■連載/Londonトレンド通信
10月15日、ロンドン映画祭でギレルモ・デル・トロ/マーク・グスタフソン監督『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』のワールドプレミアが開催された。
Christoph Waltz, Cate Blanchett, David Bradley, Director Guillermo del Toro, Mark Gustafson, Gregory Mann and Burn Gorman attend the “Guillermo Del Toro’s Pinocchio” world premiere during the 66th BFI London Film Festival at The Royal Festival Hall on October 15, 2022 in London, England. (Photo by Lia Toby/Getty Images for BFI)
監督の子ども時代、母との思い出とも密接につながっているピノッキオの物語
鬼才ギレルモ・デル・トロ監督が、『ファンタスティックMr.FOX』(2011)のストップ・モーション・アニメを担当したマーク・グスタフソンと組んだ注目の作品だ。12月9日Netflix配信の前に一部劇場で11月公開もされる。
お披露目された10月15日は奇しくもピノッキオの声を担当したグレゴリー・マンの13歳の誕生日、そして、デル・トロ監督は前日に母を亡くしていた。
デル・トロ監督の子ども時代、母との思い出とも密接につながっているというピノッキオの物語、今回の映画では親子の愛が印象付けられる。
物語はユアン・マクレガーのナレーションで始まる。語っているのはコオロギのセバスチャン・J・クリケットだ。情感あふれる語りを聞かせるコオロギのマクレガー、最後には全体を締める歌も聞かせる。
まず語られるのは、ピノッキオがこの世に姿を現す前のゼペットじいさんの物語だ。ハリポタの学校用務員役でお馴染みのベテラン、デヴィッド・ブラッドリーが、苦しみのあまり酒浸りになってしまうゼペットじいさんの声を担当している。
この前段とも言うべき部分で、なぜゼペットじいさんがピノッキオを作ることになったかが明かされる。そこに戦争の影が色濃く落ちているあたりは、デル・トロ監督出世作『パンズ・ラビリンス』(2006)を思わせる。
悲しみ、苦しみが酒の勢いも手伝い、怒りとなって、思い出の木を切り倒し、衝動的に人形を作るも、荒削りのまま、放り出して寝てしまうゼペットじいさん、その間に木の精から命を吹き込まれて生まれたピノッキオという、あまりお子様向けではないスタートだ。
デル・トロ監督と言えば、アカデミー賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)で独特な半魚人を作って見せたように、個性的なキャラクター作りでも知られる。
今回も、ゼペットじいさんを飲み込む巨大魚、ムッソリーニや人形劇興行主など悪役、また、命を生み出す木の精、死を司るスパッツァトゥーラ等々のキャラクターが目を引く。
声を担当するのも、クリストフ・ヴァルツ(興行主)やティルダ・スウィントン(木の精)、ケイト・ブランシェット(スパッツァトゥーラ)と、個性の強いキャラクターに負けない主役級の俳優陣だ。
よく知られたピノッキオの物語から主要登場人物をそのまま引き継ぎながら、例えば村の別の親子、軍国主義に染まった父親と、しごかれるその息子を登場させるなど、かなり膨らませたストーリー展開にしてある。この本物の人間親子と、ほぼ親子のようなゼペットじいさんとピノッキオとの対比も、親子愛について考えさせるところだ。そして、ハッピーエンドなのか、悲しい終わりなのか、受け取り方で違ってくるであろう最後は、人間の生の有限性まで考えさせる。
原作より重層的で複雑な物語にしてあることに加え、怖いシーンや言葉遣いもあり、PG-13(13歳未満不適切)指定となっている。
ダークでエモーショナルな、まさに、ギレルモ・デル・トロのピノッキオだ。
文/山口ゆかり ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
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