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メタバースの中では犯罪は成立するのか?

2022.09.22

「メタバース」とは、インターネット上の仮想空間を意味します。「meta(超越した、高次の)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語です。

メタバースの世界は日々発展しており、今後はリアルの世界に近い形で時間を過ごせるようになることが期待されています。

その一方で、リアルの世界における犯罪に当たるような行為が、メタバース上で発生することも懸念されます。しかし、メタバース上でなされた行為については、リアルの世界と同様に処罰できない場合があることに注意が必要です。

今回は、メタバース内でなされた悪質な行為を、犯罪として処罰できるのかどうかについてまとめました。

1. メタバース内での詐欺・窃盗は犯罪か?

メタバースにおけるやり取りを通じて、リアルの通貨(日本円など)を騙し取る行為が詐欺罪に当たることは異論がありません。

これに対して、メタバース上にある「物(仮想オブジェクト)」を騙し取ったり盗んだりする行為は、刑法による処罰の対象になるのでしょうか?

1-1. 詐欺・窃盗の客体は「財物」

詐欺罪(刑法246条1項)・窃盗罪(刑法235条)の客体(対象)は、いずれも「財物」とされています。

「財物」とは何かについては、以下の2つの学説が対立しています。

①有体性説
「財物」は有体物(形がある物。民法85条)であることを必要とする見解です。

②管理可能性説
「財物」は有体物に限らず、管理可能なものであればよいとする見解です。

1-2. メタバース内にある物は「財物」に当たるのか?

メタバース内にある「物」は、あくまでも仮想オブジェクトに過ぎないので、有体物には該当しません。しかし、管理することは可能です。

したがって、メタバース内の「物」を騙し取ったり盗んだりする行為は、有体性説によれば処罰できませんが、管理可能性説によれば処罰し得ると考えられます。

「財物」の意義については、有体性説・管理可能性説のどちらも有力に主張されていますが、現在の通説的な見解は有体性説です。

よって、通説的な見解を前提とすると、メタバース内の「物(仮想オブジェクト)」を騙し取る行為や盗む行為について、詐欺罪や窃盗罪で処罰することは難しいと考えられます。

2. メタバース内での暴力行為は犯罪か?

メタバース内のアバターを操作して、他のユーザーのアバターを「殴る」「蹴る」「銃で撃つ」などの「暴行」をした場合、暴行罪や傷害罪は成立するのでしょうか?

2-1. 暴行罪は不成立|物理力の行使がないため

暴行罪(刑法208条)は、他人に対して不法に物理力を行使した場合に成立します。

メタバース内における「殴る」「蹴る」「銃で撃つ」などの「暴行」は、あくまでもアバターに向けられたものであって、他人の身体に向けられたものではありません。

したがって、暴行罪の要件である「物理力の行使」が認められず、暴行罪は成立しないと考えられます。

2-2. 傷害罪は成立する可能性あり

これに対して、メタバース内において「暴行」を受けた被害者が、不安感やショックによって病気を患った場合には、傷害罪(刑法204条)が成立する可能性があります。

傷害罪は他人の身体を傷害した場合に成立しますが、暴行罪とは異なり、物理力の行使は要件とされていません。裁判例でも、以下に挙げる行為について、暴行によらない傷害罪の成立が認められています。

・嫌がらせ電話により不安感を与えて、被害者を精神衰弱症に陥らせる行為(東京地裁昭和54年8月10日判決)
・ラジオの騒音により精神的ストレスを与えて、被害者を睡眠障害に陥らせる行為(最高裁平成17年3月29日判決)

これらの裁判例と同様に、メタバース内における「暴行」についても、その結果として被害者が精神疾患などを患った場合には、傷害罪として処罰する余地があり得るでしょう。

3. 刑法は類推解釈不可|犯罪として明記されていなければ処罰できない

このように、メタバース内での悪質な行為について、リアルの世界における行為と同様に処罰することは難しいケースが多いのが実情です。

「リアルでの犯罪と同じような行為であれば、メタバース内での行為も処罰すべきだ!」

このような考え方は、気持ちはわかりますが、刑法の大原則に照らして認められません。

刑法は、類推解釈が許されないと解されています。

刑罰という重大な人権の制約を課すことに鑑み、厳密な罪刑法定主義が貫徹されているからです。刑法を類推解釈して適用することは、裁判所による事後的立法に当たり、罪刑法定主義に違反します。

したがって、メタバース内の(一見犯罪に見える)行為についても、刑法で定められた犯罪の要件を一つでも満たしていなければ、「犯罪同然である」などの理屈で処罰することはできないのです。

4. 民法上の不法行為は成立し得る|損害賠償請求の対象

メタバース内での悪質な行為については、仮に犯罪が成立しないとしても、民法上の不法行為が成立する可能性があります(民法709条)。

不法行為とは、故意または過失により、被害者に対して違法に損害を与える行為です。

メタバース内での悪質な行為は、被害者の財産を奪ったり、被害者に精神的なダメージ(損害)を与えたりする場合があります。この場合、被害者は加害者に対して損害賠償を請求できます。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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