2022年6月に発表された厚生労働省の発表(※)では、2021年の死亡数は143万9,809人で、戦後最多を更新。死が身近になっている。こうした背景から、大切な人が亡くなった“喪失”から前を向くためのサポートがますます重要視されており、グリーフケアの観点からも、あらゆる方面で取り組みが行われている。今回は、その代表的な新しい取り組みを紹介する。
※厚生労働省 令和3年(2021)「人口動態統計月報年計(概数)の概況」
1)ソウルジュエリーと「大人の絵本」展示会開催
仏事関連総合サービスを提供するメモリアルアートの大野屋は、ソウルジュエリーなどの手元供養製品も手がけている。ソウルジュエリーとは、故人の遺骨や遺灰の一部を少量納めることができるジュエリーだ。
同社によれば、ソウルジュエリーを含むソウルシリーズの2022年の累計販売個数は17万個以上となり、2021年の販売個数は2010年の約10倍に伸びたという。近年、手元供養の需要が伸びており、その背景として、コロナ禍をはじめとした近年の人々の生活スタイルの多様化によって、葬送の形式が従来の宗教・慣習にとらわれない多様な形が求められるようになったことが挙げられるという。特に核家族化の影響によって、一緒に暮らしていた家族をパーソナルに供養する意識が進行していることも背景にあるという。
そうした中、同社は新しい取り組みをこの夏、行っている。ソウルジュエリーを購入した顧客より寄せられたエピソードと、ある一人の女性が、大切な人の喪失と悲しみを乗り越える希望への心の移り変わりを描いた絵本作品を展示する「読むジュエリー展」を、2022年8月4日(木)~8月17日(水)に二子玉川 蔦屋家電 2F E-room2にて開催している。
●展示会開催の思い
「読むジュエリー展」開催には、どのような意図があるのだろうか。同社の広報担当者は次のように述べる。
「絵本を通じて、こんなジュエリーが存在するんだ、ということを多くの方に知ってもらえるように制作しました。絵本の物語はあえて主人公や亡くなった方の背景を限定せず、寓話的な表現をとった文章に作り上げ、情景はやわらかな水彩のタッチでイラストレーターに描き出してもらい、主人公の細かい心の表現を何度も修正しながら約7ヶ月の制作期間を経て完成させました。
展示会では、悲しい場面に立ち会ったときに、ソウルジュエリーでほんの少しでも気持ちが楽になって癒されるということを知ってもらいたいと考えています。また自分のもしものときにも思い出してもらいたいと思います。お盆の時期に合わせて開催していますので、これをきっかけに、天国にいる大切な人を思っていただきたいです」
手元供養の需要が進む昨今、一つの選択肢として覚えておくのもいいだろう。展示会の入場料は無料であるため、これを機会に立ち寄ってみるのもいいのでは。
2)「お別れ会・偲ぶ会」をオーダーメイドでプロデュース
海洋散骨を中心に、葬送をトータルプロデュースするハウスボートクラブは、「お別れ会・偲ぶ会」をオーダーメイドでプロデュースする「Story(ストーリー)」を展開している。
●「Story」とは
ハウスボートクラブ 代表取締役社長COO 赤羽真聡氏は、「Story」について次のように述べる。
「海洋散骨事業では業界に先駆けて、合同散骨やメモリアルクルーズといった新サービスを提供してまいりました。Story事業では、故人の人生を称賛し、遺族がより良い今後を生きる場をデザインする新しい時代の新しい追悼の形を提案していきたいと考えております。特に、リアルとバーチャルを融合したお別れ会は、アフターコロナの時代に合った葬儀スタイルとして積極的に取り組んでまいります」
Storyはもともと、同社の親会社 鎌倉新書が2015年から提供していたものを事業譲受したという。
「海洋散骨を手掛ける当社だからこそできる企画・提案をご提供しています。海洋散骨事業も、Story事業も同様に、今後のマーケットが急拡大するサービスでもあります。従来の価値観にとらわれない自由な葬送の選択肢を世の中にご提供していきます。
Storyでは『こうしなければならない』という形式を設けていません。内容も場所も、ひとつとして同じ会はなく、100%オーダーメイドでご提案しています。会場はホテルやお好きなレストランのほか、貸会議室やスポーツバーやヨットハーバー、思い出の地を巡るバスツアーなど、どんな場所でも開催が可能です」
●お別れ会の例
実際に行われたお別れ会を2つ挙げてもらった。
◇IT企業の創業者を送る社葬
「新型コロナウイルス感染症のまん延時期、リアルとバーチャルのハイブリッド方式のお別れ会のご依頼をいただきました。会社の主要メンバーのみ現地会場に集い、それ以外の社員や取引先関係者には、あらかじめYouTubeライブのアドレスを記した招待状を送付。当日はYouTubeライブのバーチャルお別れ会会場に参加していただき、リアル会場の生中継を見ながら画面越しに黙とう・お別れの時間となりました。新社長のメッセージなども中継し、現代のスタイルに合わせつつ、社葬を行う意義を果たした事例と言えます」
◇家族・友人を招待して本人が企画した「旅立ちの会」
「病床につきながら、自分の好きな方々への感謝のしるしとして、故人の奥様ご本人が会を企画。ご主人が想いを継いで、その会を実現させました。奥様が生前、Tシャツ、ジーンズ姿になり、海の見えるホテルでフルコースを食べ、病床でひとりひとりの顔を思い浮かべながら書いたメッセージを配りました。ご本人の願いとそれを支える方々で作り上げた事例です」
「Departure ~旅立ち~」と自ら名付けたお別れ会の様子
●サービス提供の思い
グリーフケアがますます求められる昨今において、本サービスは、どのような思いで提供しているのだろうか。
「まずは、ご遺族や関係者の方からじっくりお話を伺って、どのような関係性だったのか、一緒に過ごした思い出、故人が大切にしていたものなど、人生を紐解いていきます。時には時間をかけてご家族に写真を集めていただいたり、ご友人と連絡をとっていただいたりすることもあります。そうして故人のことを想い過ごす時間こそが、ご家族にとって大切なグリーフケアであり、故人がこの世に生きていた証であると考えています」
また、今後の展望について、赤羽氏は次のように述べた。
「核家族化やご近所づきあいが少なくなり、ご葬儀の縮小が叫ばれる中、形は変わってもお別れの機会としのぶ気持ちは、なくしてはならないものと考えています。個人のお別れ会でも企業・法人の社葬でも、故人の死を通して、疎遠になっていた親戚や家族が再び集ったり、家庭では見せなかった友人関係が垣間見えたり、今後の展望を見せる場を設けたりなど、新たな人と人のつながりを生むことができるのがお別れ会のよさです。こういった場や機会が今まで以上に、みなさまにとって身近なものになるように、Storyのお別れ会・偲ぶ会を発信・ご提案していきたいと考えております」
3)遺骨や遺灰、髪の毛から作る本物のダイヤモンド
「LONITÉ (ロニテ)」は、スイス発のブランドで、故人やペットの遺灰や遺骨、遺髪から作られたダイヤモンド「遺骨ダイヤモンド(メモリアルダイヤモンド)」を作るサービスを提供している。
遺骨ダイヤモンドは、手元供養の選択肢の一つとして、大切な人との別れに役立つアイテムだ。同社によれば、売上が近年、伸びているという。背景には、パンデミックの影響でグリーフケアが重要視されるようになったことが挙げられるという。
●「遺骨ダイヤモンド」とは
同ブランドの遺骨ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドが形成されるのと同様の高温高圧(HPHT)の環境下で、故人やペットの遺灰、遺骨、遺髪から抽出した炭素を使って作製する合成ダイヤモンドだ。
同社の代表取締役 Thalissa Nivard氏は次のように解説する。
「遺骨ダイヤモンドは10タイプのカット、0.25カラットから3カラットまでの幅広いサイズ、色は7色からお選びいただけます。また、リングやペンダント、イヤリングなどのジュエリーにダイヤモンドをセッティングする等のカスタマイズも可能です」
要望があれば、世界的に権威のある鑑定機関から、遺骨ダイヤモンドが本物のダイヤモンドであることを証明するための鑑別書の発行も可能だという。
●サービス提供の思い
同社は、どのような思いで、遺骨ダイヤモンドやジュエリー加工などのサービスを提供しているのだろうか。
「すべての遺骨ダイヤモンドは、お客様の心に寄り添い、それぞれのお客様の要望に沿って製作されるため、『唯一無二の存在』あるいは『世界でたった一つのダイヤモンド』となります。
少子高齢化の進行や家族のかたちが多様化したことにより、お墓の継承者の不在、さらにはお墓の購入・維持管理費用を工面できないという問題が深刻化しています。それらの問題の解決策として注目されているのが、お墓を持たない新しい供養方法です。『世界一美しい供養』と話題の遺骨ダイヤモンドを、現代のお墓問題を解決するオルタナティブな供養としてご提案します」
同社は、2022年8月31日(水)~9月2日(金)の3日間、東京ビッグサイトにて開催される終活産業に関する日本最大の専門展「第8回 エンディング産業展」に出展予定。ブースでは遺骨ダイヤモンドについて紹介するという。今後は、世界中のさまざまな市場で事業を拡大していくそうだ。
コロナ禍で、大切な人との絆を強く意識するようになった。喪失から前を向くことは、そう容易なことではないが、これらのサポート市場が活性化することで、より人々が力強く前を向くための助けになるだろう。
【参考】
「読むジュエリー展」
「Story」
LONITÉ
取材・文/石原亜香利