海外で人気のNFTアート。日本でもじわじわ浸透しつつあるが、まだまだ一部の層で親しまれているものだ。海外ではいま、日本の漫画・アニメ文化などにインスパイアされたものがブレイクしているといわれる。今回は、海外NFTアートのトレンドとともに、日本企業のビジネス参入ポイントについても、有識者に聞いた。
海外で人気のNFTアートと日本企業の参入ポイント
●海外で人気のNFTアートとは?
メタバースプロジェクト「¥u-Gi-¥n/遊戯苑(ユウギエン)」が、2022年10月22日-23日に東京・品川で「TOKYOカルチャーコレクティブル NFT展」を開催する。世界のNFT経済圏で注目の東京カルチャーにインスパイアされた、海外NFTプロジェクト20作品以上が集結するという。
現在、世界ではアニメ、漫画、ゲーム、ファッション、音楽などの東京カルチャーに影響を受けた海外 NFTプロジェクトが次々と大成功を収めているそうだ。
例えばどのようなものがあるのだろうか。遊戯苑のファウンダーRock氏に話を聞いた。
「最も象徴的なNFTプロジェクトは『AZUKI』という2022年初頭に大ブレイクした東京カルチャー系の代表プロジェクトです。世界最大のNFTマーケットプレイスOpenSeaでの取引総額は約580億円(2022年9月2日現在)。日本の漫画やアニメにインスパイアされたキャラクターデザインで、その名も『小豆』。一見すると日本のプロジェクトかと見紛うほどですが、アメリカのチャイニーズ系のチームが運営主体です」
「その他にも、ドット絵NFTで最も人気の高いプロジェクトの一つで、怪獣をテーマにした『KaijuKingz』、東京サイバーパンクのジャンルを想起させるクリエイティブで、OpenSeaでの取引総額が推定110億円を超えた『Phantom Network (PxN)』など、ビッグプロジェクトが後を絶ちません」
●日本企業のNFTアートへの参入がまだ少ない原因
一方で、日本ではまだまだNFTアートの目立ったプロジェクトが見当たらない。日本企業の参入も、まだ本格的なものではない。その理由とは? Rock氏は次のように意見を述べる。
「大きくは2つの要因が考えられます。日本人NFTコレクターが少ないことと、NFTに対する企業法務とポリシーの未整備です。
私たちのプロジェクトメンバーによる推計ですが、OpenSeaにおける日本の月間NFTトレーダー数はざっくりと約2万人程度(※1)です。つまり国内市場での事業が主体の日本企業にとって現状、参入するには国内マーケットが少なすぎるのです。また、全世界でも月間のトレーダー数が40-50万人程度の超ニッチマーケットです。リスクを負ってまで参入する経済規模ではないという判断になっているのだと思われます。
また、法務面も未整備で、既存の顧客に対して受け入れられるのかどうかなど、不安定な要素が多く、参入に踏み込めていません」
※1(1)415,435 × (2)5.00% =20,771
(1)OpenSea月間アクティブトレーダー数
出典:Dune
(2)OpenSea国別アクセスシェア
出典:SimilarWeb
●日本企業の参入ポイント
日本企業がこれから参入する場合、どのような参入が考えられるだろうか。
「よく『日本から世界へ』というメッセージを耳にしますが、私たちは逆のアプローチを持つことが大事であると考えています。海外から日本へ事業を呼び込むことや、コラボレーションすることを仕掛けていくことです。長らく日本はものづくりが強みでしたが、これからの日本の強みはブランディングのポジションを確立することなのではないかと思うのです。
日本企業の多くは図らずともグローバルビジネスのポテンシャルを保有しています。世界的なSNSや動画プラットフォームによって、海外からもほぼ同タイミングでコンテンツや商品を消費されており、海外進出というような事業拠点を持たずともグローバルでファンを獲得しています。そして、起業家やブランドのファウンダーの中にもそうした熱烈な東京カルチャーファンが存在します。
これらを前提に、彼らのビジネスのブランドを強固にするための協業コラボレーションという形でサポートすること。この視点が最も重要だと思っています」
●今後の展望
最後に、TOKYOカルチャーコレクティブル NFT展や、展示を受けた今後の展望を聞いた。
「私たちが目指すのは東京をweb3の都にすることです。例えばフランスのカンヌが世界で最も権威のある映画祭を開催し、世界中の映画産業の関係者がリスペクトを持ってカンヌを目指すように、TOKYOはweb3における中心地になり得るのです。世界中で同時多発的に立ち上がる東京カルチャーをつなぎ、web3の巨大な経済圏を形成し、その中心に東京が存在する。そのようなビジョンの達成に向けて私たちはプロジェクトを推進しています。
本企画展示は、海外のトッププロジェクトが20以上も勢揃いするという、日本NFT史上でもエポックメイキングなイベントだと自負しています。これだけのプロジェクトが私たちの呼びかけに応じてくれたのは、東京が持つポテンシャルの高さに他なりません。これをきっかけに日本の事業者と海外のweb3プロジェクトをつなぎ次々と新たな事業を展開していきます」
日本企業とNFTアート
日本企業の中でも、NFTアートを事業化する流れが徐々に起きてきている。今後、さらに参入するためには何が必要になるだろうか。
NFTコンサルティングやNFTサービス事業を行うスピンアクシスのCEO 小林弘宗氏に話を聞いた。
「当社にご相談に来られる法人の皆さまには、NFTはデジタルデータの保存技術の一つで、この技術をよく理解して用いれば、将来様々な収益化の可能性があるとお伝えしています。
ただ、多くの日本企業の意思決定が役員会でなされるので、NFT=アートとして事業提案を受けた場合、暗号資産関連の法整備の遅れによる決済問題など、そこに予算をつけたり、様々なリソースを割く決断がしづらいところがあります」
まだ課題はいくつか重なっているようだ。
●日本企業のNFTアートの活用例
スピンアクシスがNFTのプロジェクトをサポートしているBARON UEDA氏の作品
そうしたなか、日本企業ではNFTアートを事業に取り入れることは具体的に想像しにくいものだ。そこで、今後可能性のある活用例を小林氏に聞いた。
1.高級ワイン予約券のNFT化
「高級ワインのロマネコンティというブルゴーニュの最高峰ワインは、ぶどうの収穫状況からボトリングできる量や味が決まります。1961年、2020年など予約券をNFTにして販売しておけば、コレクターはワイナリーで最高の保存状態のものを送ってもらい、転売したければマーケットプレイスにオークション出品できます。この場合は、二次流通のインセンティブ収入もワイナリーに分配されます」
2.コンサートチケットのNFT化
「コンサートチケットもNFTにすれば、様々なサービスキャンペーンと連動させたり、転売しても運営サイドがインセンティブを受け取れたりします」
3.地方創生プロジェクトとNFTのコラボ
「クリエーターファーストの観点から、地方創生プロジェクトとNFTの親和性は非常に高いことが実証されています。生産量の少ない作り手の商品購入予約券をNFTにしておけば、ダイレクトに欲しい人に届けられます。ふるさと納税のような構築済みのプラットフォームでもデータのNFT化は可能でしょう」
「今後は、このようにNFTアート作品を作る作家やクリエーターの方とは違うNFT技術の利用方法で、今後多くの企業から、まったく異なる目的のNFTが販売される日が来るのではないでしょうか」
●今後の展望
今後の展望を小林氏は次のように語る。
「今後も、NFTサービスとしては、日々アップデートされるweb3やいくつかのDAOプロジェクトの情報や状況をホームページなどを通し、皆様にわかりやすくお伝えしていきます。
また、NFTサービスについては、次のような所感があります。すべての物の価値と同様に、NFTも需要と供給で価格が決定します。また、NFTはすべてデータで作られるので、フィジカルの商品とは違い、製造コストは低く抑えられる上にパッケージや輸送費などもほぼかかりません。ジェネラティブNFT(プログラムで表現した模様や物体を作品に取り入れるもの)は、安い価格設定で多くの枚数が売り出される傾向にあります。一見、企業の参入障壁が低いように思われますが、高度な戦略なくしてプロジェクトの成功はありません。
また現状NFTを購入される方は、投資的な思考が強いように見えますが、これ自体はNFTにとって、とても重要な要素です。ブロックチェーンに刻まれたデータは半永久的にネットワーク上に保管されています。当然、将来の物価は今より高くなっているので、資産としての価値も増えることになるでしょう。世界の金融資産の流通量バランスの暗号資産が今より確実に増えていくか、NFT購入を円やドルで簡単に決済できる仕組み作りにより、一般消費者へ普及させれば、今後もNFT市場は拡大するでしょう」
NFTアートは、まだ一部の層で楽しまれ、取引されているに留まるが、近い将来、日本でも普及が進むと同時に多ジャンルで企業参入も期待できそうだ。
【参考】
¥u-Gi-¥n/遊戯苑
スピンアクシス「NFT SERVICE」
取材・文/石原亜香利