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話題のDX小説第17話【TOKYO 2040】一日署長

2022.10.25

TOKYO 2040

コロナ禍を機に、一気に加速した「DX」だが、行きつく先にはどんな未来が待っているのか。一昨年の都知事選にも立候補した小説家、沢しおんが2040年のTOKYOを舞台にIT技術の行く末と、テクノロジーによる社会・政治の変容を描く。

※本連載は雑誌「DIME」で掲載しているDX小説です。

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【これまでのあらすじ】
 二十年のうちにデジタル化が浸透した二〇四〇年の東京。都庁で近々役割を終える「デジタル推進課」の葦原(あしはら)は、現実社会と量子ネットワークの両方から消えた住民データの調査を進める中、行方不明者の妹である橘樹花(たちばなじゅか)やサイバー警察局の水方(みなかた)に協力することになる。一方、同僚の櫛田(くしだ)の両親は過去に不慮の死を遂げていた──。

一日署長

 日曜、身支度を整えた櫛田は、毎朝そうしているように居間のデジタルフォトフレームに手を合わせた。

 木枠の中にハガキほどのサイズのモニターが埋め込まれ、若い頃の両親がはにかんだ笑顔で写っている。フォトフレームは両親が結婚式の引き出物に含めて配ったものというから、三十年ほど前の骨董品だ。

 小学生の頃に両親が相次いで亡くなり家族の写真画像が更新されなくなってからは、櫛田にとって思い出のアルバム代わりになっていた。

 櫛田は軽く目を閉じて、

「今日も一日、見守っていてください」と呟いた。

 目を開いたタイミングで画面が切り替わり、結婚する前の二人の写真になった。最近、その頃の母親に似てきたと感じることがある。

 脇の一輪挿しに飾っている花、今日の帰りに何か見繕ってこよう。

 櫛田はバッグを手に取って玄関へ向かった。

「めかし込んでどこへ行くんだ?」

 玄関で祖父の逸郎(いつろう)が声をかけた。

「そう。デートに誘われて」といたずらっぽく答えると、逸郎は目を丸くした。

 櫛田は続けて「最近高校生の女の子と仲良くなって。その子に誘われたから」と種明かしをした。

「珍しいことだな。どこの子だ」と逸郎は探りを入れる。

「うちと一緒。両親がいなくて、最近までお兄さんと暮らしてたって」

「そうか。おれはいつも通り。その辺をブラブラしたり、メタの寄り合いに顔を出したりだ」

「毎日同窓会してるみたいで、いいんじゃない」

「生存報告しておかないと、お迎えが来たと思われるからな」

 かつて逸郎は過保護で厳しい祖父であったが、櫛田が自分の意志で公務員として入都してからは、吹っ切れたようで、余生を楽しまんとばかりに過ごしていた。

 老いや衰えを気にせずに、若い日を思い出して縦横無尽に世界を駆け巡ることのできるメタバースは、今際(いまわ)の際(きわ)のギリギリまで人々を輝かせていた。

「じゃあ、行ってきます」

   ***

 待ち合わせ場所の駅前広場には、大きなトレーラートラックが停車していた。コンテナ部が開かれた中にはステージがあり、据え付けられたモニターでは、午前中に行なわれた「一日警察署長委嘱式」の映像が繰り返し流されている。

「一日署長って、ここでやってたんだね」

 佇んでいた櫛田に、後ろから橘が声をかけた。

「樹花ちゃん、こんにちは。ジャスト12時」

 丁度キャンペーンの始まりだったのか、ステージを囲んだ人々からどよめきが上がる。二人が目をやると、警察の制服に身を包んだアイ・ドロイドのアメノナツキが中央でマイクを握っていた。

「こんにちは〜! アメノナツキです。今日は新新宿(しんしんじゅく)署の一日署長としてみなさんが犯罪被害に遭わないよう、呼びかけをします!」

 モニターには「STOP!アバター・スナッチャー STOP!バーチャルギフト詐欺」の文字が躍っている。

「一つめは、アバター・スナッチャーに注意! 他人(ひと)からもらった衣装やプレゼントに乗っ取りスクリプトが紛れているかも。そういうときは、セキュリティの設定を強にしたり、メタバースのクリーニング店に一度預けて、綺麗にしてもらってから使おう!」

 櫛田はアメノナツキの呼びかけを聞いて感心した。

「クリーニング店があるなんて、仕事で使っているのとは違う世界の話みたい」

「あるよ。たまに使ってる。勝手に衣装経由で盗撮されたりもするんだって。櫛田さんが使ってるのは仕事用の?」

「そう。職員用のメタバースがあって、会議したりテレワークしたり、味気ない。都知事の会見で使ってるやつ見たことない?」

 橘は覚えがなさそうに首を傾けた。

 ステージ上のアメノナツキは会場の反応を窺いながらアピールを続けている。

「二つめは、バーチャルギフト詐欺に注意! わたしや他のアイドルさんにバーチャルギフトを送るときに、必ず送り先が正しいかどうか確かめて! とくに暗号資産を直接送るのはダメ。できる限り運営さんの用意した専用アイテムを買って、それを送るようにしてね!」

 それを聞いた櫛田が橘に「あれ、わかる?」とステージを指した。

「最近増えてるんだよ。推しにギフトしたつもりでいたら違う奴に送られるっていう。運営がアイテム用意してるところはそれを買って送ればいいんだけど、直接コインを受け付けてるのは危険。まずやんない」

「そして、メタバースで参加してくれてるみなさん! お手元に配ったフライヤー、これは安全なアイテムですので、ぜひコピーを作ってお友達にも渡してください~!」

 モニターの表示が、同時開催されているメタバース会場へと切り替わる。駅前広場に集まっている人数の何倍ものアバターが、画面を埋め尽くしていた。

「五年前に流行ったときよりすごい人気。ここだと近くの人しか来られないけど、あっちなら世界中からファンが集まってくる」

 リアルのアメノナツキはステージから降り、イベントの参加者に握手をしてフライヤーを配り始めた。

「私が小さかった頃、ああいう握手するイベントってできなかったんだよね。さて、樹花ちゃん。ランチ、何か食べたいものある?」

「ちょっと行ってみたいお店あるんですけど、いいですか?」

   ***

 夕方、一日署長の仕事を終えたアメノナツキが、スタッフとともに新新宿署から出て来た。

「お、あれか。一日署長やったアンドロイドは。人間そっくりだな」

 ドローン配送会社での聞き込みから帰って来た常田(ときた)は水方(みなかた)に言った。

「一日署長のイベント、無事に開催できてよかったです。身元不明だった遺体の、あれが大きな事件だったら中止になっていた」

「そうだな、今はホトケさんから少しでも照合できるデータがとれりゃ、どこの誰から芋づる式に家族のことまで、すぐに引っ張り出せるからな。随分と解決が早くなったよ」

「その代わりデータが消えていたら、本人がどこで何をしているのかすら、わからない」

 水方はこのところ頭を悩ませている行方不明者のことを思い浮かべていた。

「橘広海のことなら、今日少し進んだじゃねぇか」と常田は励ますように言う。 

「今日の聞き取りから考えると、会合をやっている政治団体の事務所に複数の配送用ドローンが仕出し弁当を届け、その中の一つに橘が潜んでいた。そうなります」

「ちょっと厄介な場所だが、そこにいるってんなら調べようがある」

「人の出入りがそれなりにある場所に、家族に何も知らせず自分に関連するデータを消している人間が行くというのも変な話ですが」

「金バッチには何かと縁があるな、お前」

 常田に言われ、水方は小さく首を振った。

「あの時も日本レガシー党だったので、正直心穏やかではいられません」

「メタバースの方で調べはついてないのか」

「ボットですよね。検索でピンポイントには見つけることはできませんでした。これから自律型のアバターだけを抽出してしらみ潰しに当たります」

「人が動かしてないものに、聞き込みなんてできるのかい」

「最近のなら、人間が操作しているものと変わらない受け答えをしますよ。あのアイ・ドロイドと同じです」

 水方は警察署の駐車場から出ていくアメノナツキのワゴン車を目を細めて見送った。

(続く)

※この物語およびこの解説はフィクションです。

【用語・設定解説】

フォトフレーム:2040年にはすでに立体映像を飾れるものがあり、古い写真もAIが補完して3Dに変換するだけでなく、箱庭やジオラマのように周囲や背景までも再現し、映像にもできる。物語での櫛田家は、思い出に手を加えたくないのか、2010年代のものを大事に使っている。

イベント同時配信:現在でもリアルタイムのライブ動画配信はあるが、出演者の所作を映像ではなく完全にトレースしたアバターの動きとしてメタバース内に配信する。2040年までには、より一層没入感を増したVR端末や、高度なモーションセンサーが登場していくことで一般化すると考えられる。

沢しおん(Sion Sawa)
本名:澤 紫臣 作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選にて9位(2万738票)で落選。

※本記事は、雑誌「DIME」で連載中の小説「TOKYO 2040」を転載したものです。

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