DIME MAGAZINE
ストリッパーが実体験を語った148のツイートから誕生した物語
ジャニクサ・ブラヴォー監督『Zola ゾラ』は、出会った翌日に誘われた旅が、地獄の道行きになる顛末だ。幼い日に言い聞かされた「知らない人について行ってはいけません」が、身に染みる。
カニエ・ウェストがこの映画を気に入り、2回観たそうだ。なるほど、音楽が良く、カーダシアン的ゴージャスもある。ポップな曲に乗せ軽快に進み、犯罪絡みの話ながら、コミカルでさえある。
登場してくる濃いキャラクターたちに、売春から誘拐まで詰まったジェットコースター展開、それがなんと実話だという。
そもそもは、アザイア“ゾラ”キングが実体験を綴ったツイートだった。
2015年10月にゾラがツイート148個で語った48時間の旅路は、グレイテスト・ストリッパー・サーガとして話題になった。ストリッパー2人に男2人を加えた4人旅が、ツイートの内容だ。
語り手であるゾラがパートタイムのストリッパーで、ゾラがウェイトレスとして働く店で客として出会った女性もまたストリッパーだった。意気投合した彼女と連絡先を交換したゾラは、その翌日にフロリダへの旅に誘われ、乗ってしまう。
知らない人について行ったゾラ（テイラー・ペイジ）は無思慮の極みだが、その後の展開をくぐり抜けていくストリートワイズを備えている。
ゾラを誘った女性は映画ではステファニ（ライリー・キーオ）で、ゾラをはめたことでは加害者だが、被害者の部分もある。
演じたライリーは、エルヴィス・プレスリーの孫にあたる。母親は、マイケル・ジャクソンとも結婚していたリサ・マリー・プレスリーだ。マイケルは、4度結婚しているリサの2番目の夫で、1番目の夫だったダニー・キーオが、ライリーの父親になる。
ずる賢さと不安定さがミックスされたステファニを好演したライリーは、演技で頭角を現す傍ら、監督作でもカンヌで新人監督賞を受賞している。
ステファニはツイッターではジェシカとなっていて、映画はゾラ以外の登場人物の名前を変えている。ブラヴォー監督がジェレミー・O・ハリスとともに脚本を書き、ツイッターでの物語をさらに面白くしている。
映画化以前から、雑誌等で取り上げられていたゾラの記事を読むと、ツイッターでも多少盛った部分はあるようだ。それでも起こった事の大筋は事実というのが驚き、怖い世の中だ。
それぞれの登場人物の本人写真もネットで確認できる。映画はけっこう似せている。
狂言回し的な役割になるのが、ステファニのボーイフレンド、デレク（ニコラス・ブラウン）だ。あんまりおバカで、笑えたり、可哀そうになったりするのだが、中でもおバカなFacebookに犯罪行為アップみたいな話は事実だそうで、大笑いだ。
笑わせるだけでなく、ゾラとの間で「あなた、学校行った？」「俺がバカだから聞くのか」「私も学校行ってないわ」といった会話あたり、彼らのバックグラウンドがうかがえグッとくる。
デレクはツイッターではジャレットとなっていて、ツイッターでの記述通り、本人写真でもダイヤのピアスをつけていたのがなんとなく可笑しい。
おバカだったり、小ずるかったりはしても、3人は悪い人ではなさそうだ。20歳そこそこの若い3人より10ほど年上で、最初から旅を取り仕切り、指示を出すX（コールマン・ドミンゴ）は悪党だ。
ツイッターではZと呼ばれる現実のこの男は、ゾラたちの一件の後にも、似たような事件を起こし、逮捕されている。
と、現実の彼らを知りたくなる映画だ。これで、一躍、有名になったゾラ含め、現実の方には続きがあり、その分、興味深くもある。
それにしても、ツイートでの打ち明け話が、SNSで評判になり、映画化、それがまたSNSで広がっていくとんとん拍子なスピード感もすごいが、出会ってスマホでチャチャっと連絡先交換、簡単なやりとりで旅立ちの段取りが決まり、何の気なしに撮ったスマホ写真がそのまま犯罪に悪用される、そのスピードもすごい。
いろいろな意味で今時な映画、ハリウッドの注目株である新進気鋭なブラヴォー監督に、ここでもご紹介した『Marjorie Prime』（2017）や『MONOS 猿と呼ばれし者たち』（2019）など個性的な映画にはまる音楽を作る英ミュージシャン、ミカ・レヴィで、このところヒット作連発のA24が手掛けるという布陣も、いかにも今を感じさせる。
（C） 2021 Bird of Paradise. All Rights Reserved
8⽉26(⾦)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント他全国ロードショー
文／山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
http://eigauk.com
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