Z世代の学生たちは何を考え就職先を決めているのだろうか。コロナ禍を挟んで、働き方の多様化が一気に進む中、2020年に大学生になったコロナ禍ネイティブの学生の就活が本格化している。インタツアー主催の新卒採用セミナーで、Googleで人材開発や組織改革を担当してきた起業家であり経営コンサルタントのピョートル・フェリクス・グジバチ氏のアドバイスを聞いてきた。
Z世代の仕事観のパラダイムシフトを把握しているか
10月初旬、学生と企業のミスマッチを生まないためにの採用セミナーが開催された。主催したのは、企業と学生の間に早くから接点をつくることで「リレーション採用」を薦める新卒採用情報プラットフォームのインタツアー。ゲストにピョートル・フェリクス・グジバチ氏が登場した。
ピョートル・フェリクス・グジバチ:プロノイア・グループ株式会社代表取締役。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経てGoogleで人材育成に携わる。2015年にプロノイア・グループ設立。著書に『NEW ELITE』、『世界最高のコーチ』ほか。
はじめにインタツアーによる興味深い調査を紹介する。「大学2・4年生および社会人2年目の就職活動の実態調査」だ。
面接で話に脚色をしてしまうことについて、大学4年生の41.5%、社会人2年目の43%が、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答。
企業側は自社を良く言うことが多く、信用しにくいことについて、大学4年生の60.5%、社会人2年目の58.1%が「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答。
(調査/期間:2022年9月16日〜20日 調査方法:インターネット 対象:東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、京都府在住の19歳〜25歳の男女580名)
この結果は、企業と学生間に存在する距離の大きさを示している。お互い知らない者同士であれば当然かもしれない。しかし、たとえバレないとしても脚色した自分が採用されるのは、あまり幸福な結果ではないだろう。
「採用はマーケティング、採用はPRです。自分たちをよく見せる、大きく見せるなど適切でない情報発信は逆効果。結果的に早期退職を招いてしまいます」と、ピョートル氏は双方にとって時間もお金も大いなるムダを生むことを警告する。
セミナーでピョートル氏は前提として、とても本質的なことを指摘した。
価値観がキャリアを変える。そして価値観は時代によって、世代によって異なるということだ。パラダイムシフトという言葉が聞かれるが、働き方にも当然パラダイムシフトはある。下は、ピョートル氏が示した世代ごとのパラダイムの傾向だ。
「このように今の社会にはこの4世代が同居しています。世代によってパラダイムは変わり、価値観が異なることを、採用する側がしっかり把握していることが大事です」
採用側が自分たち世代の価値観に捕らわれていれば、Z世代とミスマッチが生じるのは当然である。価値観の違いの見方について下の図を示した。
スマホネイティブでSNS時代のZ世代の価値観・社会常識は、管理職世代(多くは40代以上だろう)の想像以上に異なるかもしれないことを知っておくべきだ。
“自己認識が低い”学生が多いことを認識するべき
セミナーでは、インタツアーの代表取締役社長・作馬誠大氏からピョートル氏にこんな質問がされた。
「一般的な学生は社会との接点が少ないのではないか? どのように認識されていますか?」
早くからインターンに参加したり、企業訪問を行うような積極的で意識の高い学生ばかりではない。そこまで「仕事」に意識的ではない学生をピョートル氏は、どのように見て、どこに課題を見ているのだろうか。
「ちょっと物議を醸すかもしれませんが、」と前置きしつつ、ピョートル氏は3つの傾向をを挙げた。
「ひとつには自己認識が低い」「次に社会的、専門領域の知識が足りない」「もうひとつは、自分のまわりにある機会に気づけていない」。あえてひと言で言うなら、「非常にシャイで、自分を知らなすぎる」印象だと語る。
特に、気になるのは1つめの自己認識の低さだ。ピョートル氏は「文化的な要因、教育制度、個人の価値観など原因は複雑にあると思いますが、“自分が何者か”の認識が低いということです。自分は何を大切にし、何を正しいと思い、何を仕事に期待しているのか。いわばアイデンティティの部分が確立していない」と説明した。
企業側からすれば、自己認識(アイデンティティ)が確立していない学生と、どう向き合うのか。ミスマッチを減らすために策を講じなければならない。対策としては、「なるべく多く、接触する機会を持つこと」を挙げた。
新卒一括採用に意味はあるのか?
日本特有といわれる新卒一括採用の見直しも議論されはじめている。
ピョートル氏は、新卒一括採用は「高度成長期には、マクロ的には意味があった」、学生からすれば「あるタイミングに決められる」メリットはあったとしつつ、「これだけ産業の価値が変わり、ゼロイチを生み出す人たちを集めたいとしたら一括採用は適切ではない」とバサリ。
採用形態の多様化が必要なのはもちろんだが、一方で、学生が自己認識を深めていくことも必要。「インターンシップを早くから、できれば高校生でも、できるだけ早い段階で社会との接点をいかに増やすかがポイントになる」と指摘する。
そして採用後、新卒社員の早期退職をいかに避けるかについても語った。大事なのは、企業文化だという。
「リレーションという言葉は好きです。仲間になれる信頼関係を作れるかどうかは、とても大事。そして関係性。役割分担はもちろん、この会社は自分に何を期待しているのか。どういう行動が求められ、どういう行動が評価されないのか。日常業務の中で明確にわかることが大事だ」と話す。
コロナ禍ネイティブの学生は自信をなくしている
大学入学時からコロナ禍でオンライン授業を余儀なくされた2020年度生は、現在3年生。インターンなど就活の真っ最中だ。コロナ禍ネイティブともいえる学生の採用には、どんな点に気をつけるべきだろうか。
画面越しで人と接する時間が長く、リアルに接する機会が極端に少なかった影響について、ピョートル氏は次のように語った。
「最近の大学生は自信をなくしていると思う。人と話していて、自分がどう見えているのか、自信がない。だからどう自己アピールしていいのかわからない。コロナ禍以降、新卒だけでなく中途採用の人でも離職してしまう人が増えています。日本はハイコンテクスト文化なので、リアルに顔を見て、接することは非常に大事だと思います」
ハイコンテクストとは、文化の共有制が高いがゆえに言語以外の表現(声のトーンや顔の表情、仕種など)によってコミュニケーションすること。フラットな画面越し、ライトアップされた顔、間の取りにくいオンラインコミュニケーションでは、かすかな言葉のトーンや間の変化をキャッチアップしていくのは、けっこう難しい。
リアルに濃密にコミュニケーションできるはずの学生時代に、その機会が奪われた大学生に対し、ピョートル氏は「企業は採用後、リアルなサポートをしてあげることがとても大切になります。会社の新卒研修、同期と遊びに行った、楽しかった、そういう共有体験ができるよう、意図的にコミットメントしていくべきでしょう」とアドバイスした。
コロナ禍で定着したリモートワーク。採用活動も、最終まではオンラインで面接を行う企業が増えているそうだ。ミスマッチを減らし離職者を減らすために、リアルな接触機会をなるべく多く、なるべく早くからつくること。これがピョートル氏とインタツアーからの、Z世代に限らず、これからの採用に求められるポイントだった。
取材・文/佐藤恵菜