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農業をしながら劣化した土を回復させる産学連携プロジェクト「リジェネレイティブアグリカルチャー」に秘められた可能性

2022.10.28

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

ユートピアアグリカルチャー×北海道大学×ソニーによるプロジェクト

洋菓子の製造・販売を主体とした「北海道コンフェクトグループ」(旧きのとやグループ)の「ユートピアアグリカルチャー」(以下UA)は、北海道・日高町で80頭の牛の飼育する放牧酪農と、新冠町で5000羽の平飼いの養鶏場を運営している。

自社牧場で生産した原材料を札幌のプラント棟で牛乳の殺菌や卵の液卵化を行い、札幌の工場で製造されている「CHEESE WONDER」は、発売開始から1年以上経った現在でも即完売状態が続いている人気の商品だ。

同じく自社牧場で環境にやさしい方法で生産された放牧牛乳、放牧牛乳の飲むヨーグルト、平飼いの卵8個×2箱のセットを毎月届ける、サブスクリプションパッケージ「GRAZE GATHERING」は、商品と共にUAの取り組みや放牧酪農にまつわる情報も提供している。

新たに今年2月に、UAが北海道大学内田研究室や施設設計メンバーと共に行うプロジェクト「FOREST REGENERATIVE PROJECT」(以下FRP)を開始し、「多様な動物と植物による森の活性化」をテーマに、札幌市の盤渓エリアにモデルファーム「盤渓農場」がオープンした。

盤渓農場が掲げるのは、農業をしながら劣化した土を回復させる「リジェネレイティブアグリカルチャー(環境再生型農業)」。山地に牛や馬を放牧させて「死んだ森」を蘇らせ、土壌を活性化して栄養素を循環させることで、森林の再生による温室効果ガスの吸収と、畜産・農業事業の両立を目指す。

「我々のビジネスモデルは『循環』。牛を適切に管理し飼育することで、土壌の健康度を上げ二酸化炭素の吸収・隔離を促し、土が健康になることで牛が食べる草も良くなり、それを食べた牛からおいしい牛乳が採れる。おいしい牛乳でおいしいお菓子ができて利益が伸びる、菓子製造の際に出るスポンジやクッキーのくず、いちごのへたなど養鶏場の鶏にエサとして食べさせる。その鶏がおいしい卵を産む。鶏の糞は牧場に肥料として使いより良い草が生える。こうした『循環』ができる土地をさらに増やしていきたいと考えていました。

しかし日本の消費者は放牧酪農の価値を知らない人が多く、『Graze Experiments』をステートメントに、放牧の価値を伝えるためさまざまな実証実験を行っています。世界的に牛はメタンガスを排出するなど環境に悪影響を与えると言われていますが、牛が悪いのではなく飼い方が悪いのであり、適切な土地、面積で、適切な頭数を飼育し管理をすれば、牛が出す悪影響をオフセット、もしくはマイナスに出来る可能性もあります。海外ではすでに研究が始められていますが、日本型のリジェネレイティブアグリカルチャーを行いたいとFRPをスタートしました」(ユートピアアグリカルチャー 代表取締役 長沼真太郎氏)

昨年、盤渓に約22ヘクタールの土地を入手したことからFRPがスタート。盤渓は札幌駅から車で20分ほどの場所にあり、自然豊かなエリアでありながら利便性が良い。メンテナンスされていない森林で、牛、馬の放牧酪農と平飼いの養鶏でリジェネレイティブアグリカルチャーを築いていく。

○森の活性化ABテスト

動物が入る場所と入らない場所を分け、それぞれの経年変化の違いを見ていくABテストを実施。牛や馬が森に入ることで草木を食べ、土を踏み、糞尿を撒くことで植物や土壌にどのような変化が起きるか、手を加えない森との比較を行うことで、定量的検証を行っている。

10月の本格始動の約1ヶ月前から、北海道大学から貸与された、寒さに強い北海道の馬種「道産子」7頭を山に放っている。馬には飼料は与えず、地面を覆っている笹などの草を食べて暮らしており、農場をいくつかの区画に分けてローテーションしていく形で草を食べさせている。すでに最初の区画は笹がほぼ無くなる状態になり、食べつくされ植物が回復する時間がなくなるのを防ぐため、現在は2か所目に移動している。

12月まで馬を放牧し、年明けの1月から4月までは北海道大学が管理する牧場で休ませた後に、来春からは本格的に牛と馬を放牧し、草木の成長、土中成分の変化、二酸化炭素の吸収・隔離の様子を観測する。

「森林の中で家畜を放牧させる『シルボパスチャー(林間放牧)』は、草原の牧草地よりも日陰や風よけが多く、自由に森の草を食べることで動物の健康状態も向上します。家畜の排泄物は土から草木に吸収され、森が豊かになると、土の中にも二酸化炭素を閉じ込めておけることができます。

盤渓の森には多様な生態系があり、さまざまな生き物、植物がありますが、ここ40~50年放置されていた土地で、私の専門である栄養素の循環として見ると、大人になりきってしまった、つまり二酸化炭素を吸収する能力がそれほど高くない状態の森なのです。

そのような場所で食糧を生産する、森が活性化してさらに二酸化炭素を蓄えるような行動を促していきたいという長沼さんの想いもあり、このプロジェクトに関わることになりました。

いまや地球環境の問題やSDGsに取り組まないと消費者から認められない、商品を買ってもらえない時代になりました。同時に、温室効果ガスを減らす、環境負荷を減らすだけでなく、そういったアクテビティから経済的なメリットを得られたり、街や地方が活性化することが両立できないと、持続的ではありません。

牛はメタンガスを出すから数を調整しなければいけないではなく、ここがモデルケースとなって、森の中で牛、馬を飼ってデータをきちんと取り、一般の方にも活動を通じた新たな食糧生産のあり方を伝えたいと考えています」(北海道大学大学院農学研究院 環境生命地球科学研究室 内田義崇氏)

盤渓農場の森は、北海道大学とソニーグループによるリジェネレイティブアグリカルチャーに関する共同研究においても、貴重な実証実験フィールドのひとつと位置づけている。今後、産学農の連携の中心地としてリジェネレイティブアグリカルチャーを実現するシステムの構築に向けた技術探索や有効性の検証を共に進めていく。

「地球環境の問題についてテクノロジーの力で、将来の暮らし、地球環境の維持、発展に貢献していきたいという想いがあります。私たちの持つセンシングの技術を活用し、地球上のあらゆる事象、例えば森林、海、河川などの情報を捉える、農業、畜産といった一次産業の状況を捉える、変化の予兆を捉えることで、データをAI、通信技術で人々の役に立つ情報としてフィードバックします。これらの活動により社会課題の解決、環境破壊の未然防止に貢献する構想を『地球みまもりプラットフォーム』と名付けています。この構想を実現するため、数々の実証実験を盤渓の森を含めたさまざまなフィールドで行っています」(ソニーグループ R&Dセンター Tokyo Laboratory 14 統括課長 迫田元氏)

日高と盤渓にセンサーを導入し、今まで見えなかったデータを収集し活用していく実証実験を実施。大気、土壌の状況を観測するセンサーや家畜の行動をセンシングするデバイスを用いて、環境改善、栄養やアニマルウェルフェアの改善による採算性向上で、林間放牧の発展に活かす。

○より自然に近づけた平飼いでの養鶏

新冠町の養鶏場も鶏舎の中で自由に過ごす平飼い方式を採用しているが、盤渓農場では平飼いをさらに自然に近い環境で飼育するために鶏舎の中に植栽を施し、通常1坪あたり15羽ほど飼うのに対して4割ほどの1坪あたり6~7羽を飼育する「外での放し飼いに近い環境」(長沼氏)で育てる。

野生に近い養鶏を行っているインドネシアを参考に、ランドスケープデザインを担当した、ワイルドサイエンティストの片野晃輔氏が、北海道全域や盤渓の植物を調査し、鶏が食べても問題ない植物を選定している。

鶏舎は2棟あり、1棟あたり500羽、合わせて1000羽ほど、メス100羽にオス5羽の割合で飼育しており有精卵を提供する。

えさは北海道産の小麦と生米ぬかを主体としたえさを与えている。さらにグループ会社から出るクッキーやスポンジくずを運んで、えさの総重量の20%以内というルールで与えている。味覚研究所の分析では、菓子くずをあげると、卵のコクや風味が増すことがわかり、循環のためにも味の向上にも役立てている。下記画像は新冠町の養鶏場で与えているえさ。

盤渓農場の入口に自動販売機を設置し、盤渓農場の生みたて卵の販売(1箱8個入・500円、1名最大3箱まで)を行う。オリジナルの自動販売機は、東京五輪の聖火台に携わったnomenaの武井祥平氏が設計。パッケージもオリジナルの形状で作った段ボール製。1箱、2箱、3箱のブースがあり、お金を投入して希望のブース番号を押すと扉が開く仕組み。

○農業資材を活用した美しさと機能を兼ね備えた「動物のための建築」

盤渓農場は鶏舎2棟、牛馬厩舎、ワークショップスペースと卵自動販売機を合わせた棟の計4棟を設置。施設設計はDOMINO ARCHITECTSの大野友資氏が担当した。

「農場の設計は初めてでしたが、盤渓の山でリサーチして、最新の『箱』を作るのではなく、前所有者の方が建てた農作業小屋がある風景に馴染む建築を作りたいと考えていました。農業資材として使われているパイプハウスの構造体を使って鶏舎仕様にカスタマイズ。パイプハウスにしたことで開放的な空間になりました。

ハウスには熱を反射する農業用シートを使い、風通しが良くて明るく、あまり室内という感じではなく外に近い開放的な空間に。日中はカーテンのようにシートを縛って開けています。断熱性の高い資材なので冬場はシートを下ろして建物内の保温性を高めることができます。1年を通じて環境を変えながら使える緩やかな建築にしました。

人が集まったり、研究したりするワークショップスペースでは、シートを縛っておくと向かいの鶏舎が見えて鶏が元気に駆け回っている様子をダイレクトに観察できます。また、卵を買いに来た人が隣にある鶏舎と鶏を同時に見ることができるレイアウトにしています。

UAらしい建築を考えたときにお菓子のようなかわいらしさを感じる設計したいと思い、建物を上から見ると三角形のケーキが並んでいるような佇まいにしています」(大野氏)

【AJの読み】農業や畜産を通じて土を活性化、栄養を循環させることで「人が食べていける」生態系を作る

UA代表の長沼氏は2011年に父の経営する「きのとや」に入社し、大ヒット商品「焼きたてチーズタルト」を開発。2013年にBAKEを創業し、2018年に退社後、スタンフォード大学客員研究員を経て2020年にUA社の代表取締役として再始動。今年は北海道コンフェクトグループの代表取締役に就任した。

BAKE時代は「焼きたてチーズタルト」「クロッカンシュー ザクザク」、写真ケーキカスタマズサービス「ピクトケーキ」など取材の機会が多くあったが、UA社を設立し放牧農場運営に着手、そこで生産された牛乳や卵を使った商品を展開すると聞き、菓子メーカーが原材料のために自社農場まで作るのかと驚いた記憶がある。

昨年3月の「CHEESE WONDER」発表会にて、長沼氏はUA設立の意図をこう話していた。

「原材料の追求の中で、こだわることが難しいのが乳製品。牛乳は様々な育て方をされた乳牛を混ぜ合わせ、安定させた品質で流通させている。ひとつの牧場でいくら良い牛乳を作っても混ぜられてしまうため、育て方にこだわるインセンティブが働きにくくなっている。

海外での経験から、お菓子は嗜好品だからこそ本物を使う必要があり、本物を使うならば環境負荷のかからない持続可能な方法で動物を飼育することに意味があるのではと考えた。自分たちで牧場や養鶏場を営みミルクや卵を生産して、それを原料としてとことんこだわった乳製品を作りたいとUAを立ち上げた」

日高、新冠に続く盤渓農場は、森林の再生によって温室効果ガスの吸収と農業の事業性の両立を目指した実証実験の場。環境再生型農業を実践して放牧酪農の価値を、消費者に情報発信していく。

一般開放している施設ではないが、駐車場から一番近い棟に卵の自動販売機を設置し、毎日採れたての卵を販売している。まだ構想段階とのことだが、今後はカフェやレストラン、ホテルなどの建設も視野に入れているという。

文/阿部純子


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