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往年の大女優であり、日本人2人目の女性映画監督となった田中絹代が再注目されている理由

2022.07.25

■連載/Londonトレンド通信

 英国映画協会(British Film Institute、以下BFIと表記)で、田中絹代の監督作と出演作の特集『KINUYO TANAKA: A LIFE IN FILM』が、8月から9月まで開催される。

昨年はカンヌ映画祭で田中絹代の監督作が上映される

 言わずと知れた往年の大女優である田中絹代だが、監督としても6作品を撮っている。そして、このところ再注目されているのが監督としての田中絹代だ。昨年は、フランスのカンヌ映画祭やリュミエール映画祭で、監督作が上映された。

 映画界でのジェンダーギャップ解消のムーブメントと連なり、女性監督再評価の流れがある。その中でも、日本で2人目の女性監督となった田中絹代は、欠かすことのできない監督だ。

例えば、マーク・カズンズ監督『Women Make Film: A New Road Movie Through Cinema』(2018)でも、田中絹代監督作が紹介されている。ティルダ・スウィントンが映画の世界を進むロードムービー仕立てで、14時間に及ぶ古今東西女性監督作名場面集とも言うべき大作だ。

選りすぐりの女性監督183人による作品から、40章に分けてまとめられた名場面が、次々に流れる。映画史上初の女性監督アリス・ギイ=ブラシェから現代監督までひしめく中、『恋文』(1953)、『月は上りぬ』(1955)、『乳房よ永遠なれ』(1955)から複数の名場面が選ばれている。

8月は監督デビュー作『恋文』など全監督作を4Kデジタル復元版で上映

 今回のBFI特集でも、8月は監督作全6本の4Kデジタル復元版が上映される。

 監督デビュー作となる『恋文』は、丹羽文雄の同名連載小説を原作に、木下恵介が脚本を手掛けている。英語手紙の代筆屋となった友人を手伝う復員兵と、アメリカ兵相手の洋妾に落ちぶれたと疑われるかつての恋人のラブストーリーだ。

 既に監督として名を成していた木下の脚本に加え、笠智衆はじめ多数の名優がカメオ出演し、絹代自身も脇役で出る豪華な監督デビュー作だ。

 小津安二郎が脚本に加わった『月は上りぬ』では、愛と家族がコミカルに描かれる。襖や障子といった引き戸で仕切られた屋内、縁側、庭と続く日本家屋が印象深い背景になっている。

 ほか、実在の歌人中城ふみ子の半生が描かれる『乳房よ永遠なれ』、満州国皇帝溥儀の弟と政略結婚させられた愛新覚羅浩の自伝をもとにした『流転の王妃』(1960)、売春婦を主人公にした社会派映画『女ばかりの夜』(1961)、千利休の娘お吟を主人公にした今東光の同名小説が原作の『お吟さま』(1962)と、女性の生き方がテーマとなった6作品だ。

 監督になったことについて「演技することに満足できないと思ったことはありません。それでも、映画が大好きで、監督になりたい気持ちを抑えることはできないとわかったのです」という意味の絹代の言葉が、BFIの特集紹介ページにある。

 監督は男の仕事という偏見があったのは、それほど昔の話ではない。それどころか、今だに尾を引いている部分さえある。絹代の時代に、それがどれほど強かったかは容易に想像できる。監督となった絹代を、演技での憂さを晴らしていると見る人がいたと聞けば、それへの返答ともとれるコメントだ。

9月は溝口健二監督『西鶴一代女』など半世紀に渡る女優としての軌跡を追う

 9月は女優としての田中絹代特集となる。1924年に14歳で女優デビューした絹代の、半世紀に渡る女優としての軌跡を追う。

 井原西鶴の『好色一代女』を原作にした溝口健二監督『西鶴一代女』(1952)では、油の乗り切った演技をみせている。

 1977年に亡くなった絹代の、晩年近い出演作の1本が熊井啓監督『サンダカン八番娼館 望郷』(1974)だ。

 ほか、島津保次郎監督『春琴抄 お琴と佐助』(1935)、木下恵介監督『陸軍』(1944)、小津安二郎監督『風の中の牝鶏』(1948)、成瀬巳喜男監督『おかあさん』(1952)と、映画史に輝く監督たちの作品が並ぶ。

 日本映画黄金期とも重なる絹代の時代は、戦争を挟み、日本が大きく変化した時代でもある。絹代の映画には、その変わりゆく日本の姿が映し出されているのも興味深い。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
http://eigauk.com


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