猫好き、食べ物好きにはたまらない『トラとミケ』の最新刊、「トラとミケ 4 ~やさしい日々~」(ねこまき著、小学館発刊、定価1,430円)が発売されました。首を長くして待っていたファンの期待を裏切らない仕上がりで、作品史上最高に切なく感動的な作品です。秋も深まってきた今こそ、みなさんにお薦めしたい一冊です。
また、4巻は描き下ろしが1話分、まるまる収録されています。描き下ろしの素敵なイラストもたっぷり掲載されていて、お得な一冊でもありました。
第4巻のサブタイトルは「やさしい日々」です。第1巻「いとしい日々」、第2巻「こいしい日々」、第3巻「ゆかしい日々」に続く第4巻。「やさしい日々」では、人々の優しさと、生きてゆく切なさの両方を極限まで圧縮して爆発させた、シリーズ史上最高の物語になっていました。
トラ姉さんの初恋の人が登場!
名古屋にある老舗のどて煮屋「トラとミケ」を舞台にしたこの作品。主人公はトラ猫のトラさんと三毛猫のミケさんの老姉妹です。姉妹が仲良く切り盛りするこのお店は、いつも個性的な常連さんたちで、賑わっています。
第4巻では、姉のトラさんが同級生・神谷君の葬儀に参列するところからスタートします。友人代表で弔辞を述べたのが元東京地検特捜部の中村君。エリートでハンサムな、第4巻の主人公です。彼は何とトラさんの初恋の人でもありました!(第3巻「ゆかしい日々」に詳述)
トラさんがビールを両手にポロポロと涙を流す姿が何ともキュートな一コマです。本当は東京の大学へ進む中村君と一緒に上京したかったのですが、両親の経営するお店を継ぐことを決意して、故郷に残ったのでした。
神谷君の死と、その葬儀での旧友たちとの再会をきっかけに、故郷に帰って仲間たちと楽しく老後を過ごすことを決めた中村君でしたが、人生は暗転します。彼は治らぬ病魔に侵されていたのです。
故郷へ帰り、仲間たちと楽しい時間を過ごす中村君は、最初、トラさん達に自分の病気を打ち明けることができません。でも、高校時代の恩師(100歳!)の言葉で、自分の弱さを他人に見せることができるようになりました。自分を変えたのです。死を前にしても、人は大きな可能性があることを、中村君は周りの人に教えてくれました。
また、優秀な弁護士でもあった彼は、問題解決のプロとして、子どものいじめまで解決してしまいます。
死を受け入れ、残された日々は、淡々としているようで、満たされた毎日でした。その姿はとても見事で、読者の涙を誘います。
最高のひとコマはぜひ紙の本で味わって
中村君は亡くなる数日前、トラさんと握手をして「また会おう」と誓います。トラさんの脳裏に浮かんだ、モノクロで描かれた昔の駅での別れのシーンは、この本の中でも最高に泣ける一コマです。ぜひこの本を買って、このコマだけでも見てください。女学生のトラさんの初々しさ、希望に燃えて上京する若き青年の凛々しさは、紙の方がよりインパクトを持って、伝わってくるでしょう。ぜひ本で確認していただきたいと思います。
命は尽きても、永遠に残ることがある。そして、幸せは、毎日の何気ない日常にある……そんな当たり前だけれど大切なことを教えてくれる「トラとミケ」の最新刊「やさしい日々」。活字と絵だけで、こんなにも読む人の心をやわらかく掘り起こして、やさしい気持ちにさせてくれるとは、なんだか奇跡の様な気がします。
実在しないのに、「トラとミケに出会えて良かった」と言いたくなります。「いつもお店を切り盛りしてくれて、ありがとう」と感謝したくなります。読んだ人の一番弱くて苦しい部分を、やさしく労わってくれました。
また、題材が重たい死を扱っているにもかかわらず、読後感がとても爽やかであたたかいです。辛く切ないけれど、最後に繋がる希望がありました。
ささくれた心を、やさしくなで付け、癒してくれる一冊。この本で、私は泣いて、少しだけ死に立ち向かう勇気をもらったと感じています。あなたもぜひ、「トラとミケ」の優しさに触れて欲しいと願ってやみません。
ねこまき(ミューズワーク)
2002年より、ディスプレイ会社を退職し独立。現在は、名古屋を拠点としながらイラストレーターとして活動中。コミックエッセイをはじめ、犬猫のゆるキャラ漫画、広告イラスト、アニメなども手掛けている。
著書には、『まめねこ』1巻~9巻『ぬり絵コミック まめねこ』『ねこのほそみち』『ねこもかぞく』(以上、さくら舎)、『ねことじいちゃん』1巻~5巻『ずぅねこ』1巻~2巻(以上、KADOKAWA)、『マンガでわかる猫のきもち』(大泉書店)、『しばおっちゃん』(実業之日本社)、『ケンちゃんと猫。ときどきアヒル』(幻冬舎)などがある。
文/柿川鮎子