会社員が起業して週末や時間外にだけ活動する潮流が生まれている。副業やパラレルキャリアとも通じるところがあり、検討しているビジネスパーソンもいるのではないだろうか。
今回は、実際の成功事例と失敗事例、収益化しやすい職種と収入が高く見込める職種、これから起業を志すビジネスパーソンに向けた成功のポイントを、起業コンサルタントに聞いた。
会社員の起業の成功事例
会社員として企業に所属しながら、自ら起業し、成功している人たちも少なくない。まずは成功事例を確認していこう。
今回、会社員の起業に関する話しを聞かせてくれたのは、起業コンサルタントであると同時に、税理士、社労士、行政書士、CFPでもある中野裕哲氏だ。
【取材協力】
中野 裕哲氏
起業コンサルタント(R)、税理士、社労士、行政書士、CFP(R)。起業から経営まで「まるごと起業支援」する。年間約300件の起業相談を受託。ベストセラー起業本「一日も早く起業したい人が『やっておくべきこと・知っておくべきこと』」等の著者。
起業コンサルV-Spiritグループ
https://v-spirits.com/
1.大手出版社の編集者がオンラインサロンで成功
「ある大手出版社の編集者は、ベストセラーを連発することで、編集者としての知名度が上がってきたことをきっかけに、ビジネスパーソン向けのオンラインサロンを立ち上げ、会員数を増やしていきました。会社員としての活躍がそのまま自分の事業へ好影響を与え、逆に自分の事業での活躍が会社員としての活動に好影響を与えるという典型的な成功パターンとなりました。会社もその活動を応援してくれています」
2.会社員がメンズヘアカットチェーンビジネス起業に成功
「ある男性は、会社員をしながらできるビジネスを探していたところ、フランチャイズの世界に出会いました。メンズヘアカット(床屋)チェーン店の説明会を聞きに行き、そのままの流れで起業。最初は理容師の確保に苦労しましたが、本部が派遣してくれるスタッフなどを活用しつつ、軌道に乗せました。現在は独自に正社員の確保にも成功し、2店舗目も出店。安定した売上となっています」
3.PR職の女性がコンサル分野で起業に成功
「ある大手化学メーカーのPR職の女性は、プレスリリース配信などメディアへの露出についてのノウハウ、メディアとの人脈などを活かして、会社員をしつつ起業しました。さまざまな業種のスタートアップ企業から、PRやメディア取材についてのコンサルティングや実務対応を受託。会社員として培ってきたノウハウをそのまま活かし、起業へと結びつけています」
会社員の起業の失敗事例
一方で、起業がうまく軌道に乗せられなかった事例もある。
1.マッチングサイトで起業したが頓挫
「会社員をしながら、マッチングサイトの立ち上げで起業した事例です。飲食店とその利用者である団体客を結びつけるというマッチングサイトを構想。しかし、いざ始めてみると、飲食店側の開拓にはリアルの営業マンによる店舗への訪問営業が必須であり、人海戦術で営業してまわる必要があると気づきました。ネットで簡単にスタッフが集まると想定していましたが、急に人が集まるわけはなく、給料が払えるわけもなく、心が折れ、事業も頓挫してしまいました」
2.マンション収益に成功するも多額の修繕費を請求され失敗
「会社員をしながら、収益物件であるマンションを購入して賃貸を開始。当初は安定した収益となっていましたが、そもそも古い物件だったため、だんだんと修繕費がかさんでいきます。あるとき、専用部分の下階への水漏れが発生。下の階はオーナーがいたものの、長く人が住んでおらず、水もれに気づかないまま時間が経過。下の下の階の住居にまで水が大量に落ちていき、発覚しました。気づいたら廃墟に近い状態にまでなっており、多額の修繕費を請求されてしまいました。掛けていたのは通常の火災保険であり、事業活動として行っている場合用の保険に加入もしていなかったので、大きな負担となってしまいました」
3.税務関連の手抜きにより失敗
「『副業なんだから、経理とか税金はそこまできっちりじゃなくても…』と考えていると、痛いしっぺ返しが待っています。税務申告の義務があるものは当然、申告しなければなりませんし、脱税になってしまう可能性もあります。最近は会社員の起業に対する税務調査も活発に行われています。脱税として罪に問われる可能性があるだけではなく、将来、本格的に起業するときに申告していないことが問題視され、融資が借りられないといった事態も起こり得ます。
副業時代の業績が将来、会社を退職し、本格的に起業するときに評価の対象となり、借りられないという失敗も多いです」
収益化しやすい職種と高い収入が見込める職種
成功事例と失敗事例を受け、会社員の起業についてより理解が深まっただろう。もし起業するなら、どのような職種が良いのだろうか。中野氏に、会社員の起業で収益化しやすい職種と収入が比較的高く見込める職種を教えてもらった。
●収益化しやすい職種
1.オーナー系
「賃貸不動産の大家など。ビジネスモデルが完成しているため、すぐに市場に供給可能です」
2.フランチャイズ系
「ビジネスモデルごと買うことができ、知名度もあるため、すぐに軌道に乗せやすいです」
3.転売系
「自分が得意とするジャンル、中古カメラや古着などの趣味系などで転売します。ヤフオクなど、市場がすでにできているため、すぐに始められます」
●高い収入が見込める職種
1.コンサルタント系
「会社員を長くやっていれば、その仕事のノウハウはたまっています。自分ではそれが価値があると思っていなくても、人から見ればすごいノウハウであり、それを買いたいという人がいるものです。自分の中に蓄積したノウハウを、セミナーや個別コンサルティングで売っていけば、そのまま自然と商売になります。Zoomなどオンラインツールを使えば、場所も機材も最小限で済みます。さらに広告宣伝はSNSやYouTubeなどを使えば、ほぼお金もかかりません」
2.どこかの会社の役員(非常勤役員)
「正確には起業ではないかもしれませんが、経営者として活動する方法です。安定した役員報酬を受け取ることができます」
3.紹介、代理店系
「見込み客を紹介することにより、紹介手数料を受け取るスタイルです。既存人脈を活かすことができますし、手離れも良い職種です」
会社員が起業で成功するポイント
「自分にもできるかもしれない」と感じたビジネスパーソンもいるだろう。もしいまから起業するなら、どうすれば成功するだろうか。中野氏にポイントを聞いた。
1.マンパワーと時間の課題をクリアする
「会社員として事業をスタートする場合、最大のネックはマンパワーと時間です。この問題をクリアしておきましょう。マンパワーについては、例えば、共同経営者や協力者、外注スタッフなどの確保に全力を挙げる、IT化して効率化するなどが挙げられます。時間については、どこを起業の時間に回すかという問題です」
「上の表は、一般的な会社員の平日の合計24時間の内訳です。1日は意外と短いものです。副業や起業の時間を確保するなら、どこかを削るしかありません。睡眠時間や食事の時間、通勤時間を削るのは現実的ではありません。
一方で、残業時間は、効率的に仕事をこなすことで、削るということも考えられます。働き方改革が叫ばれる今ですから、改めてみるのも良いでしょう。家事の一部を家族の誰かに任せるのも一つの方法です。家事代行を依頼する手もあります。いままで余暇に使っていた時間を副業にあてるのは、現実的な選択肢です。
平日に時間を捻出するのがむずかしいとなれば、週末や休みの日を有効に活かすことも考えましょう。一度、休みの日の行動を書き出してみてください。土曜日の昼寝はやめる、ショッピングに行く時間を削ってネットで買う、なんとなくTVを観ている時間が多いから、録画して観たいものだけを観るようにするなど、改善できる点も見つかるのではないでしょうか」
2.会社の理解を得る
「自分が会社員という立場の他に事業を行うには、会社の理解を得ることが必須です。会社のルールを徹底的に守り、会社の事業に悪影響を与えない仕組み作りが必要になります。事前に会社とよく話し合い、手続きが必要であればきちんとクリアしておくこと。同時に、会社員として働いている時間帯に起きた自分の事業でのトラブルなどをどう解決するか、事前に仕組みを構築しておくとよいです。外注できることは、徹底的に外注するというスタンスがおすすめです」
3.家族の協力を得る
「大部分の時間は会社員としての仕事時間や通勤時間に充てる必要があります。ということは、起業の時間を生み出すには、今までの余暇の時間の中で見つけるしかありません。そこで問題なのは、家族と過ごす時間や家事の時間が犠牲になる可能性があること。事前に家族によく説明し、理解を得ておくことで協力してもらう体制をつくりましょう。心置きなく思いきり活動するための環境作りは大切です」
会社員が起業するには、さまざまなハードルはあるが、成功事例のようにうまくノウハウや経験を活かして軌道に乗せた事例もある。まずは自分にできることは何かを見つけ、時間確保や体制づくりをしっかりと行っておくことが、成功への道といえるようだ。
取材・文/石原亜香利