長期的な資産形成には「日本株は向かない。米国株のほうがよい」という人がいる。経済成長率も株価の伸び率も、はたまた給料の伸び率ですら、日本が劣っているためだ。しかし、経済情勢によっては必ずしも米国株がよいとは言い切れないし、株価の伸び率が低いというのは、言い換えれば「値動きの幅が小さくなる分、投資リスクが抑えられる」というメリットもある。混乱する世界経済を横目に、上手く日本株に投資できれば、資産形成の一助になる。
三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト
市川雅浩さん
国内外の銀行で長年市場調査業務や為替トレーディング業務に従事した経験を持つ。現職では主に、日米欧や新興国などの経済や金融市場の分析、その情報発信を行なう。
※こちらの情報は取材時(8月末時点)のものです。
「低インフレ×コロナ再開遅延」が日本株式にはプラスに?
米国では深刻化しているインフレだが、日本ではどうだろう。22年6月度のデータでは、東京都区部の消費者物価が前年比+2.3%である。食料品や日用品などの値上げが連日のように報道されているとはいえ、米国の同値が+9.1%であるため、インフレの深刻度は米国の比にならないというのが実情だ。また日本の中央銀行である日銀は、金融引き締め策を当面行なわないことを表明しているため、株価にとってはプラスの状態であるといえる。
「日本はコロナ禍後の活動再開が欧米と比べて遅れていましたが、再開後は一定の経済効果が見込め、日本株に優位な材料となります。
また、国内企業は資源価格の急騰による原材料費の上昇などから、22年度の業績をかなり控えめに見積もっています。すでに原油価格の上昇は一服しており、米国のインフレピークアウトが早々に確認されれば、中間決算(例年10月中旬から11月上旬に発表)で業績予想を上方修正する企業が増え、日経平均株価2万9000円台の回復もみえてくるでしょう」
しかし、世界各国で軍事衝突やインフレ問題、依然続く半導体不足問題などを抱えている情勢下で、日本もどのような影響を受けるかは引き続き不透明な部分もある。
「そのような状況では一般に、通信をはじめ大手百貨店や鉄道など、大型で景気の影響を受けづらい『ディフェンシブ銘柄』が選好されやすいため、これらへの投資を検討してもよさそうです」
通信系のディフェンシブ銘柄でいえばNTTが投資先の有力候補にあがる。混乱している海外マーケットの火中の栗を拾わず、堅実な日本バリュー株への投資こそ「守りの投資」の王道といえる。
割安な日本株は今後、緩やかに上昇基調へ
「2022年8月末の日経平均株価の予想利益ベースのPERは約13倍で、コロナ禍前の5年平均の約14倍を依然下回っています」(市川さん)。上図が示すように、割安感が拭えていき、2023年には日経平均株価3万円が回復する可能性も秘めている。
大型×割安なバリュー株のパフォーマンスが良好な局面に
上図は先進国・新興国の株価の値動きを数値化したものである。ハイテク系の業種で、景気や金利の動きに敏感なグロース株のパフォーマンスが低く、資本財をはじめとした、大型で業績が安定しているバリュー株のパフォーマンスが良いことがわかる。バリュー株の中でも特に景気後退の影響が受けにくい医薬品や食料品、社会インフラ系の企業に投資しておくのがよさそうだ。
ディフェンシブ株のメリットとデメリットは?
景気の後退でも株価が落ちにくく業績が安定しているのが、ディフェンシブ株のメリットだ。仮に米国の金融引き締めの影響をうけ日本の景気が後退したとしても、ディフェンシブ銘柄を保有しておけば、下落リスクが抑えられる。一方、日本の景気が上向いてきたりすると、ディフェンシブ株の投資パフォーマンスが悪くなるデメリットもある。
実はNTTグループはDXにも脱炭素にも強い
NTTグループはディフェンシブ銘柄の代表格。実際、コロナ禍の影響をほとんど受けることなく12期連続増配した。同社の2022年第1四半期決算説明資料によれば、不動産・エネルギー事業の伸び率が高いことがわかる。社会課題となっているDXや脱炭素といったサステイナビリティーの取り組みが今後の業績向上に貢献しそうだ。
取材・文/久我吉史
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