画開発のコツを一部抜粋・再構成してお届けします。
開発マンの上司は消費者である!
商品開発のツボ30+α
山崎進一
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商品開発のツボ(20)「デザインは最初の広告」
さぁ、ネーミングが決定すると、いよいよパッケージのデザインに入ります。この項では、デザインについて考えてみたいと思います。
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皆さんは、「AIDMAの法則」はご存知ですか?
AIDMAとは、1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホールが、広告著作物の中で、広告宣伝に対する消費者の心理プロセスを示した略語のことで、初めて広告で商品を見た顧客が、その商品に興味を覚え、購入に至るまでの心理がどのように変化していくかというものです。
新商品を購入する場合は、確かにAIDMAの流れで消費者の心理状態が変化していく訳ですが、最初のAttentionは、テレビCMや雑誌、またはインターネット等の何らかの広告物で知ることになります。
しかし、全ての商品は広告されるとは限らず、むしろ広告も一切されずに店頭に並ぶ商品の方が実は圧倒的に多いのです。大手の菓子メーカーでも、テレビCMを入れてプロモーションする商品は1割くらいでしょう。洋服などは、ほとんどの商品は広告されないため店頭で知ることになります。
しかも現在、店頭の定番の移り変わりの速さは尋常ではありません。コンビニでは、毎週多くの新商品が発売され、棚が入れ替わっていきます。全てPOSデータで売れ行きを管理され、少しでも週販(1週間の販売個数)が下がれば、定番からカットされてしまうのです。「売れ筋」を求めて複数のメーカーからできる限り新しくて話題性のある商品を次々導入して入れ替えていくのは売り場では当然のことなのですが、メーカー側にとっては、厳しい時代です。
一方買い手のお客様も、そんな毎週変わっていく商品を全てチェックしている訳でもなく、せっかく新商品としてデビューしてもお客様に全く知られることなく、ひっそりとカットされて姿を消してしまう商品が、本当にたくさんあるのです。
自分が開発担当した商品が、このような憂き目にあって、早々に戦線から離脱し、消えていくのは、開発担当者として耐えられないことですね。泣きたくなります。
少なくとも、まずはその新商品が棚に並んだことくらいは知って欲しいですよね!
そうなんです。だから広告もかけない(予算の関係で「かけられない」という方が正しいかも)多く商品の場合、「店頭勝負」になるのです。つまりパッケージデザインが広告的な要素を担っており、初期周知の全てということです。
「デザインは最初の広告」なのです。
デザインを制作する際、その商品の特徴を正しく表現することは最低限必要ですが、他社の商品と比較して目立つことも大変重要な要素です。店頭で、一発でわかる魅力的なデザインに仕上げないといけません。おとなしくしていると「おいてきぼり」を食ってしまいます。(複数のデザインから最終のデザインを決定する時は、必ずライバル商品と一緒に棚に並べて比較してください。1つのデザインだけで見るのではなく、その売り場の中でちゃんと目立ってわかりやすく自己表現できているかをしっかり見極めてください)
では、売れる良いデザインとは、どんなデザインなのでしょう。
これも、前述の通り私の趣味の写真撮影にヒントが隠されています。
今は動画全盛の時代で、写真の地位が少し下がってきているようで残念に思うこともありますが、瞬間の美しさを切り取り、表現する写真の愉しみは、動画では得られない価値があると思っています。
「いい写真」の条件は「主題がハッキリしていること」です。作者の意図がしっかり作品で表現されている写真は本当に素晴らしいものです。中にはいろいろな要素が同じレベルでごちゃごちゃ写っている写真で、作者の意図がよくわからないものもありますが、やはり見にくいものです。
この考えはまさしく、商品のデザインと一緒です。
主題をハッキリさせ、余計なものを省略することです。
また、「メイン表現」に加えて「サブ要素」もしっかり考えてください。メインを活かすという意味のサブ的な働きのデザイン要素が重要です。
私がバンダイ時代に手掛けた仕事の、「子どもキャンプ用品」の話をします。
私はキャンプ用品を創る仕事がしたいと、かねがね思っていました。また当時の私の部下の担当者もアウトドア好きで、キャラクターの付いたテントや寝袋があったら楽しくて、子どもたちが夢中になるだろうと話し、二人で意気投合し、キャンプグッズを専門に作るメーカーを探し始めました。
早速2社ほど国内のメーカーを訪問し、話を持ちかけたのですが、どうも煮え切らない……。単にキャラクターデザインのキャンプ用品だったら、別にバンダイの手を借りなくてもできる、とでも思ったのでしょうか? いつになっても色よい返事が来ずに、計画は全く進みませんでした。
そこでこうなったら、ちょっと敷居は高いけれども、キャンプ用品では、世界一のシェアを誇るトップ企業の「コールマン」に行ってみようかという話になりました。もう2社断られています。ダメもとです!
そして、担当者と私はコールマンジャパンにアポをとり訪問しました。出てきたのはアメリカ人の日本総責任者でした。英語が苦手な私は、通訳してもらいながら、しかし臆することなく熱く、「一緒に日本の子どもたちに夢を与える仕事を始めないか」と、プレゼンしました。
すると、その責任者は、「イイデスネ! オモシロイ! イッショニヤリマショー!」と即座に日本語で答えてくれたのです。「なんだ、日本語話せるじゃん!」と私は思わず笑ってしまいましたが、その答えは本当に嬉しいものでした。何しろ2社でぐずぐずしていた後でしたので、二つ返事で引き受けてもらえるなんて思ってもみなかったのです。
実は私が訪問したタイミングが良かったらしく、コールマン側では、コールマンの日本での地位は十分あるのだが、それは大人にとっての話で、日本のキッズには、まだまだ「コールマン」ブランドが浸透していない状態で、それを打破したいというのが課題であったとのことでした。そこに、子どものおもちゃ会社のバンダイが来たので、想いが一致したのでした。
そして、いよいよ共同開発が始まりました。
いろいろな商品を一緒に作ってテストしながら売っていきましたが、例えばキャラクターの付いた子ども向けのキャンプチェアーを作る際も、各キャラクターごとに2種類のデザインでテスト販売をしました。
1つはドラえもんの顔が大きくひとつデザインされたチェアー。もう1つはどこでもドアが小さくオシャレに、ブランドバッグのモノグラム風にデザインされたものが作られたのですが、前者の顔のデザインの方が圧倒的に売れたのです。2品とも特に大きな広告も打たず、店頭で並べるだけでしたが、結果はハッキリ出ました。
これこそ、まさしく「デザインは最初の広告」の事例です。
これで、どんなデザインが売れるか少しわかったので、今度はポケモンのピカチュウの可愛いサンシェードテントも創りました。これも好反応でした!
数あるライバル商品の中で如何に目立たせ、忙しいお客様の目に入り、「瞬間判断」できるデザインに仕上げるかは、とっても大切なことであり、商品開発の最後の大きなポイントとなる業務です。
素晴らしいコンセプトの企画ができたら、それをハッキリスッキリ表現するネーミングとデザインで、一発でお客様の心に入り込む商品に仕上げてください!
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<著者プロフィール>
山崎進一
昭和57年、明治大学商学部卒業後、江崎グリコ株式会社に入社。「アーモンドクラッシュポッキー」「お土産ジャイアントシリーズ」「タイムスリップグリコ」等のヒット商品を開発。平成
15年、株式会社バンダイに転職。「ガンダムカフェ」の立ち上げ、「ベルばらの本格化粧品」の発売やキャラクター菓子の売上に貢献。令和元年、定年退職し、経営コンサルティング会社【企
画のびっくり箱 Y-BOX】を設立。またプライベートでは趣味のアウトドアの知識を活かして「おもしろ理科クラブ」を主宰。
また「ビートルズ研究家」としても有名。持論は、「仕事は楽しく、遊びは真剣に!」
Y-BOXホームページ https://www.y-box.tokyo