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マツダの新型SUV「CX-60」がプレミアムの称号を手にするための条件

2022.09.19

 これからマツダが送り出してくるラージ商品群の日本国内向け第1弾となる「CX-60」に、箱根の一般道と新東名高速道路で約2時間試乗した。試乗したのは「XD Hybrid Premium Modern」(車両本体価格552万7500円、オプション価格20万200円。合計税込価格572万7700円)。

 PHEV(プラグインハイブリッド)も含め何種類も新開発されたパワートレインの中で、このモデルは3.3L、直列6気筒ディーゼルターボエンジンにモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドを搭載する。

 ラージ商品群とは、新開発の大型プラットフォームに新開発の直列6気筒や4気筒エンジン、それらとモーターを組み合わせた電動化ユニットを搭載したSUVのことをいう。

「ラージ商品群で、マツダは一段高いステージを目指していきます」(和田宜之商品本部副部長、主査)

 画像だけ眺めると「CX-60」は既存の「CX-5」によく似ている。特に、ウエストラインから上のサイドウインドウの形がそっくりに見える。しかし、実物は随分違う。ボディーがひとまわり大きく、プロポーションが別物で、フロントグリルの造形も異なっている。

 さらに「CX-60」が「CX-5」と決定的に違っているのは、エンジンを縦置きしていることだ。「CX-5」とその他のマツダのSUVは4気筒エンジンを横置きしている。縦置きでも、横置きでも、両車は最終的に4本のタイヤを駆動している。一部モデルの「CX-5」は前輪を「CX-60」は後輪を駆動する。

 では、“縦”と“横”で何が違ってくるのかといえば、「乗り味や操縦性の質」だという。エンジンを縦に置き、同じ4輪駆動でも「後輪駆動ベースの4輪駆動」とすることによって、加速の際にグッと後輪にパワーが伝わる感覚が上質なのだとマツダは標榜している。

 転舵と駆動を分ける後輪駆動が上質だという見解に基づくクルマ造りは、マツダに限らず他のメーカーでも実践されている。金科玉条として守り続けているメーカーもあれば、他の駆動方式に変更して、足りないところは飛躍的に進化した電子制御などで補っているところもある。後輪駆動が絶対なのではなく、電動化も視野に入れれば必然性は時代によって薄まってきているのではと筆者は考えている。

機械として優れているか?★★★★4.0(★5つが満点)

 新開発の直列6気筒ディーゼルターボエンジンは排気量が3.3Lもあり、モーターと組み合わされることで最大トルク550Nm(56.1kgf・m)/1500~2000回転、最高出力187kW(254ps)/3750回転と強力なので出足も中間加速も思いのまま。大きく重いはずの「CX-60」がひとまわりも小さなクルマになったようだ。

 組み合わされる8速トランスミッションも新開発。従来型のトルクコンバーターをクラッチに置き換えることでダイレクト感が向上していて、変速もスムーズで洗練されている。モーターは主にエンジンの負荷が小さな時にエンジンをアシストしている。平坦な直線路のようなところを一定のスピードで巡航しているような時にモーターがアシストを行なう。

「アシストによって約2km/Lの燃費向上が見込めます」(和田氏) 

 2km/L向上の価値は大きい。節約と併せ、航続可能距離が伸びるからだ。燃料タンク容量が58Lだから、単純計算で116kmも遠くまで行ける。アウトドアアクティビティの行動範囲を広げてくれるし、自由度も高まる。短い時間での試乗だったが、パワートレインの洗練度の高さと優れた性能は十分に体感することができた。

 新東名高速道路で試した運転支援機能も着実だった。特筆すべきはメーターの見やすさと使いやすさで「いま、運転支援がどのように働いているか」が素早く明瞭に伝わってくる。画面を切り替えると、自車の姿や車線などが大きく映し出され、さらに左右の車線を行くクルマの動きも正確に反映している。現行車の中で最も優れたメーターパネルのひとつである。

 ヘッドアップディスプレイも見やすく使いやすいものになったので、ほとんどの走行ではメーターパネルに視線を落とす必要がなくなった。

 珍しい試みとしては「自動ドライビングポジションガイド」という機能が加わった。車内のカメラとAIによるガイダンスでドライバーの体格を測定し、適切なシートとステアリングホイールの位置、ヘッドアップディスプレイやアウターミラーなども自動調整する。試してみたが、かなり正確だった。

 そうしたパワートレインやドライバーインターフェイスなどの優秀性に対して物足りなかったのは、乗り心地での少々の粗さだった。舗装の良い路面では結構なのだが、良くない路面の段差や継ぎ目などからのショックを吸収し切れず、少し残ることもあった。後輪駆動による上質な走りも体感できたのだが、このあたりは、タイヤの選択なども含めて継続した開発の成果を待ちたい。

商品として魅力的か?★★★3.0(★5つが満点)

 乗り込んで最初に気になって仕方がなかったのが内装だった。「CX-60」は内装でも上質さを追い求めているのだが、このグレードでは多くの素材や加工方法を用い過ぎていて、整理がし切れていない印象だけが残った。

 Premium modernというグレードの内装は淡いグレーのナッパレザーがシートやドアパネルに用いられていて、車内を明るい印象にしているのは好感が持てるのだが、助手席の前のダッシュボードとドアパネルに切り替え縫製を伴った布が貼られている。ドアパネルやセンターコンソールには、淡いウッドパネルが貼られている。微かに木目が入っているのだが、これがハッキリしない。

 淡いグレーという色調で統一しようとしているのだが、質感に統一性がない。エアコン吹き出し口周辺にはクロムメッキされたパーツがあり、ルバーは黄色味を帯びた別の色のメッキが施され、さらにはドアパネル上に装飾されたメッキパーツは水平方向に細いラインが何本も刻まれている。

 ざっと描写しただけでも多くの素材や色が用いられており、それらがなぜそこにそのように配置されているか、その意図が判別できないので、とても煩わしい。“Premium modern”なのでたくさん投入したのかもしれないが、造形や素材使いとして説得力に欠けている。

 ちょうど、2か月前にフルモデルチェンジしたレンジローバーに試乗したが、「reductionarism」を標榜するだけあって、抑制に抑制を重ねた美しいものだった。その方法論は、先代「レンジローバー」や「レンジローバー・ヴェラール」などから続くもので、素材使いや色などを抑制しながら、造形要素を削り取っていくことによって初めて美に到達できるという強い信念と美意識が貫かれている。

 和田氏によれば、ラージ商品群の役割はマツダのファンを増やすことにあるという。

「何台もマツダを気に入って乗り継いでくれたお客様から“乗り換えるクルマがない”と嘆かれ、欧州プレミアムカーメーカーのクルマに乗り換えられてしまうことが日本だけでなく、欧州やアメリカ、オーストラリアなどでも現れています」

 そうした顧客を取り戻すために開発されたのがラージ商品群のクルマだ。

「乗り心地、静粛性、パワー、内装質感、こだわりを向上させました」

「CX-60」に続き、今後、日本と欧州、アジア向けには「CX-80」が投入され、アメリカ、中国などには大陸系のよりワイドなボディを持つ「CX-70」と「CX-90」が投入される。

 前述の通り「CX-60」は走りや機能面では概ね申し分ない。既存の「CX-5」や「CX-30」などのオーナーならば、それを如実に感じ取ることができるだろう。しかし、クルマにおける“プレミアム”を確立するのは容易ではない。

 既存のクルマの機能、つまり主に数字に置き換えられるもの(動力性能など)の数字を向上させるだけでは不十分だからだ。そこに加えて、数字では置き換えられないデザインやブランドイメージ、製品の世界観などの魅力や独自性などが強く訴求される必要がある。

 ブランド価値を向上させるためには、製品の外にあるモータースポーツ活動や各種のプロモーション活動などにも独自性が求められるだろう。これからの時代だったら、販売方法もこれまでと同じで良いとする理由はひとつもない。電動化や自動化などについても独自のビジョンと取り組み方が必要だ。難しい理由が、いくらでも出てくる。マツダは、その困難にチャレンジしようとしている。期待しながら注目していきたい。

■関連情報
https://www.mazda.co.jp/cars/cx-60/

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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