こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
【入社前の】研修、ダルくないですか?
入社後にしろよ…って思いません?
そこで、
入社前の研修に参加する義務があんのか?
が争われた裁判例を解説します。
結論。
参加する義務なし。参加しなくてOKです
(宣伝会議事件:東京地裁 H17.1.28)
裁判所はザックリ、
●入社前の研修は、自由参加
●会社は研修参加を強制できない
●参加しない者にペナルティを与えちゃダメ
●「今後は、やっぱ参加できないです」も基本、認めるべき
と判断しました。
当たり前のように【入社前の】研修参加を強制しないよう注意しましょう。
今回、79万円の賠償請求が認められているので。
以下、事件を解説します。
バトルの当事者
会社から内定をもらっていたXさんは、大学院生。
博士課程に在籍し、環境化学の研究をしていました。
会社は、環境問題に関する雑誌を出版している会社でした。
お二人のバトルを見ていきましょう。
内定をもらう
平成14年6月17日。
Xさんは、会社から内定をもらいました。
その時、会社から「入社前に研修がある」との説明を受けました。
研修の内容は、
・10月ころから2週間に1回
・1回、2〜3時間程度
・多少の課題がある
というものでした。
Xさんは、大学院での研究があったものの、まぁ大丈夫だろうと思っていました。
研修が始まる
しかし、いざ研修が始まると、これがキツイ…。
課題の分量・内容は、
・雑誌や書籍を読んでレポートを書くなど
・1〜2日かかる分量、各課題のために約毎日2〜3時間かかる
ような、ちょいヘビーなものでした。
研修が免除される
そこで、Xさんは、
「これは、大学院の研究との両立は難しい」と判断しました。
そして、大学院の教授にお願いし、教授から会社にかけあってもらいました。
その結果、研修参加を免除してもらうことができました
(教授と会社とのメールが証拠提出されています)
会社から「必ず出席せよ」との連絡
その後は、研修に参加せずに済んでいたのですが、
会社から「平成15年3月末の研修には必ず参加せよ」との連絡がきました。
さらに
「出席しなければ、試用期間を3ヶ月から6ヶ月に延長するか、今回はあきらめて中途採用で入社試験を受け直すかになります」
と、通告しました。
Xさんは、その二者択一を、断りました。
学業が忙しいし、研修が免除されてるのに今さら言われても、
という思いがあったのかもしれません。
そのまま、4月1日になってもXさんは入社できない状況となりました。
そこで、Xさんが提訴!
「これは不合理な内定取り消しだ!慰謝料を払え!」
という請求です。
裁判所の判断
Xさんの勝訴です!
79万円の賠償請求が認められました。
〈内訳〉
・4月分の給料:19万6000円
・慰謝料:50万円
・弁護士費用:10万円
その理由は、ザックリ、
●入社前の研修は、自由参加
●会社は研修参加を強制できない
●参加しない者にペナルティを与えちゃダメ
●「今後は、やっぱ参加できないです」も基本、認めるべき
●2者択一は、実質的には内定取り消しだ
●その内定取り消しに合理的理由はない
というものです。
少し詳しく解説します。サラっと見ておいてください。
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▼ 入社前の研修は、自由参加
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裁判所は
「あくまで使用者からの要請に対する内定者の任意の同意に基づいて実施されるもの」
と判断。
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▼ 会社は研修参加を強制できない
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裁判所は、
「使用者が内定者に対して、本来は入社後に業務として行われるべき入社日前の研修等を業務命令として命ずる根拠はない」
「使用者は、内定者の生活の本拠が学生生活等労働関係以外の場所に存している以上、これを尊重し、本来入社後に行われるべき研修等によって学業等を阻害してはならない」
と判断。
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▼ 参加しない者にペナルティを与えちゃダメ
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裁判所は
「研修に同意しなかった者に対して、不利益な取り扱いをすることは許されない」
と判断。
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▼ 「今後は、やっぱ参加できないです」も基本、認めるべき
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裁判所は
「一旦参加した内定者が、学業への支障などといった合理的な理由に基づき、研修への参加ができないと申し出たときは、これを免除する信義則上の義務を負っている」
と判断。
まとめ
今回は、会社が【入社前の】研修への参加を強制した事件について解説しました。
結論、
参加する義務なし。参加しなくてOKです
学生生活、ギリギリまで全力であそびたいっつーの!
会社の担当者の方は、
【入社前の】研修参加を強制しないよう注意しましょう。
今回は以上です。
では、また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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