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新人監督が手がけた傑作!さっぱり先の読めないエンタメ映画「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」

2022.10.21

国内外で5000万回以上再生されたYouTube短編映画『ハロー!ブランニューワールド』(動画名:もう限界。無理。逃げ出したい。)、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品となったリモート演劇と映像での表現と格闘してきた竹林亮。1館からスタートして36都市にまで拡大公開されたドキュメンタリー『14歳の栞』に続き、映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』が公開される。劇場映画2作目にして、強烈な吸引力を誇るエンタメ作。その中身とは?

やたらにリアリティのある配役

「まるで同じ日々を繰り返しているようだ…」

 仕事の山に埋もれながらいつもの仕事場でパソコンを叩き、ふとそんな感覚に陥ったことがある人は多いかもしれない。特に、徹夜明けの頭でへろへろのときは。映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』の冒頭、主人公である吉川朱海はまさにそんな状態だった。クライアントの無茶振りのために仕事は終わらず、ついには会社にそのままお泊まり。そこに後輩二人組から真顔で、

「吉川さん、信じられないかもしれないですけど、僕たちタイムループしてます」

とか言われても、はぁ!?みたいな。「いやいや仕事というものは、虚しい繰り返しが大半。そもそも地道でつまらないものなのだよ」などと、先輩らしい小言のひとつも言いたくなるだろう(別に吉川がそう言うわけではなく、心底あきれた顔をするだけだが)。やれやれ…みたいな感じで、映画はまず、吉川の怒涛の一週間を描いていく。

 吉川は小さな広告代理店で働いている。なんだこれ!?みたいな新商品を担当していて、そのプレゼン資料を作成中。使えない外注、勝手なクライアント。降って湧く仕事の山に埋もれ、今日も彼氏とのデートは何度目かのお預け決定。「この仕事が終わったら、憧れの人がいる大手広告代理店に転職する」という野心を秘め、やらなきゃいけないことをばったばったとなぎ倒すように片づけていく。

 吉川は、つまりがかなりデキる女である。でも美人で勝気でメイクもスーツもビシっとキメて…という、映画やドラマによく出てくる典型的なそれでは全然ない。かといってケタ外れにブサイクでもなく、「いやこういう人いるよな」とか「かつて机を並べたあの人に似ている」と思わせる、とてもリアリティのある存在。

 それは演じている円井わんに負うところも大きい。円井わん?かなりのドラマ好き、邦画好きなら、この不思議な響きの名前を持つ女優のことが気になっていたかもしれない。現在24歳、まさにこれから!の人なのだが、普通に埋没するただの地味な人ではなく、ナチュラルなままで物語にリアリティをもたらす存在として、映画の中心に堂々と存在する。

 彼女だけではない。どこかかわいげのある永久部長役のマキタスポーツ以外、顔と名前が一致する俳優さんは特に見当たらないように思える。でもそれは、この映画にとってマイナスどころかプラスに働くよう。名のある俳優の場合、これまでに演じてきた役柄や本人のキャラクターは既に観る側に織り込み済み、という配役であることも多い。この俳優がやるならきっと悪い人ではないだろうとか、その裏をかいて黒幕のパターン?とか、物語を先読みする楽しみを少しだけ奪う面もある。

 でもこの映画でその心配はない。なにがどう転んで、どっちの方向に進んでいくのか?とてもオリジナルな面白さを備えた脚本の持ち味を損ねることなく、どうなるのか全然さっぱりわからない!という状況に観客を置きざりにしてくれる。

お仕事✕タイムループ

 それでいてこの脚本は、ちょっとビックリするくらいに洗練されている。ジャンルでいうなら〝タイムループもの”。でも一言でタイムループといってもそのルールはいろいろだったりする。ループするのは主人公だけだったり、自分の意思でそうなったり、繰り返すのは一日だけだったり。この映画の場合、タイムループするのはオフィス内の社員全員、そして期間は一週間。本人たちの意志に関係なく繰り返される。

 問題は、いかにタイムループを抜け出すか? そのためにはまず原因を探る必要があると、映画好きの社員がストーリーを導いていく。「ああそれは『恋はデジャ・ブ』ね」なんてセリフで、これまで数々の名作を生んだタイムループものが引き合いに出されたりして、もしかしてこういうこと? みたいな感じで、本物の新しい月曜日を迎えようと四苦八苦していく。

 問題解決の手順も気が利いている。まずタイムループに気づいた若手社員の二人組が、「なに寝ぼけたことを言ってんの!?」という、当然の反応を示す主人公の吉川に事態を気づかせようと動き出す。そうして吉川を巻き込んだ二人組は、「上司に話を通すには、まず身近な同僚から」とボトムアップ方式を採用。少しずつ仲間を増やしていく。

 やがて舞台が小さなオフィスであることが、タイムループものとしての特性とどんどん化学反応を起こす。会社員なら、まずは一週間を単位にスケジュールを考えるだろう。休日を引きずって身体の重い月曜日、まだ週の真ん中!?と仕事の辛さを実感する水曜日、今週中にやらなきゃいけないことと格闘しながら週末の予定に心を躍らせる金曜日、またやってきた長い一週間を思ってどんよりする月曜日――。だからこの映画は一週間を繰り返すのか!勝手にそうしてなにかを悟った気になったころ、「そういえば上司って、部下にはっぱをかけるために同じようなことばっかり言うよな~」などという〝会社員あるある”が、この映画では「それタイムループしてるせいだから!」という意味のギャグになる。また同じ一日を繰り返しているから、先回りしてちょっと上をいく行動で相手をギャフン!と言わせられるという、してやったり!な爽快感も、「いやそれタイムループしてるだけじゃん」というツッコミになる。

 会社員の生活って、まるでタイムループしているよう。そんな現実をそのまま描いたようでもあるのに、なんか笑える。それでいて、これをクリアすればいまとは違う景色が見えるはずだと息を止めるようにして必死に働いても、また同じような月曜日しかやってこない…。そんな、働く大人の哀しみを描き出している気もしなくもない。よく見たらタイトルは〝MONDAYS”、月曜日の複数形になっている。

 でもこれは同じようなブルーマンデーを繰り返すしかない現実を比喩的に描くSF、ではない。そこでは終わらないのがこの映画のミソ。猛烈なスピードで展開する物語にあっという間に飲みこまれたころ、じつはこの映画の真のテーマがあらわになる。それはなんか、妙にハートウォーミング。そして人生に行き詰まり、夢を見ることを忘れた大人の背中をどど~ん!と押すステキな人間ドラマでもある。

 こんな極上のエンタメ作をものにした監督の竹林亮と脚本の夏生さえりの今後の展開に要注意。そしてとにかく、白いハトのことは忘れないで!

(作品データ)
『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
(配給:PARCO)
●監督:竹林亮 ●脚本:夏生さえり・竹林亮 ●出演:円井わん、マキタスポーツ ●10月14日より東京・渋谷シネクイント、大阪・TOHOシネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマにて先行公開。10月28日より全国順次公開

©CHOCOLATE Inc.

文/浅見祥子

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