復讐(リベンジ)の手段として、他人の性的な画像・動画を無断でインターネット上に公開する”リベンジポルノ”。
一度投稿されると凄まじいスピードで拡散・保存され、完全に削除することが非常に難しくなるため、国内外で社会問題となっている。
2022年7月27日よりNetflixで独占配信中の『インターネットで最も嫌われた男』は、アメリカで製作されたドキュメンタリー・シリーズ。
製作総指揮は、『スポーツ界の闇: 八百長に手を染める人々』『殺人犯の視聴率』などを手がけたアレクサンデル・マレンゴ。
あらすじ
リベンジ・ポルノのサイト”IsAnyoneUp.com”を運営していた犯罪者ハンター・ムーア。
「リベンジポルノの王」「他人の人生を壊すプロ」を名乗るなど、まるで開き直るかのような挑発的な行動と言動をしていた。
なぜならムーアには、敵だけでなく熱狂的な信者も大勢いたからだ。
ムーアのことを「神であり父」と呼び崇拝する大勢の信者たちは、サイトに晒された被害者の画像と個人情報(住所・氏名・連絡先など)を元に、本人やその家族に悪質な嫌がらせを行っていた。
たった数枚の画像で人生をめちゃくちゃにされ泣き寝入りしていた被害者も多い中、毅然と立ち上がった女性がいた。
ある被害者女性の母親、シャーロット・ロウズさんだ。
当初は孤独な戦いだったが、ロウズさんは決して諦めなかった。
娘を守るために懸命なロウズさんの姿に心を動かされた人々も加わり、打倒ハンター・ムーアの活動は次第に大きくなっていく。
見どころ
子どもがリベンジポルノの被害に遭ったと知ったら、親も強いショックを受けてパニック状態に陥りそうだが、ロウズさんは冷静かつ迅速に行動を起こした。
緊急事態ですぐに動いてくれる人ほど、頼もしい存在はない。
インタビューに応じる際の話し方からも、とても気丈で理性的な人柄が伺える。
一方のハンター・ムーアはというと、元恋人から「野心家だが忍耐力がなかった」とバッサリ酷評されていた根っからのダメ人間。
自分のことをフッた女性への復讐心からリベンジポルノ・サイトの運営を思い付いたようだが、地道な努力をせずに大金を稼ぎながらネットの有名人になれるこの職業(?)は性に合っていたようだった。
とことん品性下劣な犯罪者でありながら、罪悪感を持って隠れるどころか「ワルくて破天荒な俺って格好いい」と自分に酔いしれているところが、憎たらしくもあり滑稽でもある。
モラルと知性を最低限持っている良識的な一般人の感覚からすると、ダサくて惨めな小物でしかないだろう。
しかし“ザ・ファミリー”と呼ばれていた熱狂的な信者たちにとって、堂々と悪いことをしながら自信満々に振る舞うムーアは、まるで独裁者やカルト宗教の教祖のように力強く魅力的に映っていたようだ。
悪意に満ちた大勢の匿名の信者こそが、ムーアの養分であり原動力だった。
実質的には信者たちも共犯者と言ってもいいと思うが、残念ながらその多くが処罰されることはない。
サイトを立ち上げたムーアは言うまでもないが、ムーアの信者たちの行動や言動も、吐き気を催すほどグロテスクだ。
顔も名前もわからない無数の人間の好奇の目に晒され陰から攻撃されるなどという経験をしたら深刻な人間不信にもなりそうだが、一方で窮地に追い込まれたロウズさんを助けたのもまた、匿名の善意だった。
匿名の人間の悪意と良心、あなたはどちらをより信じるだろうか。
Netflixシリーズ『インターネットで最も嫌われた男』
独占配信中
文/吉野潤子