職場でパワハラの被害に遭い、うつ病などの精神障害を患った場合には、労災認定の対象となることがあります。
会社が非協力的であっても、労働者が自分で労災申請を行うことができます。必要に応じて労働基準監督署の窓口へ相談しつつ、受給できる労災保険給付を漏れなく請求してください。
今回は、パワハラによるうつ病などの精神障害について、労災認定の取扱いなどをまとめました。
1. パワハラによるうつ病は労災の対象になり得る
業務上の原因により、うつ病などの精神障害を発症した場合、労災保険給付の対象となります。
厚生労働省は、精神障害の労災認定に関して「心理的負荷による精神障害の認定基準」を公表しています。
参考:心理的負荷による精神障害の認定基準について|厚生労働省
同基準によれば、精神障害について労災認定を受けるためには、発病前おおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められることなどが要件とされています。
パワハラ被害については、労働者に強い心理的負荷を与えるものとして、以下の事由が例示されています。
・部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
・同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
・治療を要する程度の暴行を受けた
これらの事由、またはこれらに準ずる程度のストレスを生ずる事由がある場合、パワハラによって発病した精神障害につき、労災認定を受けられる可能性が高いです。
2. パワハラでうつ病になった場合に、受給できる主な労災保険給付
パワハラが原因で発症したうつ病などの精神障害については、主に以下の労災保険給付を受給できます。
①療養(補償)給付
労災病院または労災保険指定医療機関であれば、窓口で手続きを行えば無償で治療を受けることができます(療養の給付)。
それ以外の医療機関では、いったん被災労働者が治療費などを立て替えますが、後日労災保険から全額償還されます(療養の費用の支給)。
②休業(補償)給付
休業4日目以降、給付基礎日額(平均賃金)の80%に当たる金銭を受給できます。
また、何らかの後遺症が残った場合には「障害(補償)給付」、精神障害の発作が起こった際に命を絶ってしまった場合には「遺族(補償)給付」「葬祭料(葬祭給付)」の対象にもなります。
3. 労災認定の手続き|被災労働者が自分で行う
労災認定(=労災保険給付の請求)の手続きは、会社に任せるのではなく、被災労働者が自ら行う必要があります。
3-1. 療養の給付の請求手続き
労災病院・労災保険指定医療機関における「療養の給付」については、医療機関の窓口で手続きを行えばおしまいです。
窓口担当者の指示に従って、必要書類を作成・提出しましょう。
3-2. その他の労災保険給付の請求手続き
それ以外の医療機関で支払った治療費に関する「療養の費用の支給」や、「休業(補償)給付」などその他の労災保険給付については、労働基準監督署長へ請求書を提出します。
提出先は、被災労働者が所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長です。各労働基準監督署の所在地は、以下の厚生労働省ウェブサイトから確認できます。
提出すべき請求書は、請求する労災保険給付の種類によって異なります。
以下の厚生労働省ウェブサイトからダウンロードできるほか、労働基準監督署の窓口でも交付を受けられますので、該当する請求書を作成・提出しましょう。
なお、請求書には事業主(会社)が記載すべき欄がありますが、会社が非協力的な場合には、記載なしでも請求書を受理してもらえます。
労働基準監督署の窓口で事情を説明したうえで、指示に従ってご対応ください。
4. パワハラによるうつ病で休職した場合、給料はどうなる?
職場でパワハラに遭い、うつ病などの精神障害に罹ったら、何を置いてもまず仕事を休み、ストレスの大きい環境から遠ざかるべきです。
休職した場合、不安に感じる方が多いのは、やはり給料の支払いでしょう。
しかし、労災認定を受ければ休業4日目以降、平均賃金の80%に相当する休業(補償)給付を受給できます。そのため早めに休職して、休業(補償)給付を請求することをお勧めいたします。
なお、休業(補償)給付が実際に支給されるまでには、請求から1か月程度を要するのが標準的ですので、休職したら速やかに手続きを行ってください。
また本来であれば、会社側の過失によって精神障害を患った被災労働者は、会社に対して給料全額を請求する権利があります。
休業(補償)給付によっては補填されない給料(差額)についても会社に支払ってもらいたい場合は、弁護士などにご相談ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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