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消えない歴史にスポットをあてる「パラレル・マザーズ」と刹那を切り取る「ヒューマン・ボイス」、ペドロ・アルモドバル監督の新作2本が同日公開

2022.10.28

11月3日に、スペインの名匠ペドロ・アルマドバル監督による新作2本が、同日公開となる。

1本は人の背後に続く歴史にスポットをあてる『パラレル・マザーズ』、もう1本は限られた時間の限られた空間で起こる出来事にスポットをあてる『ヒューマン・ボイス』と、対照的な2本だ。

パラレル・マザーズ〜女性のセクシュアリティや生き方を問う

(C)Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

同じ産院で出産を迎えた2人のシングルマザーが、新生児を取り違えられる話だ。取り違えを発端にした映画と言えば、名作『そして父になる』(2013)がある。大丈夫か。

大丈夫だった。『そして父になる』は取り違えから時が経ち、赤ん坊が少年になってから事実が判明する。引き裂かれるのか、新たに繋がれるのかという親子愛に主眼が置かれた。

一方、『パラレル・マザーズ』では、赤ん坊のうちに判明する。こちらで重点が置かれるのは、シングルマザーたちの方、女性のセクシュアリティや生き方だ。優しく強い女性を演じてみせたペネロペ・クルスは、この映画でヴェネチア国際映画祭主演女優賞を受賞した。

写真家のジャニス(クルス)と、母と暮らす17歳のアナ(ミレナ・スミット)は、ともに初産で同じ産院にいる。だが、痛みに襲われパニックに陥るアナに、呼吸法を教え、励ますジャニスという出会いでは、自立した女性とまだ頼りない少女の差を感じさせる。それが、偶然の再会を果たした時、アナは変身している。そして、ジャニスとアナの間に、思いがけない展開が訪れる。

(C) Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

打ち明け話をするようになる2人、「私たちはみなフェミニストであるべきだ」とのメッセージTシャツを着るようなジャニスには、アナがシングルマザーになったいきさつは「なぜ訴えないの?」と言ってしまうものだ。

対して、ジャニスは、相手の男の事情を理解し、自分だけで生み育てる選択をしての出産だった。

また引き合いに出すが、『そして父になる』が父と息子の物語なら、こちらは母と娘の物語とも言える。取り違えられた赤子ではなく、シングルマザーとなった女性と、その母だ。

アナは女優の母(アイタナ・サンチェス=ギヨン)から自立しようとしている。やむを得ぬ事情があったとはいえ、新生児を抱えた、自身がまだ子どもみたいな娘を置いて、興行の旅に出た母だ。

アナは母に反発するも、実はけっこう似ている。それぞれに現れ方は違うが、良くも悪くも自分の欲望に忠実な親子だ。

(C) Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

ジャニスの方は早くに母を亡くしている。我が子に、ジャニス・ジョプリンからとった名前をつけたジャニスの母は、ジョプリンと同じように早逝した。

ジャニスが、母代わりとなって自分を育ててくれた祖母に託されたのが、祖母の父、ジャニスからは曾祖父の遺骨を探し出すことだった。スペイン内戦時、惨い仕方で殺され埋められた曾祖父だ。

そもそもジャニスが子を宿すきっかけが、それだった。ポートレートを撮ることになった法人類学者(イスラエル・エレハルデ)に、遺骨発掘を頼み、そこから2人の関係が始まる。だが、彼には、すぐにはジャニスと子を持つことができない事情があった。

(C) Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

遺骨発掘にとりかかるには、財団に申請を出し、認可されるのを待たなければならない。冒頭近く、そんなやりとりがあるのだが、話は、出産、子育てに移るため、うっかり忘れそうになる。

それが、後半に続いていく。ジャニスの台詞として、歴史を知ることで、自分の立地点を知ることができる、という意味の言葉がある。最後まで観ると、それがこの映画全体を貫くテーマだったことがわかる。

ヒューマン・ボイス〜ティルダ・スウィントンのほぼ一人芝居で進行

(C) El Deseo D.A.

こちらは部屋で男を待つ女が主人公。ティルダ・スウィントンのほぼ一人芝居だ。別れに向かっているらしい男女、荷物を取りに来るはずの男が来ない。女の苛立ち、悲しみが、ある臨界点に達していく。

スウィントンは、長い手足の上に、無駄な肉がそぎ落とされた小さな顔が乗っている、芸術品みたいな容姿の人だ。実際に美術館のガラスケースに展示物として収まるパフォーマンスをやってのけたこともある。

そのスウィントンが一分の隙もないメイクとファッションで、これまた芸術品のように美しい部屋にいる。

面白いのは、それがスタジオの中に組まれたセットであることを、最初から明かしていることだ。原作がジャン・コクトーの戯曲『人間の声』で、そのまま演劇的な表現にしている。

(C)El Deseo D.A.

だが、スウィントンの演じる女の感情の生々しさが、物語を絵空事にしない。部屋には荷物ともども捨てられたらしい女と、同様に捨てられたらしい犬がいる。犬を連れた女がやっと外に出る場面は、斧と容器入りのガソリンを求める買い物だ。これから起こることを、固唾を飲んで見守らずにはいられない。

『パラレル・マザーズ』は長編映画で通常料金だが、濃密で緊迫した30分の短編『ヒューマン・ボイス』は、割引料金での公開となる。

2本とも、11/3(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、新宿シネマカリテ 他公開
配給:キノフィルムズ

文/山口ゆかり ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
http://eigauk.com


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