不定期の新シリーズ「イノベーションの種を育てる人」。
改革や刷新が織り込まれた新製品、重要なのは小さな改革や刷新、新機軸を積み重ねることなのだ。それが大きなイノベーションへと発展していく。
この連載は新商品を世に送り出した開発担当者や企業内研究員に、その発想と製品完成までの創意工夫と試行錯誤を、そして新製品がもたらした次のイノベーションの予感を紹介する企画である。
シリーズ第一回は寝具の西川株式会社が2018年に発売したお昼寝枕「konemuri」と、2022年リニューアル発売した「konemuri∔」。今回はその後編。ビジネスパーソンの6割以上が睡眠不足といわれる昨今、昼寝を推奨し昼寝用の枕をシリーズ化。昼食後の15分ほどの昼寝は集中力アップ、仕事の効率アップと、睡眠不足の不満の解消を促す。私のような不眠症気味の人間にとっては思わず膝を叩く逸品である。
西川東京本社の「ちょっと寝ルーム」で、お昼寝枕「konemuri」開発のメインスタッフ、商品第2部第3課の比護努さんと、お昼寝枕開発をアシストした西川社内の日本睡眠科学研究所の研究開発室のメンバー、安藤翠さんに話を聞いた。
前編はこちら
「ねんねにゃんこ」に「くるりんぽんた」
~広げようこねむり(お昼寝)文化~をキャッフレーズに、2018年8月に発売されたシリーズ、「熟睡のための枕ではないし、遊び心で気軽に楽しく使ってもらえるものにしたい」そんな社内の声を生かして、名称は「konemuri」。
8種類の枕のネーミングを紹介すると――
「ねんねにゃんこ」は円筒状の中に穴があり、両腕をその穴に入れて机にうつ伏す使い方ができるし、椅子に置けば腰のクッションにもなる。
「くるりんぽんた」は細長いクッションで、丸めて枕にしてもいい、椅子の背もたれにかけても使える。
クッションに穴が開いた「みみちゃん」は穴に顔を埋めてもいいし、二つにたたんで、ふんわり感を増すこともできる。他にも「ふんわりしばちゃん」「まったりきりんさん」等、形にもそれぞれこだわりがある。
「15分程度の“こねむり”なので、リラックスできる肌ざわりが基本だね」
「柔らかくて気持ちがいい、そんな感覚が伝われば」
「ニット生地がいいんじゃないか」
色は主にベージュ、「落ち着いた色にしたいと、デザインチームと協議をしました」と比護は言うが、いかにも寝具メーカーらしいカラーだと私もうなずく。
「konemuri」の発売後、翌年2月には東京オフィスの地下の食堂の隣に『ちょっと寝ルーム』を開設。安藤たち社内の日本睡眠研究所の研究員が監修した。お昼寝枕はもちろん、仮眠に適した照明等の調整制御もできる。昼食後の15分の昼寝を社員に奨励した。
睡眠不足の問題がクローズアップされる昨今、“パワーナップ(昼寝)”という言葉も、テレビやSNS等を通じて浸透しはじめた。昼寝=サボりではない。15分程度の仮眠は頭をスッキリさせ、集中力や仕事の効率を向上させることも知られてきた。働き方改革の時代である。東京オフィスの『ちょっと寝ルーム』には、今も企業の担当者の見学が絶えない。
インテリアとしての可能性
そうこうしているうちに、新型コロナウイルスの蔓延が降って湧いてきたのである。さて、このコロナ禍をどう考えるのか。
「僕らもリモートだし、みんな自宅で仕事をすることが増えるね」比護たち枕の開発スタッフ、社内の睡眠研究所の安藤、デザインチームの面々は、テレワークで会議を重ねた。
「私はお昼寝だけでなく、テレビを見るときに使っているし、在宅の仕事が増えて、『konemuri』の用途は広がったと思うんですよ」そんな安藤の言葉に比護が応える。
「昼寝用の枕をどこに置くのかという問いは開発当初からあったが、単なるお昼寝用の枕ではなく、リビングに置いてもおかしくない、インテリアの一つになる可能性があるな。バージョンアップを考えるときだ」
リモート会議でのそんな比護の提案に、スタッフたちは自宅のPCの前でうなずいた。
新シリーズは、部屋のインテリアとしてもおかしくないようなものにする。まず色柄を寝具っぽいベージュから、ブルーに衣替えした。ニット生地は柔らかくて気持ちいいが、夏場に暑苦しさを感じる面もあった。そこで年間を通して違和感を感じにくい、織り生地を採用。ブルーの織り生地は、リビングのインテリアにより馴染むものとなった。
アップデートした新シリーズ、『konemuri∔』(コネムリプラス)は2022年4月発売。「感触を決める枕の中身は、ツブツブのパウダービーズと綿の2種類、一つの枕にその2種類を使ったものもあり、使用する面を好みで選べます」(比護)。
新シリーズは全6アイテム。基本的な形状は初期シリーズに基づいているが、“昼寝枕”を意味する「パワーナップピロー」の名称を各アイテムの頭に掲げた。『konemuri+ パワーナップピロー mini Hug』『konemuri+ パワーナップピロー Arm』『konemuri+ パワーナップピロー Beauty』と、様変わりした横文字の商品名は、リビングのインテリアを意識したことがうかがえる。リモートワークの普及で、新シリーズの売れ行きは好調とのこと。
社会が変わる、ストレス解消に貢献
――発想と、既存の技術の工夫で誕生した昼寝枕シリーズ、このシリーズの売り上げが伸びたことで、次の展開が見えてきたと思います。
「室内のお昼寝は室内だけじゃない。家の中に固執する必要はないと思うんです」(安藤)
「外でも使える自分の昼寝の枕があってもいい。スポーツ観戦やバス旅行等では、クッションとして使ってもいい」(比護)
――自分用の枕を持ち歩くということですか。
「キャッチフレーズのように、こねむりを一つの文化にまで広げたいですね」
比護の言葉に、安藤が笑顔でうなずく。
私は思わずうなずいた。パワーナップという言葉が浸透し、昼寝の効用が広まった今、短い時間でも質のいい睡眠を得るために、自分用の携帯枕を持ち歩く。例えば電車の中でも自分の枕を使って、昼寝をする光景が当たり前になったとしたら、ストレス解消に果たす役割は大きい。社会貢献につながるイノベーションに発展する、そんな予感がしてくるのだ。
取材・文/根岸康雄
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