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専用プログラム、アプリ、漢方薬、企業の人事担当者が取り組む従業員の睡眠改善施策

2022.10.14

ビジネスパーソンの約6割が自身の睡眠に不満を抱えていることが調査(※1)でわかっている。働き手のパフォーマンスが低下すれば生産性低下につながるため、問題が大きい。企業では人事施策の一つとして、睡眠施策に取り組まれている。今回は、その施策の例を2つ紹介する。

また、企業のこうした取り組みやビジネスマンの睡眠の質対策について不眠治療にもあたっている医師の見解も聞いた。

※1 ニューロスペース 2022年度「企業の睡眠負債」実態調査

法人向け睡眠改善プログラム

テクノロジーによって睡眠の課題を解決する「スリープテック」が、近年増えている。そのスリープテック事業を展開する株式会社ニューロスペースは、企業向けに提供する睡眠改善プログラムを提供しているが、2021年に早稲田大学による研究を通じて、その睡眠改善と生産性向上の効果を検証した。

●睡眠改善プログラムとは

同社が提供する睡眠改善プログラムは、睡眠計測デバイスを活用し、一人一人の睡眠の現状を可視化し、学びのコンテンツや専門家の伴走を通じて、より良い睡眠習慣の形成を目指すプログラムとなっている。

専門家は、従業員一人一人に対して、自分の睡眠状態や課題にあわせて、睡眠をより良くしていくための考え方や行動を提案し、自分の生活でできることから取り入れる。試してみて、眠りの変化が起こるか意識し、データで確認する。このPDCAを回していくことで習慣化を促すという。

●睡眠改善の効果が認められる

今回の早稲田大学 政治経済学術院 教授の大湾秀雄氏、同大学の教育・総合科学学術院 教授 黒田祥子氏、同大学 川太悠史氏による研究を通じて、プログラム参加者に睡眠改善の効果が認められた。

さらに睡眠が改善することで生産性が上昇することが統計的に明らかになり、プログラムの経済的効果は、1人あたり年間12万円と評価された。

●研究実施の背景

今回の研究を実施した背景について、同社の取締役COO 香山由佳氏は次のように述べる。

「コロナ禍における生活習慣や働く環境の急激な変化により、従業員の心身の不調や業務の生産性低下を招くことに対して、多くの企業が懸念を抱いており、そうした中、心身の疲労を回復させ、業務の生産性向上につながる“睡眠”への関心が高まっています。

正しい睡眠習慣や知識を身に付けることにより、働き方の変化に適応し生産性の向上を目指し、その効果を検証する目的として、企業と大学と共同で実施しました」

●一人で行うことと比べたメリット

睡眠改善プログラムでは、従業員が自分一人で改善を行うのと比べて、どのような利点があるのだろうか。

「このプログラムでは、同じ会社で働いている人が一緒に学び、行動に移す機会を持つことができます。参加者からは『他の人に悩みを共有できてよかった』『会社で自分と同じような悩みを持つ人がいて安心できた』『周りの人がやっていると知り、自分もやらなければいけないとようやく踏ん切りがついた』という声を聴くことが多くあります。これはまさに会社で実施するからこそ生まれる、『他者から学べる』という価値です。当社の睡眠改善プログラムを通じて、一人で取り組む以上のメリットが得られると考えております」

●人事施策として睡眠施策を実施する必要性

企業の人事が、従業員の睡眠改善のために施策を実施する必要性について、同社はどのように考えているのだろうか。意見を聞いた。

「企業が抱える健康コスト関連指標であるアブセンティーイズム(※2)、プレゼンティーイズム(※3)、医療費すべてにおいて、睡眠が影響を及ぼすことが明らかになっています(※4)。従業員が心身ともにいきいきと働き続けていくための健康投資の重要性に気付いている企業は、いち早く睡眠施策に取り組んでいます。

また、睡眠施策に取り組むことは、今課題を抱えている人への悩み解消だけでなく、従業員一人ひとりにとって長期的に、健康に役立つ機会を提供する機会にもなります。睡眠は一生を通じて変化し、生活や職場環境、役職等立場が変わっていく中でも大きく変化していきます。20-30代前半の頃は、40-50代の人が抱える睡眠の悩みは、若いうちはなかなか気づきにくいこともありますが、自分も年を重ねていくと、将来、同じような悩みを抱えるかもしれません。気づかない間に悪化していたということもありますので、そうなる前に立ち止まることができるというような気付きにもつながると考えています」

※2 アブセンティーイズム:仕事を休んでいる状態
※3 プレゼンティーイズム:健康の問題を抱えながらも出社するなどして業務を行っている状態
※4 経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~」

●今後の展望

今後、法人向けサービスについてはどのような展望があるだろうか。

「調査が行った直近の調査では、ビジネスパーソンはどの年代も、約6割が自身の睡眠に不満を抱えており、未だに多くの働く人が睡眠への課題を抱え、日中への支障が起こっていることがわかっています。私たち一人ひとりが心身ともに健康に働き続けていくためにも、都度、生じる睡眠の悩みに対して適切な改善策を取っていくことが必要です。

また、勤務間インターバル制度(※5)のような、企業において確実に休息時間を確保できる仕組みを提言・浸透していくことも、同時に必要と考えています。

多くの人が抱えている睡眠の不安や悩みをなくし、一人ひとりが最適な眠りを取り活躍し続けていくことができるよう、法人向け睡眠サービスの提供を通じて企業の持続的な発展を支援して参ります」

※5 過労死の防止対策として、2021年7月に厚生労働省が現在の普及率4.2%から、2025年度までに15%に引き上げる目標を掲げた。また、岸田政権の「新しい資本主義実行計画」にも「勤務間インターバル制度」という言葉が入った。

法人向け睡眠問題解消アプリ

企業向けの睡眠改善サービスの一つに、こんなアプリがある。株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントが提供する睡眠問題解消アプリ「Advantage Sleep(アドバンテッジ スリープ)」だ。

●科学的根拠に基づくプログラム

同アプリは、睡眠障害向け認知行動療法(CBT-I)を用いた科学的根拠に基づくプログラムに特長がある。

同プログラムは、不眠認知行動療法の研究者である渡辺範雄氏の監修に基づいている。

毎日の睡眠記録と行動目標の振り返りを自身で入力する「セルフモニタリング」方式をとっており、睡眠状態を可視化する。自動計測の機能では不十分になりがちだが、振り返りを促すことで、自身の睡眠に対する意識を高められるしくみだ。

個人の睡眠タイプに合わせた学習プログラムが組まれるうえに、禁煙対策や減量対策と違って利用者に制限や節制を求めるものではないので、長続きできるプログラムと言える。

【カウンセラーが個別相談に対応】

自分の睡眠に不安を感じるときなどは、チャット機能で同社に所属するカウンセラーに個別相談することができる。自ら意識して記録、悩んだときに相談できる環境があることで、行動変容につなげることができるという。

●人事施策として睡眠施策を実施する必要性

Advantage Sleepのように、人事施策として睡眠施策を実施する必要性について、同社の担当者は次のように述べる。

「『残業が多く、睡眠時間が削られる』、『異動、転勤、昇進など環境変化に直面し、緊張状態で眠れない』、『夜勤やシフト勤務など勤務時間が不安定』など、職場環境と睡眠は密接に関係しています。睡眠はメタボリックシンドローム、うつ病、認知症と関連性が強く、またプレゼンティーイズムによる損失が多大であるため、企業の生産性、ひいては企業価値に大きく影響します。こうしたことから、睡眠を自己責任問題で片付けるのではなく、企業課題として取り組むことが適切だと考えられます」

【ツールを活用することのメリット】

「アプリ等のデジタルツールであれば、企業の担当者が従業員の不眠の度合い、プレゼンティーイズムの状況まで管理画面で把握することができます。また利用者も個人のリズムで気軽にアクセスでき、コンテンツでの学習や、専門家に対して会社を介さずにチャットでの相談ができます」

●今後の展望

今後の展望としてどんなことを想定しているのだろうか。

「従業員の健康管理を経営的視点から考える『健康経営』の動きが拡大しているいま、従業員の健康リスクが企業の生産性に大きく影響することが認識されています。

しかし睡眠に限らず、問題を引き起こすその原因をとらえ、解決していくことが必要と考えています。ストレスが生活習慣の乱れを引き起こすなど、フィジカルとメンタルの関係は密接に関わっています。またプライベートにおけるライフイベントも睡眠に大いに影響します。問題の背景にある要因を把握するために、さまざまなデータを集約し分析するためのDX化が加速するものと考えられます。企業人事が持っているデータを掛け合わせて、何が本当の課題なのか見極め、対処していくことが必要だと考えます」

企業の人事施策としての睡眠改善サービスは、どんどんそのやり方も進化していることがわかった。

ビジネスパーソンの睡眠悩み 医師の意見

ところで、睡眠に関して悩みを抱えた場合に、不眠外来など、医師に診てもらう方法もある。実際、どのような悩みが相談されているのか。

睡眠に関する治療も行っているたまきクリニック院長の玉木優子氏にインタビューを行った。

【取材協力】

玉木優子氏
たまきクリニック院長
東京・自由が丘のたまきクリニックで心療内科・漢方を中心に西洋医学と東洋医学を統合させ心と体の両面からの医療をおこなっている。複数企業・老人ホーム・心身障害者センターの産業医・学校医・園医も兼務。
https://www.tamaki-clinic.com/

――ビジネスパーソンが睡眠について相談に来ると、どのような悩みが多いですか?

「ビジネスパーソンの睡眠の相談は、寝ても寝ても眠い・眠いのに寝付けない・夜中になんども目が覚めてしまい熟眠できない・朝起きると体がだるい・居眠りしたり日中ぼーっとしてしまうといった睡眠に関するものに加え、人間関係のストレス・過重労働・適応障害などから意欲・気力の減退・集中力低下・仕事の効率が落ちた・憂鬱・イライラ・焦燥感などが多いです」

――多くのビジネスパーソンが睡眠悩みを改善するためには、何が最も欠けていると思われますか?

「睡眠にはメラトニンというホルモンが関わっています。人は朝、太陽の光を浴び、脳の松果体からメラトニンの分泌が低下することで覚醒し、約15時間後に再度、分泌が高まることで、自然な眠りに誘われます。

ビジネスパーソンの不眠は、主に仕事による心配事やプレッシャーでイライラ・不安・興奮が静まらなかったり、不眠不休に近い過重労働状態等が背景にあり、自律神経のバランスが崩れて、活動を司る交感神経が優位になってしまうことが原因と思われます。

改善のためには、夜は0時には寝て朝になったら起きるという人間本来のリズムに合わせた規則正しい生活に基づき、休養を司る副交感神経を優位にすることが大切です。睡眠を向上させるために最も欠けていることは副交感神経への切り替えだと思います。副交感神経の働きを高めるためには考え過ぎないこと・深呼吸・軽いストレッチ・入浴・ゆったり心地よく過ごす・笑いなどが有効です」

――睡眠悩みに対して、生活指導のほか、漢方薬を処方されることもあるとうかがいました。どのような漢方の種類が多く処方されていますか?

「漢方では眠りには『気=エネルギー』が関連し、不眠の要因となる疲労やストレスは気の巡りを邪魔して滞らせてしまうと考えています。不足している気は補い、過剰な気は鎮め、気の乱れを整え・気の流れを良くして心を落ち着かせ、不眠の状態や体質に合わせ自然な眠りを妨げる原因に働きかけ良い眠りに導いていきます。

よく処方するものとしては心身が疲れて眠れないときは『酸棗仁湯(さんそうにんとう)』や『補中益気湯(ほちゅうえっきとう)』、虚弱体質の不眠には『加味帰脾湯(かみきひとう)』や『帰脾湯(きひとう)』、うつで眠れないときは『半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)』や『抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)』、興奮して眠れないときは『抑肝散(よくかんさん)』や『柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)』等があります。

漢方はその人の体質や体力・生活様式などの環境要因を含め様々な要素から薬を選び、不眠が起こる原因を解消し、より自然な形で睡眠に導く効果がみられます」

――近年、企業は人事施策として、従業員の睡眠改善のための動きを活発に起こしている状況を受け、専門医としてどのように見ていますか?

「睡眠不足はうつ病等の疾患を引き起こし、またうつが睡眠不足を悪化させるという悪循環を作ってしまいます。

企業が従業員の睡眠改善のための動きを活発に起こしているということは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する健康経営の観点からも、労働生産性の向上につながる良いことだと思います。

クリアな頭なら短時間でできることも、睡眠不足や過労状態だと、2倍近く時間がかかってしまうこともあります。そのようなことを続けていると慢性疲労状態となり、やがて抑うつ状態となり、休職や退職の原因となることもあります。

従業員への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等、組織の活性化をもたらすことにもなると思います」

ビジネスパーソンの多くが悩む睡眠のこと。いまは多くの施策が組織的に行われている。各自、睡眠改善に取り組むにしても、なかなか一人ではできないこともある。そうした中、組織的なアプローチは有効な面があるようだ。

取材・文/石原亜香利


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