先進国のみで見ると日本の幸福度ランキングは最下位に近い
毎年3月に発表され、今年で10年目を迎えた国連の「世界幸福度ランキング」。社会保障制度の充実度や人生の自由度などを指標に、各国の人々がどれほど幸福であるかを示す統計だ。
発表されるたびに話題となるのが、北欧諸国がいつも上位であること。そして、日本はいつも 50位台と、低くもないが、さりとて高くもない順位に甘んじているという事実だ(先進国のみで見ると日本は最下位に近い)。
幸福上位国と日本との落差はなぜ生まれるのだろうか?この疑問を突き止めようと、個人レベルで活動したのが堂原有美さん。勤務していた広告会社を退職し、幸福度ランキング上位国23か国を訪れたというからすごい。
先般、その体験をまとめた著書『脱!しあわせ迷子 ―世界の幸福国を旅して集めた幸せのヒント―』(いろは出版)を刊行した堂原さんに、幸福上位国の実情と日本人が幸福になるためのヒントをうかがった。
■会社員時代の疑問が発端に
ーーそもそも、幸福度ランキングの上位国を訪ねようと思ったきっかけはなんでしょうか?
堂原さん:社会人として働いていたとき、ふと、「この仕事は誰かの幸せにつながっているのだろうか?」と感じました。
もっと人を幸せにできる仕事ってないだろうか?
そもそも「幸せ」って何だっけ?
そんな疑問の答えを探したいと思い、まずは幸福度ナンバーワン国家であるフィンランドに飛び立ちました。そこで道行く人に「どうして幸せなんですか?」と尋ね歩きましたが、答えは三者三様で、思ったようなヒントは見つからず。
ただ、ほとんどの人が言った「この国の教育がいいから」という言葉には驚き、ずっと気になっていました。
その後も会社員生活を5年続けましたが、辞める決意をします。
「幸せ探し」の続きをしたいという思いから、今度はもっとスケールを膨らませ、世界中の幸福度の高い国を巡り「幸せとは何か」を尋ね歩く旅をすることにしました。
堂原さんが訪れた北欧の1コマ
■個人が「ありのまままで生きられる」北欧諸国
ーー幸福度ランキングのトップには、フィンランドやデンマークなど北欧の国々が名を連ねます。実際に訪れてみて、「北欧の人々が幸せなのも納得」と思えるようなどんな事柄があったでしょうか?
堂原さん:個人が尊重され、どんな人にも選択肢がある、自分がありのまままで生きられる社会があることです。
一番驚いたのは政治で、「国民が政治を信用している」ということ。投票率は7~8割あり、自分の意志が政治に反映されやすい社会がありました。
教育は、子どものころから選択肢があり、学校ではどの科目をどれだけ学ぶかを自分で決めたり、小学校を自分で決める国もありました。
女性は「私たちは何もあきらめる必要はない」と言い、イキイキとして楽しそうでした。社会的に弱い立場の人たちへのバックアップも素晴らしく、とある小学校では車いすの子どもが入ったとき、数日でエレベーターが設置されて驚きました。
働く環境は余裕があり、定時帰りは当たり前、1年に1か月ほどの長い休みが取れます。職業選択も自由で、みんなが好きなことを仕事にしていて、大人の学校も多く、いつでも自分の興味に合わせた仕事を選択しやすい社会でした。
旅先で多くの人と出合い幸福とは何かを探った堂原さん
■家族や人とのつながりも大切
ーー北欧以外に、西欧、アフリカ大陸、中東、アメリカ大陸、オセアニア、アジアを巡っていますね。ものすごい行動力に脱帽ですが、その中でも幸福という観点から印象に残っている国の出来事やエピソードを教えてください。
堂原さん:他国を語る前に「2つの幸福度ランキング」の話をすると、幸せという概念が考えやすくなります。実は幸福度ランキングはいくつかあります。
先ほど述べた北欧諸国が上位を占めるのは国連のランキング。これは「生活満足度」を測ったもので、国の経済力なども反映されます。「選択肢があり、自己決定できる社会」というのが上位国の特徴です。
もう一つのランキングは、Gallup & WINが調査したもの。「幸せかどうか」という国民の主観で測られたランキングで、上位国はフィジー、フィリピン、メキシコ、ベトナムなど。貧しい国や危険な国も入っています。
「家族や人間関係が良好」というのが上位国の特徴。この2つを見るだけでも、幸せって何が大切なのだろうと興味が湧きますよね。
フィジーは、Gallup & WINランキングの1位常連国ですが、衝撃の国でした。小さな島国で、島全体が家族のように仲がよく、モノもお金も何でも貸し借りする。
私がバスに乗った時、カードのチャージがなくなって困っていたら、他の誰かが払ってくれて驚きました。また、私の知人はホストファミリー宅でTシャツを洗ったとき、なんとそこの家族が自分のTシャツを着ていて驚いたそうです(笑)。
ベトナムの学校に行き「幸せなときは?」と聞いたら、ほとんどの生徒が「家族と〇〇するとき」と主語が家族で驚きました。
メキシコでは毎週末は家族で集まる日になっていて、いつもパーティーをしていてとてもあたたかな時間が過ごしていました。幸せを感じるのに、家族や人とのつながりが大切だということを肌で実感しました。
もう1つの衝撃は、幸福国であっても「幸せではない」という人もそれなりにいたことです。そこで、結局「幸せって何なんだろう?」と、私の頭を悩ませましたが、最終的に出た結論は「幸せは自分次第だ」ということ。
当たり前ですが、幸せな人は、どこにいても幸せです。だからこそ、人はどこでも、どれだけでも幸せになれると思いました。そのためには、自分の心の声をしっかり聞いて、その声に忠実に生きることが大切なのではと思います。
幸福度ランキング上位国メキシコの家族と団らんする堂原さん
■日本人は「何に幸せを感じるか」をもっと考えていい
ーー日本に帰ってきて、まったく別の視点から日本という国と日本の人たちを見ることができるようになったと思います。われわれ日本人が、幸福を目指すために何を心がけるべきか、どんな行動を起こしたらよいか。そのあたりについて、教えていただけますか?
堂原さん:日本の人たちは「もっと自分本位になって、自分の幸せを考えてみてもいいのでは」と感じます。日本の人たちはまじめなので、いつも一生懸命で忙しそうで、他人を気にしがち。
でも、幸せは自分次第。まずは一旦、忙しい足を止めて、立ち止まる。
「自分はどうしたいか? 何が好きか? 何に幸せを感じるか」
胸に手を当てて考え、心の声を聴いてみる。それがわかれば、どんどん生活の中に増やしていく。まずは、自分にとっての幸せを考えてみることだと思います。
もう1つは、もっと周りの人に頼ることです。日本人は他者への迷惑を考えて遠慮しがちですが、実は、人は頼られるとうれしいものです。家族や周りの人との仲を深め、助け合える関係ができれば、自分自身の負担は軽くなり、心に余裕が生まれ、幸せにつながります。
何よりも、人にはあたたかさがあります。その関係を見直すことは、幸せになるためにとても大切なことだと感じますよね。
日本経済の凋落の言説を、そこかしこで聞くようになって久しい。だが、堂原さんの話を聞いて、経済のみならず「幸福度の低さ」という、根深い問題も真剣に考えるべきでは、と感じた。もちろん経済と幸福度は、多少はリンクする。しかし、そればかりではないことを我々は、肝に銘じるべきかもしれない。
堂原有美さん プロフィール
株式会社WTOC(ウトック)代表,「教室から世界一周!」プロジェクト代表
2019年に世界一周し幸福国を中心に27か国巡り、「幸福度と教育」の相関関係をリサーチした結果、日本の教育には “個の尊重や多様性”がもっと必要だと感じ「教室から世界一周!」プロジェクトを立ち上げる。世界42カ国120団体以上と連携し、国際交流の場を提供。今年5月には、初の著書『脱!しあわせ迷子 ―世界の幸福国を旅して集めた幸せのヒント―』(いろは出版)を上梓。
公式サイト:
http://doharayumi.com/
文/鈴木拓也(フリーライター)
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