ラッカー盤、ライブ、ハイレゾを贅沢に聴き比べ!「Laidback K-stanza ライブ early autumn」試聴レポート
2022.10.02■連載/ゴン川野のPC Audio Lab
レコードの原盤をライブで再生
オーディオ好きが高じてライブスタジオにまで発展したのが、K-STANZAである。ここでおこなわれる井筒香奈江さんのライブで、オーナーが購入したラッカー盤、井筒香奈江「Another Answer ~ Special Edition」を再生するという企画を知った。なるべくいい音で再生したいというオーナーの希望をかなえるべく、TOP WINGに協力を仰ぎ「青龍」を借用。当日はライブの休憩時間にラッカー盤、ハイレゾ音源、最後に井筒さんの生歌まで聴けるというオーディオファンに夢のような3本立てが実現した。
受注生産で販売されたラッカー盤
レコードの溝はどうやって彫っているのか。見た目はレコードプレーヤーの親玉のようなカッティングマシンと呼ばれる機械があり、カッティングエンジニアが職人芸を駆使して溝を彫っているのだ。これがラッカー盤と呼ばれるレコードの原盤であり、直接溝を彫っているので音がいい。しかし、柔らかい素材なのでプレーヤーの針で溝が削れてしまう。そもそも聴くためのものではなく原盤なので、一般には手に入らないのだ。これを今年の「OTOTEN2022」のイベントで再生したら、非常に音が良かったので受注生産で販売しようという話が持ち上がった。
即座に購入を決意して001番のラッカー盤を手に入れたのがK-STANZAのオーナーである。そのお披露目を録音した本人のライブの休憩時間に、しかも、その後で同じ曲を歌ってもらうという大胆な計画を立案した。もちろん、ガチな聴き比べではなくおあそび企画なのだが、貴重なラッカー盤が聴けるとあって観客も興味津々で集まった。
ラッカー盤は黒いジャケットに井筒さんの手書きでタイトルとサインが入っている
レーベルはなく、原盤に直接手書き、A面に3曲、B面に2曲を収録
Laidbackのリハーサル風景、左右にあるフロア型スピーカーDIATONE『2S-3003』でラッカー盤を再生する
独自発電方式でハイスピード、高解像度な青龍
TOP WINGの佐々木原幸一氏が情熱を傾けて開発製品化したカートリッジが「青龍」である。最大の特徴はコアレス・ストレートフラックス方式の採用。カートリッジに2個の空芯コイルをV字型に配置して、針の根元にある磁石の動きを感知して発電する仕組みだ。発電部分が剥き出しなので扱いには細心の注意が必要とされる。出力はMC型に近いので、MC対応のフォノイコライザーに接続する。今回はMYTEK「Manhattan DAC II」のMC用フォノイコライザーを使用、電子ボリュームで音量調整してパワーアンプPASS『X-350』に接続した。
青龍は振動を抑えるため重量が12.3gと重く、専用のシェルが付属。シェル込みの重量は30g
カートリッジ正面に漢字で製品名が、サイドにはTOP WINGのロゴが入っている
ラッカー盤の音を100%引き出す!
レコード盤と言えば、無音部分でスクラッチノイズがしたり、サーッという残留ノイズが出るイメージがあるが、ラッカー盤と青龍の組み合わせでは、CDを再生したかのように無音から、フッと音が立ち上がってくる。音は鮮明で輪郭がクリアー、ボーカルは繊細で、艶やかで、なめらかだ。レスポンスが良くハイスピードで、低域も高域も伸びているように感じた。懐古的なアナログとは一線を画す音である。カートリッジとDAC以外のオーディオ機器はかなり年季が入ったものだが、音に古さを感じさせない。
次は生演奏で本人が熱唱と思ったのだが、Mac Studioに入ったハイレゾ音源を再生。普通ならラッカー盤とダイレクトカッティングのレコードを比較するのだが、無謀にもハイレゾDSF 11.2MHz/1bit「Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio」を同じシステムで再生。これを聴くと、ハイレゾ音源がいかにワイドレンジで情報量が多いかを再認識できる。この音源は元々、ダイレクトカッティングレコード用の演奏をPCMとDSDでも並行して録ったものだ。普通なら、アナログは音に厚みがあって音色が素晴らしい、ハイレゾ音源は音場感、空気感の再現性に優れS/N感が抜群と言った評価になりそうだが、今回は青龍とラッカー盤がどちらも原音再生指向だったため、アナログがハイレゾの土俵で勝負するような形になり、不利な立場になった。再生終了後の観客の感想はオーディオに無関心な人ほど、感性のままにアナログが良かったと答える傾向が見られた。オーディオマニアの中には「DSD最高、PCMはダメだね」と聴いていない音源まで比較する人も現れた。
ちなみに井筒さんは休憩時間なのでアナログもデジタルも聴いていない。ラッカー盤で再生した「輝く街」を歌うときも「皆さんは先ほど2回も聴かれたので、もう歌わなくていいですよね」という前振りで会場をわかせた。生歌はマイク以外、先ほどと同じシステムでスピーカーからも再生されたが、やっぱり違う。オーディオ的に言えば、ボーカルのセンター定位が良く、音像が小さい。人間が歌っているのだから当たり前に思えるが、ボーカルにはエコーがかかっているので、スピーカーの再生音もかなり大きいのだ。オーディオと言っても、視覚による支配力は強く、音楽だけより映像もあった方が脳は音像定位を明確に感じるのではないかと私は思う。こうして、ライブは無事終了した。貴重なラッカー盤は絶賛発売中なので、興味のある方は、この機会に手に入れて、ご自分の耳で確かめてはいかがだろう。詳細は「井筒香奈江のOfficial Blog」を参照されたし。
ステージの最後にはマスコット犬、サモエドのセツも現れ和やかな雰囲気になった
写真・文/ゴン川野