DIME MAGAZINE
Web3時代において、企業と個人が直接マッチングする社会像は想像に難くない。しかし取材を通して見えてきたのは、それ以上に「私たちの人生が評価される未来」だった。新卒採用だけでなく、教育の在り方も変わってくるかもしれない。
IGS代表取締役社長
福原正大さん
2010年に株式会社IGSを設立し、2021年12月には東証マザーズに上場する。現在は慶應義塾大学経済学部特任教授も務めている。
自分の人生が評価して もらえる社会が訪れる
慶應義塾大学FinTEKセンターは、AIを活用した人材評価システム『GROW360』を手がけるIGSと協働し、〝学生の個人情報を、学生自身の手に戻す〟をテーマとした実証実験「STARプロジェクト」を2020年に開始した。
現在の就職活動では、学生は就職活動の方法として新卒向けの就活サイトに個人情報を入力（提供）し、企業とのマッチングを斡旋してもらうシステムが一般的だ。しかしブロックチェーン技術を使うことで「就活サイトという中間者に情報を委ねるという学生にとってのリスクを解消することができる」とIGS代表・福原正大氏は言う。
「学生の知らないところで中間者が学生の情報を提供、売買される問題はたびたび発生しています。ブロックチェーンの透明性はそれを防ぐことができます。
さらに、学歴や資格といったラベル以上の情報をデータにして管理、提供できるようになります。『GROW360』という学習を正当に評価するシステムがあれば、大学時代にどんな講義を受け、どんな活動を行なってきたのかをフェアなデータに変換可能だからです」
学生にとってはどのようなシチュエーションでメリットを感じることができるのだろうか。
「いずれは履歴書やエントリーシートが不要になるでしょう。ほかにも、講義の質疑応答内容やゼミの積極性などの情報も中立的な情報として提供できるので、これまで見えなかった部分も評価してもらえるようになります。
この可能性は新卒市場にとどまりません。私たちが歩んできた人生そのものが正しく評価できるようになるので、既存の教育の在り方やキャリアアップの価値観も、個人の適性を伸ばす方向へと変わってくるのではないでしょうか」
【実証実験中の関連サービス】
学生の継続的な努力を参画企業に届ける｢STARプロジェクト｣
現在の新卒採用のシステムでは学生は大学に入学後、学びを続けるインセンティブ（動機づけ）が少ない。また、学歴以外の情報をもとに評価したいと考える企業も増えてきている。こうした両者を結びつける目的で開始された。7600人以上の学生、11以上の企業が参加する。
プロジェクト内にトークンエコノミーを実装
プラットフォーム内に独自トークン「STARコイン」を導入。学生は自分の情報を企業に提供する対価としてトークンを獲得し、そのトークンを使いスキルアップの講座が受講可能など経済圏を構築。
ブロックチェーンによって学習歴が保証されれば、各学校教諭の時間や負担が大きい「小学校の通信簿」なども必要がなくなるかもしれない。また、新卒採用に偏った社会構造も変化。今よりも柔軟に、企業が必要とする人材像と経験を持った求職者がマッチングできる社会が実現する。
取材・文／峯 亮佑 イラスト／石山好宏
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