人生100年時代、定年後の人生はまだまだ長い。長生きのためには、できるだけアクティブに過ごすといいという考え方もある。定年を迎える60~65歳以降にも、仕事など、自分にとって有意義な活動ができるように前もって準備しておきたいものだ。そこで今回は、50代から始められることについて、シニアのキャリアに詳しい専門家に聞いた。
定年後のキャリア準備に必要な「専門性・仲間・健康」
定年後も、働き続けるという選択肢を選ぶ人も多いだろう。60歳もしくは65歳以降の定年後にも仕事を続けるために、50代から準備をしておくとすれば、どんなことをしておくと良いだろうか。
シニアのキャリアに詳しい、パーソル総合研究所 上席主任研究員の小林祐児氏に尋ねたところ、大きく3つあるという。
【取材協力】
小林 祐児氏
パーソル総合研究所 上席主任研究員
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著書に「早期退職時代のサバイバル術」などがある。
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/profile/yuji-kobayashi.html
「シニアになったときに、より良い仕事をするための準備として、大きく3つをおすすめします。
まず最初に『専門性を見極めて高める』ことです。定年後にも仕事を続けるためには、会社に依存しない形で働き続ける必要があります。しかし、そのためには専門性の中でも市場価値の高いスキルを伸ばさなくてはなりません。例えば、社内にしかない業務や、市場では価値のない仕事ではむずかしいものです。そのためには専門性を見極めてから、その領域でスキルを高める必要があります。
2つ目は『仲間』を作ることです。シニアの仕事は、人のつながりが肝になります。シニア以降は、特に『頼まれて始めた』『それまでの付き合いから一緒に仕事をするようになった』という人づての就業も多いです。組織や会社のハコとは関係のない、自発性に基づいた人とのつながりを、社会学では『社会関係資本』といいます。会社という縁が切れたときに、この社会関係資本がないことは孤独な人生を生みますし、仕事の面でも不利となってしまいます。
最後は『健康に留意する』ことです。シニアは所得格差も大きいですが、健康格差も大きくなります。家族も含めた健康の維持は、基本中の基本です。体力に自信がなくなることが引退を早めます。長く仕事をしたいのならば、適度な運動と検診、崩れた生活習慣を避けるといったことは必須と思われます」
シニアが仕事に出合う方法
シニアになると、これまでの手段とは異なる方法で仕事を見つける必要がありそうだ。どんな方法があるだろうか。
1.転職サービスの利用
「超高齢化社会のこの国で、シニアの転職市場は大きく伸びている分野です。登録できる転職サービスがないか探してみるとよいでしょう。インターネット上でも、具体的な求人をざっと見渡してみると、自分のいる地域や仕事の領域でどんな求人がありそうなのか、収入はいくらくらいなのか、相場観がつかめます。
また、シニア向けの行政の就業支援も多くあります。一般的なハローワークの他にも、シルバー人材センターでも高齢者向けの仕事は探せます」
2.セミナーやイベント参加
「情報収集や考えを深めるようなセミナーやイベントへの参加も良いでしょう。例えば東京都では、『東京セカンドキャリア塾』という新しい仕事にチャレンジする意欲のあるシニアがセカンドキャリアについて考える場を提供しています。そうしたイベントは各地で行われていますので、自分の住んでいる自治体でセカンドライフについての講座や案内がないかを探ってみるとよいでしょう」
3.人脈を通じた仕事の紹介
「これまでの仕事や生活の中で得た人との縁を大事にし、仕事がないか声をかけてみることも重要です。独立でも就職でも、信頼できる相手との取引は、人間関係を築くための最初のコミュニケーションコストを大きく下げます。長いキャリアで築いてきた人間関係は、シニアにこそ活きると考えたほうがよいでしょう」
シニアならではの仕事の選び方のポイント
小林氏は、シニア層を含めたキャリアに関する研究を行っている。シニアになった後は、どのようなことを重視して仕事を選ぶといいだろうか。
「シニアのキャリアが若年層のキャリアと大きく異なる点は、シニアになると『組織内での出世』や『専門性の蓄積』といった長期的な視点ではモチベーションの維持ができなくなることです。
そのため、より短期的に、業務を通じて『他者への貢献実感』があることは、仕事のわかりやすいやりがいになります。また、クライアントや消費者に直接『ありがとう』と言ってもらえるかどうかは、仕事選びの一つのポイントになるでしょう。
さらに、より社会課題の解決につながるような仕事ができている実感があると、人は働く幸福度を高めることがわかっています。『社会』という枠で、世の中を見渡したときに、自分がどのように役立ち、貢献することができるのか。次の世代にいったい何が残せるのか。こうしたことを考えて働くことができるのであれば、幸せなキャリアに近づくでしょう」
50代では、定年後のキャリアを考えるには、まだ早いと感じるかもしれない。しかし人生の後半に備えて、長期的にしっかりと計画と準備をしておくことで、60代になったときに大きく先を行くことができるのではないだろうか。
取材・文/石原亜香利