日本人旅行者が素通りしてしまうような場所に、実は本当のアメリカ旅の魅力が隠されているもの。現地ライターならではの目線で、そんなおすすめのアメリカ旅行先をご紹介したいと思う。今回はハワイ島にフィーチャーする。
カメハメハ大王の生誕地でハワイの原点を見つめる旅へ
ようやく入国規制が緩和され、コロナ禍の空白を埋める最初の海外旅行先として、ハワイは大人気。でも、インフレによる空前の物価高、1ドルが140円台という歴史的円安に見舞われる今、これまでのようなブランド物ショッピング、グルメなレストラン巡りは、ちょっと違うかも?ハワイの原風景に出合う旅で、お金を使わず、お得にのんびり過ごしてみてはいかがだろう。
2022年に入って訪れた久々のハワイ島。日本人の姿は皆無で、筆者同様にアメリカ本土、特に西海岸からの旅行客を見かける程度だ。ハワイ島はキラウエア(Kīlauea)の火山活動が今も大地を成長させ、エネルギーにあふれる場所であることから、ハワイ随一のパワースポットと言われることも多い。繁華街のカイルア・コナ(Kailua-Kona)から少し離れると、以前に来た時と変わらない、昔の日本を思わせるのどかな風景が温かく迎えてくれる。
ハワイ島と言うと、日本人にとってはオアフ島からの立ち寄り先というイメージかもしれない。しかし、せっかくハワイで最も面積が大きく自然豊かな「ビッグ・アイランド(Big Island)」に来たからには、オアフ島ワイキキの喧騒とはまったく異なる、ゆったりした空気、サステナブルな文化を体感して欲しい。それこそ、ハワイの醍醐味。中でも心揺さぶられる風景が広がるのが、ハワイ島の秘境、ワイピオ渓谷(Waipi’o Valley)だ。
展望台からは見えない神秘の空間
ハワイ島のちょうど真北に位置し、カメハメハ大王が幼少期を過ごしたとも伝わる王族ゆかりのワイピオ渓谷。断崖絶壁に囲まれ、現代も谷底に別世界のようなハワイの原風景が残る。
レンタカーではアクセスできないため、観光客のほとんどは展望台から見下ろすだけで、足早に去ってしまう。ハワイに知り合いがいるわけでもない観光客は、谷底へ行くには四輪駆動の車でシャトルサービスを行う業者を利用するのが一般的。あるいは、乗馬での村落散策とセットになったツアーも。
日本語で検索をするとそうしたツアーに誘導されてしまいがちだが、じつは、展望台駐車場脇にはトレイルヘッドがあり、谷底へと続く舗装路が見つかる。ただし、アメリカでも有数の急勾配で、平均25%の坂だ。車1台通るのがやっとの狭い道幅の中、何度か車とすれ違いながら30分ほど歩いて下ると、トレイル分岐点へと到達する。
左は村落へと向かう道だ。静寂の中、川沿いには芋畑が広がり、果樹が植わる。まるでタイムスリップしたかのような、ひなびた田舎の光景。どこか懐かしい匂いもする。奥には南の島らしい植物で埋め尽くされた森。遠方に、高所からスーッと細く落ちる流麗なヒイラヴェ滝(Hi’ilawe Falls)も望める。
谷底ではまったく異なる風景が待ち受ける。山頂から流れ落ちるのはヒイラヴェ滝
逆に右へ道を進むと、泥だらけの悪路の果てに、粒子の細かい黒砂がきらめくビーチにたどり着く。駐車場もある。潮風が心地良く、空気は澄み、木陰では野生の馬の親子がくつろぐ様子も。そして、どこまでも蒼い海の色。スピリチュアルなことに興味がなくても、特別な場所だと感じさせる何かがある。
美しい海はいつまでも眺めていたくなる、とっておきの場所だ。さらに奥に進むとカルアヒネ滝(Kaluahine Falls)も見える。しばし海辺のピクニックを楽しむことにしよう。ワイピオ渓谷展望台近くにあるハワイ島の名物店、テックス・ドライブイン(TEX Drive In)で買ったマラサダをほおばる。島でいちばんとの呼び声も高いマラサダは、クリーム入り揚げドーナツのようなスイーツだ。リーズナブルで、お財布にも優しい庶民の味。
ただし、帰りにも同じ坂が待っているのをお忘れなく。「心臓破りの坂」という表現があるが、ここほど当てはまる場所はないだろう。行きの2倍、3倍の時間をかけて、ゆっくりゆっくり上を目指す。ひたすらキツい。しかし、普段まったく運動をしていない筆者も、10歳の息子も、普段着とスニーカーでなんとかクリアできたということは、体調さえ考慮すれば決して上級者向けのトレイルではないのだ。
ツアーももちろん、その良さがあるとは思うが、そもそも徒歩なら言語の問題は生じず、予約の手間も、スケジュールに縛られることもない。自由気ままに、自分だけの時間を満喫できる。思う存分、絶景を堪能でき、しかも無料。普通に健康体で足腰が丈夫であれば、試さない手はないはず。
展望台まで戻ったら、同じくテックス・ドライブインで購入していたスパムむすびとドリンクで休憩。さっきまでこの下にいたのかと思うと、風景もまた違って見える。おいしさも格別だ。
黒砂のビーチを包む清々しい空気。思わず大きく深呼吸したくなる
もっと、お金のかからないトレイル&ビーチ・ホッピングを!
そのほか、子連れファミリーでもチャレンジできるトレッキング場所のひとつに、世界遺産にも登録されたハワイ火山国立公園(Hawaii Volcanoes National Park)のキラウエア火山がある。やはり半日コースとなるが、おすすめは溶岩荒野がどこまでも続くキラウエアイキ(Kīlauea Iki)。
ところどころに煙が上がる、どこかの惑星に降り立ったような神秘的な光景は感動必至だ。ツアーに参加する必要はない。火山活動による閉鎖情報を事前に確かめて出かけよう。服装は普段着にスニーカーでOKだ。雨具もあると、いざというときに役立つ。
まるで巨大な穴の中に落っこちてしまったかのような荒涼とした風景が続くキラウエアイキのトレイル。人間がちっぽけな存在に感じる
展望台から見える火口付近には、今も赤々とした溶岩が時折顔を出す。薄暗くなると、よりわかりやすい
そして、最強の無料アクティビティーと言えば、ビーチ。ハワイらしい美しい砂浜を求めるなら、全米ナンバーワン・ビーチに輝いたハプナ・ビーチ(Hapuna Beach)を代表格とする、カイルア・コナの北、コハラ・コースト(Kohala Coast)へ。シュノーケリングならカイルア・コナの南、ケアラケクア湾(Kealakekua Bay)が人気だ。
筆者はよくネイバーフッド(地元の人が集う街)巡りを旅先での楽しみとしているが、ケアラケクア湾はノスタルジーを感じる筆者のお気に入りの街、キャプテン・クック(Captain Cook)地域にほど近い。わざわざボートやカヤックのツアーを申し込まなくても、ホナウナウ・ベイ/ツーステップ(Honaunau Bay/Two Step Beach)など、沿岸のビーチをはしごして気軽にシュノーケルを体験できる。
ただ、ハワイ島は溶岩の塊で囲まれ、ゴツゴツした岩場が多いので、けがには注意したい。シュノーケリングは波が比較的穏やかな朝方に済ませよう。日焼け止めは、サンゴ礁に無害の「リーフセーフ(Reef Safe)」のマークが付くプロダクトを使用すること。該当しているかわからなければ、ハワイの店で新たに購入を。
ボディーボードが盛んなハプナ・ビーチ。ボディーボードやシュノーケルマスクは、その辺のスーパーやドラッグストアで比較的安く購入できる
ヤシの木、バナナやアボカドの果樹が生い茂る中、味のある店が通りに並ぶキャプテン・クック界隈
海に入らなくても、のんびり本を読んだり、砂浜を散策したり、過ごし方はいろいろある。ピクニックなら、ポキ丼のテイクアウトで決まり。マグロやサーモン、エビなど新鮮魚介を使った、日本人好みの味付けもうれしいハワイのロコフード代表だ。ハワイに限らず、最近のアメリカではカジュアルな店でさえ家族3人で軽く100ドルを超えてしまうので、レストランでの外食はなるべく控えたい。
アメリカ本土の都市では、ブームになったここ10年くらいでポキが浸透したが、ハワイ島はクオリティーもボリュームも段違い。専門店やスーパーのポキを安く食べ比べできるのもハワイならではだ。ちなみに筆者の推しはカイルア・コナ外れにある行列店、ダ・ポキ・シャック(Da Poke Shack)。
パンデミックで一時的に観光客が減り、海の環境が改善され、野生動物が活発化するハワイ。この好機を逃さず、自然に親しみに訪れて欲しい。筆者は運良く、イルカのジャンプや優雅に泳ぐウミガメも目撃した。もちろん、どこまでも透明な海には色鮮やかな魚の大群も。星空天体観測で知られるマウナケア(Mauna Kea)山のふもとでは、広大な草原を横切るヤギの群れにも出合えた。
オアフ島の人混みを避けつつ、見事な夕景で知られるカイルア・コナやコハラ・コーストではリゾート気分も十分味わえるハワイ島。これからますます注目したい、日本人観光客にとっての穴場と言えよう。
カイルア・コナでサンセットのSNS映え写真を狙うなら、歴史あるコナ・イン・レストラン(Kona Inn Restaurant)付近の海辺へ
文・写真/ハントシンガー典子
アメリカ・シアトル在住。エディター歴20年以上。