東京都は、発電に関するCO2排出量の削減を目的として、新築住宅における太陽光パネルの設置を義務化する条例案を検討しています。
同条例案は2023年中の可決と、2025年4月からの施行を目指している状況です。
太陽光パネルの設置が義務化されれば、それ以降に新築住宅を建てる施主に影響が生じることは避けられません。
今回は、太陽光パネルの設置義務化に関する各自治体の規制状況や、義務化によって新築住宅の施主に生じ得る影響などをまとめました。
1. 東京都が太陽光パネルの設置義務化を検討中|対象は大手ハウスメーカー
東京都が検討している太陽光パネルの設置義務化は、年間の都内供給延床面積が合計2万㎡以上の事業者を対象としています。
50社程度のハウスメーカーが対象となる見込みです。
対象事業者は、都内で供給する新築住宅の建物全体で、再エネ設置基準以上の太陽光発電量を確保することが求められます。
再エネ設置基準は全体での達成目標なので、屋根面積や日照などの条件に照らして、太陽光パネルが設置されない新築住宅も出てくる見込みです。
それでも、対象事業者が供給する新築住宅のうち大多数においては、太陽光パネルの設置が標準となる可能性が高いと考えられます。
2. 太陽光パネルの設置に関する、その他の自治体の規制
新築住宅における太陽光パネルの設置に関しては、東京都以外にも以下の自治体がルールを制定済み、または検討中となっています。
①京都府・京都市
延床面積300㎡以上の建築物を新築・増築する際、建築主に再生可能エネルギー設備の設置を義務付ける条例が、2022年4月より施行されました。
②群馬県
延床面積2,000㎡以上の新築・増築する際、建築主に再生可能エネルギー設備の設置を義務付ける条例が制定されており、2023年4月より施行予定です。
③川崎市
延床面積2,000㎡以上の新築・増築する際、建築主に再生可能エネルギー設備の設置を義務付けること、および市内総供給延床面積5,000㎡以上の供給事業者に対して、再生可能エネルギー設備の導入量達成を義務付けることを内容とする条例案が、現在検討中となっています。
3. 太陽光パネルの設置義務化により、設置費用が請負代金に転嫁される可能性大
東京都において、太陽光パネルの設置義務化に関する条例が成立・施行された場合、これから新築住宅を建てる方にとっては、コスト増となる可能性が非常に高いです。
太陽光パネルの設置義務化の対象となるハウスメーカーは、都内で新築住宅を建てる顧客(施主)のうち大多数に対して、太陽光パネルの設置を求めることになるでしょう。
条例案によれば、すべての新築住宅に太陽光パネルの設置が義務付けられるわけではありません。
しかし、都内全体で再エネ設置基準を達成しなければならないことを考慮すると、施主側が非設置を希望しても、ハウスメーカー側がそれを受け入れないケースが増えることが予想されます。
当然ながら、太陽光パネルの設置にかかる費用は、新築住宅全体の請負代金に転嫁されます。
経済産業省の調達価格等算定委員会が公表した資料によると、住宅用太陽光パネルの設置費用の平均値は28.6万円/kWです(2020年)。
標準的な新築住宅では、3kW~6kW程度の太陽光パネルを設置するケースが多いため、費用総額の目安は85.8万円~171.6万円程度となります。
出典:令和3年度以降の調達価格等に関する意見p46|調達価格等算定委員会
最近の調達網の混乱による材料費の高騰や、他通貨に対する円安傾向などにより、新築住宅の価格は値上がりする傾向にあります。
そこに太陽光パネルの設置義務化によるコスト増が重なると、これから新築住宅を建てようとする方にとっては、大きな負担となることが否めません。
4. 新築住宅に太陽光パネルを設置するメリット
新築住宅に太陽光パネルを設置する場合、初期における費用負担が増えてしまうことは避けられません。
しかし長期的な視点で見れば、太陽光パネルの設置には以下のメリットがあります。
4-1. 自宅で使う電力の大部分を賄える
東京都が公表した資料によれば、住宅屋根に4kWの太陽光パネルを設置した場合、一般家庭の平均年間電力消費量(4,573kWh)の約8割に当たる4,000kWh程度の発電量を、1年間で確保できるとされています。
出典:太陽光発電設置解体新書~太陽光発電の”クエスチョン”をひも解く~ Q14 太陽光パネルの発電効率について|東京都
各電気事業者が供給する電気の料金が高騰している最近の状況を見ると、月々の電気代を大幅に抑えることができる点は、太陽光パネルを設置する大きなメリットといえるでしょう。
4-2. 売電収入を得られる
再エネ特措法※に基づき、太陽光パネルによって発電した電気については、各送配電事業者に対して、法定の調達価格による買取義務が課されています。
※正式名称:電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法
したがって、太陽光パネルを設置した住宅では、自分で消費しない電気を送配電事業者に売却することにより、売電収入を得ることができます。
東京都が公表した資料によれば、住宅屋根に4kWの太陽光パネルを設置した場合、売電収入等の合計は240万円程度となり、設置費用やパワコン交換の費用(121万円程度)を差し引いても、119万円程度のメリットを得られることが指摘されています。
出典:太陽光発電設置解体新書~太陽光発電の”クエスチョン”をひも解く~ Q14 太陽光パネルの発電効率について|東京都
5. まとめ
世界的な脱炭素の流れに鑑みると、現在条例案を検討中の東京都などに限らず、全国的に新築住宅への太陽光パネル設置を義務化する動きが加速する可能性があります。
将来的に新築住宅を建てることを検討している方は、太陽光パネルに関する法改正の動向にもご注目ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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