NASAが炭素削減に向けた航空技術開発のためのコラボレーション企業を募集
アメリカ航空宇宙局(NASA)が6月29日、航空分野における炭素排出量を削減するための技術開発を目指して、パートナー企業を募集すると発表した。
NASAが2030年代の実用化を目標に開発を予定しているのは、炭素排出量が少ない単通路型旅客機の旅客機。発表によると先進的な機体の設計と製造、テスト、関連技術に対して少なくとも1社以上への資金提供を予定している。
パートナー企業の決定は2023年初旬。該当企業は資金提供を受けるだけでなく、NASAが所有する設備や施設、専門技術へのアクセスが可能となる。
IEA(国際エネルギー機関)によると、航空業界は2040年までに毎年3%ずつ炭素排出を削減していく必要があるという。
アメリカの航空業界は2050年までのカーボンゼロを目指しており、NASAの今回のプロジェクトは、この目標の実現に貢献することを目的としている。
プロジェクトの内容
今回のプロジェクトがターゲットとするのは多くの航空会社の主力機であり、全世界の航空業界のおよそ半分の炭素排出源でもあるナローボディと呼ばれる単通路型旅客機。
このサステナブルな飛行実証機プロジェクトは、飛行機からの炭素排出を削減し、ナローボディ型民間旅客機の分野でアメリカが高い競争力を持つことを目指す。
スケジュールとしては2020年代後半までにテストを終え、2030年代には次世代の航空機を決定したい考え。
NASAのBob Pearceは「今後も国際的な航空交通への需要は順調な伸びが予想されており、単通路型旅客機がそのメインの手段となると考えている」と述べた。同じくNASAのBill Nelsonによると「NASAはこれまでも業界と協力して航空技術の開発に力を注いできた。今回のプロジェクトにより航空産業をよりクリーンでサステナブルなものにしたいと考えている」。
選抜された企業は計画案を作成することが求められ、民間企業の知識と経験が活用されることになる。
プロジェクトの目的は航空機や飛行機などのハードウェアを作り出すことではなく、将来性のある画期的なテクノロジーの開発だ。NASAと一般企業の協力により、航空業界の炭素削減技術を洗練させることに期待が集まっている。
次に、NASAがこれまでに行ってきた航空業界の炭素削減へ向けたそのほかのプロジェクトを紹介しよう。
航空業界のサステナビリティを実現するためのNASAのプロジェクト
航空業界が排出するCO2は、全世界で排出される量の約2%である。今後も世界的に航空需要は増加すると予測されており、航空業界はよりサステナブルになる必要に迫られている。
2021年11月に発表されたアクションプラン「Aviation Climate Action Plan」で、2050年までにアメリカの航空業界の温室効果ガス排出をゼロにすることが明らかになった。
温室効果ガスの排出ゼロを達成するためにNASAが行っている内容は次のとおり。
・航空技術の開発
より少ないエネルギーで航行するためには、少ない燃料で飛ぶか電動航空機を使うなどの選択肢が考えられる。
NASAではコンピュータでのシミュレーションや航空機の部品・パーツの開発、風洞実験、飛行実験などを行って、省燃費機材により少ない燃料での飛行を目指している。
・持続可能な代替航空燃料 (SAF)の調達と開発
廃油や廃獣油、パーム油、都市ごみ、廃棄物、木質バイオマス、藻類、エタノールなどを原料とするSAFを使うことで、環境中に新たなCO2を排出することが避けられる。加えてSAFは、大気中に熱を閉じ込める効果のある飛行機雲を減らすこともわかっている。
NASAでは燃焼実験室での実験や飛行実験などを組み合わせて、SAFの導入に取り組んでいる。
・運行効率の改善
迂回ルートの少ない運行経路やルートの短縮、気象条件を考慮したルートを選択することによって、エネルギー消費をおさえることが可能となる。NASAではコンピュータ上のモデリングやシミュレーション、運用前のフィールドテストを行うことで、運行効率の向上を目指している。
参考:
NASA to Industry: Let’s Develop Flight Tech to Reduce Carbon Emissions | CISION
フライト分だけ環境貢献! 航空業界で進むカーボンオフセットプログラム|EMIRA
文/森野みどり
編集/inox.