リモートワーク、副業の推進、終身雇用制の衰えなど、私たちの働き方は今大きな転換点にある。そんなタイミングで、ビジネスを拡大させているのがポジウィルの「POSIWILL CAREER(ポジウィルキャリア)」だ。サービスのキモと課題、成長の先に見える未来の姿を取材した。
すべては個人が料金を支払うサービスモデルに
「キャリアに特化したパーソナルトレーニング」とうたうPOSIWILL CAREER。トレーナーとの1on1ミーティング+個人で行う多様なワークをベースとし、1カ月〜2カ月半の短期集中で行う伴走型のキャリア支援サービスだ。
既存のキャリア支援としては、転職エージェントなど人材紹介サービスが思い浮かぶ。企業と人材のマッチングが成功した際に、企業側から支払われる紹介手数料で利益を得るモデルだ。つまり、個人がサービス利用にコストを支払うことは、基本的にない。
いっぽうPOSIWILL CAREERは、ユーザー個人から料金を得るシステムを最大の特徴とする。料金は30万円台〜と、個人にとってお手軽とは言えない金額だ。
転職のマッチングが成功してはじめて利益になるモデルは、個人のユーザーの利益と相反する構造を抱えている。個人にとって、その時点の最適なキャリア形成は、転職とは限らないからだ。
転職エージェントに登録した人が、必ず転職しなければならないわけではないが、少なくとも事業者側に「転職させよう」という圧力がかかる可能性は否めない。
同社は根本的な仕組みから、個人に最適化するサービスモデルを構築した。では、ゴールが転職ではないとすれば、どんな価値を提供するのか?
POSIWILL CAREERのトレーニングのゴールは、人生(キャリア)の判断軸をつくり、自分主体でキャリアを築いていけるようになること。
例えば、POSIWILL CAREERをユーザーとして利用し、今は同社広報としてはたらく坂本春珠さんは、トレーニングを経て「自分の好奇心に従って新たな体験や思考に触れること」という軸を見出した。
1on1やワークで過去の体験を振り返ることで、「好奇心」が自身にとって重要なキーワードだとわかり、それがキャリアを選択したり、人と接する上での判断基準になった。
また、育ってきた環境から「べき思考」が強く固定観念に囚われがちであったが、トレーニングをする中で緩和され、行動につながった(その結果、大手企業から未知のビジネスに挑戦するスタートアップに入社した)。
このように個人の行動変容の足かせになっている思考を変えていくことも、POSIWILL CAREERの特徴だ。
「年収600万円以上で転職」のような客観的な目標がないだけに、確実に行動変容させられなければ意味がない。そのために、強度の高い継続的なサポートが必要。カウンセリングやコーチングではなく、トレーニングである所以だ。
プログラムは、研究者の協力を得るなど学術的な理論をベースにしているが、その精度が今後のビジネスを左右するはずだ。
正解のない時代に自分の道を選択する
サービス開始の背景には、コロナ禍で加速した働き方の多様化にある。終身雇用が一般的だった時代には、一定の規範の中で選択肢を持つことができたが、不確実性の高い現代には、用意された「正解」がなくなる。
社会が変化し、生き方の選択肢が多様化するなかで、特に20〜30代の若い世代には、行き先を失っている人が多い、と同社は分析する。だからこそ、人生の判断軸を持ち、自分なりの正解を見つける必要がある。
POSIWILL CAREERはそれなりの支出を伴うサービスなので、キャリアアップへの意識、上昇志向が強いユーザーがターゲットかと思いきや、そうではない。目標や自信を持てず、漠然とした悩みを抱えたユーザーのほうが主流だという。
ここまで聞くと、VUCAと呼ばれる現代に、よくマッチしたアイデアであることがよくわかる。人材紹介ビジネスを考えれば、料金も合理的だ。
いっぽうで、「キャリア版パーソナルトレーニング」という、これまでなかった市場をつくることがビジネス上の課題だ。無料のキャリア相談が当たり前の環境のなかで、「キャリア形成のための自己投資」という新しい認識を築いていけるだろうか?
これまでの常識や通用せず、あるべき姿のない時代に生きるのは、楽しくもあり、大変なことでもあると、改めて実感させられるビジネスストーリーだ。自律した強い個人が、私的&公的なさまざまな課題を解決し、自分の手で道を切り開いていくーーPOSIWILL CAREERの成長の先には、そんな未来が見えてくる。
取材・文/ソルバ!
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