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Web3が実現する新しい組織の形「DAO」とは?

2022.09.11

TOKYO2040 Side B 第17回『DAOは組織を未来へと導き、変容を起こすのか?』

※こちらの原稿は雑誌DIMEで連載中の小説「TOKYO 2040」と連動したコラムになります。是非合わせてご覧ください。

組織DXの最終形?

 Web3が話題です。Web3という言葉の用法や定義の違いに混乱は見られますが、概ねGAFAをはじめとしたビッグ・テックに代表される中央集権的プラットフォーマーからの脱却をし、非中央集権で民主的なWebを取り戻すという世界観のもと、ブロックチェーンやスマートコントラクトに代表される分散処理や自律運用の技術を用い、理想の実現を目指すものです。

 Web3としてポピュラーなものは暗号資産やNFTですが、「De-Fi(分散型金融)」や「Game-Fi(Play to Earn、稼げるゲーム)」も耳目を集めています。

 その中でもDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)は、組織の新しい形として期待されています。

 とりわけ、
・中央管理者を設置せず、民主的に運営される
・誰でも参加でき、平等である

 という点が特長です。そしてその象徴が「ガバナンストークン」です。

お金以外の価値をトークン化

 ガバナンストークンはその名のとおり統治や管理を司るトークンで、株式や投票権に例えられます。DAOの参加者は定められた「ルール」に基づいて発行されたガバナンストークンを受け取り、組織運営に役立てます。組織運営上の議題に対してトークンを票として議決することなどが可能です。

 一番わかりやすいのは、出資した金額に応じた量のトークンを受け取ることですが、これだと「一番お金を出した人が絶対的多数」となってしまい、決議を常に支配することになります。これでは中央集権と変わりがありません。ここでさきほどの「ルール」が重要となります。

 トークンの発行について、出資の多寡に依らず、別の価値観で行う組織と最初から決めてしまえばよいのです。

 例えばマンガの同人誌を発行するサークルをDAOにしたとします。1ページ仕上げた人に1トークン発行するというルールで、たくさんマンガを描けばその分トークンが溜まります。

 このトークンを単に多数決に使うのも良いですが、ある期間の獲得量が多い人が表紙を描くルールにしたり、紙の質を選べる権利を持てるようにします。

 もちろん同人誌即売会での売上の分配についても、トークン量を加味して分配するルールにしてもよいでしょう。

 さきほど出資について触れましたが、同人誌を作成するのに最低限必要な日本円の費用をあらかじめ持ち寄り、それに応じてトークンを発行しておくのは納得度が高いといえます。逆に、もし最初のお金を出せなくても、マンガをたくさん描くことで他の出資者と同様のトークン保有量になることもできますね。

 つまり、サークル内での活動の価値をトークンによって可視化し、トークンの利用法を権利として定義しているといえます。

(同人誌というのは台割やページ数の関係上、各自が好きなだけ描くというのは難しいのですが、ここではイメージ説明のためにそのあたりは無視しています。ご了承ください)

 同人誌を買ってくれた人や、SNSで広めてくれた人へ、エアドロップ(無償配布)でトークンを配布するというのも考えられます。もちろん、無償で入手した人と、出資などのつもりで暗号資産でトークンを購入した人とで、持っているトークンの効果に差異をつけてよいのかどうかもあらかじめルール化しておく必要があります。

 こういった「現金を出した人と出していない人の差異」という概念を持ち出してしまうのは、私たちが資本主義社会に生きているからにほかなりません。

 この場合、重要なのは日本円を組織に入れたかどうかではなく、1トークンは1トークンであるという価値を、サークル参加者すなわちトークン所有者に熟知・理解を求める必要があります。サークル参加者がそれらルールに同意のもと参加し、ルールの改正についてもDAOの仕組みで民主主義的に行うことが重要です。

 このようにDAOが実現する際、デジタル化と行動変容が同時に起こるため、新しい形態の組織としてかなり進んだDXが成されるといえます。

スマートコントラクトは一般的なプログラムではない?

 しかしながら、古今東西、組織というのはルールが全て揃った状態で組成できるものではありません。運用しながら調整していき、時代によってドラスティックな変化を余儀なくされることもありますし、リーダーが専制的な強権を発動してでも乗り越えなければならない事態が発生したりもします。

 スマートコントラクトにあらかじめルールを実装しておくことを考えると、まるで相性が悪いといえます。

関連記事:スマートコントラクトとは?

 基盤とするブロックチェーンネットワークを何にするかにも依りますが、例えばイーサリアム系のスマートコントラクトは、一度デプロイ(利用可能にすること)をすると修正ができません。

 もし修正をしたりアップデートをしたい場合は、元のスマートコントラクトに手を加えるのではなく、新しいスマートコントラクトをデプロイし、元のスマートコントラクトで使用していたトークンを新たなスマートコントラクトへ移行したり、連動するアプリケーションがあればそれらとの連携を取り直す必要があります。当然ユーザーへの説明や承諾が必要になることでしょう。

 このため、開発や運用に使い勝手の良いブロックチェーンネットワークを検討する必要があります。必然的に、プライベートチェーンやコンソーシアムチェーンが俎上に載りますが、これだと目指す「非中央集権」に対して少し遠くなってしまいます。

 スマートコントラクトが融通できる状況というのは、すなわちチェーンを牛耳る者が実質的に場を支配することになるからです。

 プライベートチェーンやコンソーシアムチェーンに関わるノード(ブロックチェーンネットワーク上で演算をするコンピュータ)は善意のもと立てられるべきという楽観視をしてもよいのでしょうが、技術でカバーできない要素を信頼すべきではありません。

 もちろんガバナンストークンの扱いのみを根幹としてスマートコントラクトに記載し、周辺アプリケーションをもって柔軟に対応していくということはできます。しかし、何らかのインシデントが発生するたびに対処の仕方を含めてアプリケーションとして実装していくのにはコストがかかります。その組織専用のグループウェアを開発し続けるのに等しいからです。これでは、現行の会社組織がバックオフィスにコストをかけているのと何ら変わりはありません。

 DAOに参加する人々は、成し遂げたいことがあるからこそ、この新しい組織体で進めることを選択するはずなのに、やることは専用グループウェアの開発ばかり、というのでは社会が前進しません。

 トークンに根ざした投票も、民主的とはいえスピーディーな決断には向いていません。投票前に議題への理解とその審議がどれくらい綿密に行われたかについても、単なる多数決をするだけのスマートコントラクトだったならば、測りようもありません。

 こういったことを、どう解決していくか。人間には感情もあり、日常の組織運営がほとんど「調整」に帰結してしまうことを考えると、何がDAOに向いているか、あるいはいま成し遂げたいことはDAOでなければできないことなのかは、熟慮すべきです。

 DAOを「デジタル学級会に毛の生えたようなもの」にしないためには、組織に合ったルールメイキングや継続性を前提とした実装が求められるでしょう。

日本ではどうなる?

 今後の発展が期待されるDAOですが、トークンエコノミーと現行法の擦り合わせも気になります。ひと昔前ならICO、今ならIEO(Initial Exchange Offering)という言葉で、トークンによる資金調達が行われています。

 日本には出資法や金融商品取引法があり、健全な資金調達が求められます。当然トークンが資金決済法における1号暗号資産、2号暗号資産に定義されるものであるならば、その取り扱いは金融庁に許可された暗号資産取引所である必要があります。

 以前、世界で野放図に行われていたICOの反省から、取引所が主体となるIEOへと時代が変遷していったのも頷ける話です。業法を潜脱するためにIT技術が隠れ蓑に使われることのないよう、資金調達を含むトークンエコノミーの展開は今後も注視されるでしょう。

 また、DAOであっても法人格を持つならば、例えば内部の運営はDAOに依るものとしても、適切な法的責任や納税のためには、合同会社を設立するなどが考えられます。バーチャルで完結する新しい社会を実践するために、現実社会と擦り合わせるための会社という「箱」が必要になってしまうのは皮肉なものではありますが……。

 日本はWeb3が発展するには法制、税制ともに厳しいといわれます。あまりに不自由なので、海外に拠点を移すWeb3企業が続出しているのも、今は仕方のないことなのかもしれません。この状況を変えようと、国内のWeb3を標榜する事業者が集まって、これらの規制緩和やより一層の発展のための提言がなされています。

 おそらく代表的なソリューションが一つ出れば、状況が置き換わっていくことになるでしょう。しかしまだ「すごい! これぞDAO!」というケースは目にすることができません。

 Web3の話題性はとても大きいですが、ニーズとシーズが合わさってこそ、初めて地に足の着いたものになるのだと思います。

おまけ:テレビで紹介されました!

 先日、TOKYO MXテレビの情報番組「クラウドダンディ」8月27日放送回にて、この連載コラム「TOKYO2040 Side B 第16回『選挙運動はどこまでDXできるのか(2)』」が取り上げられました。

 YouTubeにてアーカイブが公開されておりますので、ぜひご覧ください!

 司会者、パネラーの方々に議員経験者が多く、ポスターや広報のDXは可能ではないか等、本稿で触れられていた内容にも突っ込んだ意見が出されました。

 さて、今回取り上げたDAOですが、「政治団体」には向いているのではないかという仮説を立てています。「どの政治家が誰からどんな支援を受けているのか」が注目されている今だからこそ、お金かどうかを問わず、支援や支援者の活動を可視化するツールとして、トークンが有効ではないか、という考えです。今後この可能性を、深めていきたいと思います。

文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。

このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。

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