2020年2月20日、筆者はインドネシアから帰国した。
それは同時に、自宅での長い「巣籠り」の始まりでもあった。
当初は半年もすればまたインドネシアに行けると思っていたが、1年経っても2年経っても、海外どころか静岡県の外にすら出られない状況が続いた。
そしてその間に、筆者は「社交の場での作法」を忘れてしまった。
フォーマルのイベントなのに、普段使いのスマートウォッチを腕に巻いてしまう有様だ。
これではいけない。フォーマルの場には、それに相応しいスマートウォッチをはめていなければ恥を掻いてしまう。
しかし、「フォーマル向けスマートウォッチ」などというものが存在するのか?
フォーマル志向の腕時計
Makuakeにこのような製品が登場した。
「軽く、薄く、時を刻む」というキャッチフレーズのスマートウォッチ『Pico Tie』である。
スマートウォッチにしてはだいぶ薄い、ステンレス製のボディ。そしてクロコ型押しの牛革ベルト。
一瞥しただけでは、これがスマホとBluetooth接続するスマートウォッチとは分かりづらいだろう。
というより、これはどこからどう見てもフォーマル志向の腕時計だ。
『Pico Tie』は専用アプリ『iSmarport』と連携し、心拍数、消費カロリー、歩数、位置情報等のデータをスマホに反映させる。
これはスマートウォッチにとっては基本的機能だが、その一方で音声通話機能、音楽再生機能は『Pico Tie』には搭載されていない。
機能面だけを見た場合、『Pico Tie』は他社製品に対して大きなアドバンテージを保っているというわけではない。
『Pico Tie』の長所は、そのデザインに集約されている。
腕時計が「高級品」だった時代のデザイン
「スーツに合うデザイン」と書けば、恐らくそれまでだろう。
しかし、ある意味で保守的なデザインの『Pico Tie』を身に着けてみると、そこには多大な安心感が含有されていることに気がつく。
これなら今すぐにでも様々な場所へ顔を出すことができる、という安心感である。
そして、この筐体の形やクロコ型押しの牛革ベルトからは、セイコーのアストロンに共通する雰囲気が見受けられる。
筆者は地元の質屋で、初代アストロンを見かけたことがある。
世界初の量産型クォーツ腕時計で、スイスの時計職人を大量失業させてしまった製品だ。発売日は1969年のクリスマス。
この時代のアストロンは、まさに「完全フォーマルガジェット」だった。
年に数度の社交の場で使用する高級品、という位置付けだ。それはそうだろう。
なぜなら、大卒者の初任給が3万5,000円ほどだった時代に、アストロンの販売価格は45万円もしたからだ。
同じ69年にホンダが発売した大型バイク、ドリームCB750FOURの販売価格は38万5,000円。腕にクルマを1台巻いているようなものだ。
クォーツ腕時計が、高校生でも買えるほど安くなるのはまだ先の話である。
そんな古き良き「ハイテク腕時計」の気品が、『Pico Tie』から漂っている。
ステンレス素材のベゼルにクラシックな形のリューズ、そして見た目にも粗の少ない1.39インチAMOLEDディスプレイ。
上述の機能面の不備は、ドレスコードを要求される場では必要ない機能を削減した結果でもある。
この製品は、徹頭徹尾「ワイシャツとスーツに合わせる腕時計」なのだ。
かつての高級クォーツ腕時計のように。
リュウズの感触
筆者が特に驚いたのは、「リュウズの感触」である。
これは押すとメニュー画面へ移行する機能が与えられているのだが、その際の感触やリューズそのものの作りが「あの頃の時計」にそっくりなのだ。
回した時の重み、指先を心地良く刺激する細かい突起などにも、開発者のこだわりがよく表れている。
「これは本当に2022年のガジェットか?」と、筆者は一瞬だけ疑ってしまった。
少なくとも『Pico Tie』の着用感は21世紀らしくはない。
筆者は「昭和レトロ」という言葉はあまり好きではないが、それでも昔のガジェットには今現在のそれにはない独特な洒落っ気があることは知っている。
そして『Pico Tie』は、そんな「昔ながらの洒落っ気」を身にまとった製品と言える。
再び外へ羽ばたくために
筆者はガジェットライターとして、@DIMEに限らず様々なメディアでスマートウォッチに関する記事を執筆している。
その中で毎回の如く悩むのは、「この時計をはめた状態でパーティーに参加できるのか?」ということだ。
同世代の仲間や職場の同僚と居酒屋で楽しむパーティーなら、何ら問題はない。
が、ここで言う「パーティー」とは各界の重鎮や著名人が集まるような催しである。
都内の一流ホテルのホールでやるようなもの、と書けばさらに分かりやすいか。
そのような場でスマートウォッチを着用できるのか? という話になってしまう。
スマートウォッチというものは、どれもこれもカジュアル志向のデザインばかりだからだ。
『Pico Tie』はその限りではない、ということはここで断っておきたい。
今秋あたりから、行動制限のない実地イベントが再び開催されるようになった。それは言い換えれば、我々が長らく籠っていた巣から再び外へ羽ばたくということだ。
巣立ちをするにも準備が必要である。
『Pico Tie』はMakuakeにて、1万9,980円からの予約を受け付けている……と言いたいところだが、この価格の枠は既に埋まってしまった。
記事執筆時点(11月9日)では2万2,980円の枠がまだ残っている。一般販売予定価格は2万7,980円。
【参考】
「さらに薄く、軽く、スマートに」時計職人が追求、薄さを極めたスマートウォッチ-Makuake
取材・文/澤田真一
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