【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第61回:AIが警備を支援していたら安倍元首相を救うことはできたか?
寂しさの隙間を狙ってくる人がいる
7月8日に安部元総理大臣が奈良市で演説中に銃撃されて亡くなった事件について、その後容疑者の供述から、母親が多額の献金を宗教団体に行ったことによる家計の破綻による恨みが関わっている可能性が報じられました。
家計が破綻してしまうほど献金してしまうなんて信じられないと思う人も多いでしょう。しかし、そういった問題を抱えてしまう人は少なからずいるようです。
寂しいときに、人の心が救いを求めるのは仕方のないことです。しかし一方で、人の心の隙間に入りこんでくる”危険”が数多くあるのも事実です。
わたし自身、以前とても寂しかったとき、「家に帰っても一人だし」と話していたら、『血のつながりを超えて他人と家族になって、みんなで家族のように暮らすと』いう生き方をされている方から、どなたかの子供が出迎えてくる動画とともに、「遊びに来ませんか?」とメッセージをいただきました。
心が動いたのですが、「他人同士でも家族になると『自分だけの財産』というものはなくなり、全財産を共有することになる」と言われました。全財産を捧げる、ということに等しいと思います。私は、そこまで孤独ではなかったせいか、財産を没収されたくなかったせいか、家族の一員になる道を選びませんでした。しかし、家族になるなら、財産を家族みんなで使うのは自然なことだと思ってしまう人もいるかもしれません。
全財産を捧げるといった、信じられない選択も、本人の意思で、自発的に行っている限り、一見強奪ではないように見えますが、正常な判断ができなくなっている人を救う方法はないのだろうか、と思わずにはいられません。
「人の悩みに寄り添えるAI」が早く登場してほしい
「見守りロボット」などAI搭載ロボットの開発は以前から行われていますが、本当に孤独を抱えてしまっている人を救えるレベルでは残念ながらありません。
財産目当てでも、親身に話を聞いてくれたり、楽しいイベントに誘ってくれるような人の方が、圧倒的にコミュニケーション能力が高いです。毎日話し相手になってくれて、自分の趣味嗜好をよく学習してくれて、自分のことをわかってくれるロボットがいてくれれば安心、というレベルにまで早く進化してほしいですね。目的地にどういう方法で行ったらいいか、というレベルではなく、深い悩みや孤独に寄り添ってくれるAI搭載ロボットの実現が待たれます。
しかし、そういったAI搭載ロボットが実現したら、怪しい団体が悪用しないように見張る必要が出てくるかもしれません。AI搭載ロボットがもし、ターゲットとなる人の特性を学習し日常に入り込んでくるようになったら、ホラー映画並みの恐怖です。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。