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なぜ日本から優秀な人材が流出しているのか?孫泰蔵氏が語る「Web3」の本質

2022.07.26

【不定期連載】孫泰蔵氏が語るWeb3の本質~なぜ日本から優秀な人材が流出しているのか?~

 

 メタバース、NFT、Web3……。これらのバズワードが、昨年あたりからテレビなどでも取り上げられるようになり、トレンドになっていると言われている。その一方で、それらのバズワードがどんなインパクトを持つのか、社会をどう変えるのか、今後どうなるかなど、はら落ちするように説明される機会も稀ではないだろうか。

 本連載では、大学時代にインターネットに触れてYahoo! JAPANの立ち上げに参画し、現在はWeb3がキラッキラしていると語る孫 泰蔵氏に解説していただくことにした。Web2時代にギンギンギラギラしていた連続起業家・投資家が、なぜ、いまWeb3にハマっているのか? 彼の話を糸口に、このトレンドを追いかける。

税制が追いついてない!? 日本の税制の落とし穴

 いま私はシンガポールに住居を構えています。最近驚くのは、Web3をやろうとする日本のスタートアップが、続々とこちらに移っていることです。今週(6月上旬)だけでも、そうした方に6〜7人も会いました。私が把握していないところでも、20〜30社はシンガポールに移っている感じ。いま日本から優秀な才能ある起業家が逃げ出しているんです。 なぜ、そういうことになるのか。具体的な例を挙げてみましょう。

泰蔵氏が「WEB3分野の先駆的な起業家たち」として挙げる3人。左から暗号通貨取引所FTXの創設者兼CEOのサム・バンクマン・フリード氏(30歳)、イーサリアムの考案者のヴィタリック・ブテリン氏(28歳)、Protocol Labsの創業者で、ファイルコイン(FIL)創設者のホアン・ベネット氏(34歳)。いずれも若いうちから才能を発揮し、Web3時代の寵児とされている。

たとえば、Web3関連のスタートアップを立ち上げるとします。これまでの資金調達だとエンジェル投資家に支援してもらったり銀行にお金を借りたりしたと思いますが、Web3関連では、スタートアップ自らトークンを発行して資金を調達したり、協力者に報酬としてトークンを提供したりする形で運営していくスタートアップも世界では増えつつある。

そしてこのトークンの保有者で、意思決定などに参加する権利をもつDAO(分散型自立組織)と呼ばれているいわゆる組合に近い組織を形成する。そのなかでスタートアップは主導権を確保するため、ある程度のトークンを保有する。

しかし日本では企業がトークンを発行する際の会計基準が未整備だったり、持っているトークンが値上がりした場合、利益確定をしていないのに含み益に対して法人税がかかったりする。創業期のスタートアップなんてほぼ赤字だから納税できるキャッシュもない。

 これは、いま現実に日本で起きていることです。しかも、一社や二社だけの特殊な話ではありません。

 これでは、日本でWeb3のビジネスなんて出来ないでしょ。ってことで、海外に出るところが次々と現れているんです。

 また個人では、NFT*1のスニーカーを入手し、移動することで稼げるSTEPN*2っていうのが流行ってますよね。この手のブロックチェーンを基盤としたゲームに対する課税ルールもまだ定まってない。

岸田首相が、Web3で「新しい資本主義」に開眼!?

 いまの税制のようにおかしいことって、過去にも類を見ないと思います。とにかく、新しいことに対応ができない。しかも、みんなおかしいと思っていても、すぐに変わらないところは構造的な問題でしょう。

 これは、いわゆる大企業病みたいなもの。大企業もスピードが遅い、意思決定が遅い、誰も責任を取らない、ってことがありますよね。日本全体がそうなっているように思うんです。

 そんな実態を政府の税制調査会*7の方々にお話をする機会が4月にあったんですね。本当は、もっとストレートに話をしようと思ったんですが、「なぬ?」となる方もいるかもしれないってことなので、少しはオブラートに包みましたが、、、。

 当日は、A.T.カーニーの会長(梅澤高明氏)が素晴らしい質問*9をしてくれて、僕はネタをふることができました。他の税調のメンバーも興味を示してくれたと思います1。

 ただ、制度が変わるのには時間がかかるはずです。だからといって手を拱いているわけにはいきませんから、突破口を作りたいと思っています。

 具体的には、Web3をやりたい方は海外に出ればいい。私は、日本のやる気のあるコが外に出てやりやすい環境を用意しようと考えています。日本を見限るとかではなく、海外のスピードにキャッチアップして、力をつけ、それを日本に持って帰ればいい。

 時期がきたら詳細は明らかにしますが、極秘で温めている構想があります。Web3の起業家や若いコたちが一緒に集まり、暮らしながら新しいものを作れるような“Web3トキワ荘10”のようなものを作りたいんです。そういう環境があると、チャレンジしてみようという人が出やすくなるかもしれませんから。

 かつての日本は、飛鳥・奈良・平安時代の遣唐使や、明治時代の岩倉使節団なども、海外に学び、それを取り入れてきた。なので、島に閉じこもっていてもしょうがない。どんどん外に出て行く必要がありますね。Web3は国境とかは関係ないですから。

 少しフォローしておくと、政府の方でもデジタル部会やNFT部会で、僕が言っているようなことを話題にし始めているようです。そして、私の資料は、岸田総理にも直接ご覧になったと聞いています。で、「『新しい資本主義』は、これなんじゃないか」とおっしゃっていたとか(笑)。

 こんな話もあるので、変わることは、変わるでしょうね。でも、待っていられないので、やれることは前に進めていこうと思っています。

Web3の本質はDAOかもしれない

孫泰蔵氏が、第9回 税制調査会で配布した資料の一部。環境省の中央環境審議会地球環境部会・総合政策部会炭素中立型経済社会変革小委員会(第3回) に招かれたヤフーCSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)の安宅和人氏の配付資料を泰蔵氏が改訂したもの。

「Web3になると、なにが変わるんですか?」と聞かれるので、そろそろ、そのお話をしましょう。上の資料は、さきほど触れた税調でも使ったものです。

 これまでのビジネスでは、提供側と消費者側は完全に分かれていました。で、組織としても、ガバナンス上の大きな意思決定をする株主と、会社が提供する業務をする従業員は分かれていました。

 これがWeb3では、消費者が、ユーザーでもあり、提供側でもあり、株主でもある。こんなふうに運営されるものが多い。これがビジネスにおけるWeb2とWeb3の違いだと思います。

 ですからトークンを買う行為によって、ユーザーにもなり、それと同時にステークホルダー(利害関係者)にもなる。よって、トークンを暗号通貨、暗号資産と翻訳しているのは、大間違い。単なる資産でも、単なる通貨でもない。資産や通貨を超えた権利も持っている。それに、配当請求権の意味では株式の側面もある。また、株主総会における投票権も備えているし、NFTで、会員権、使用権、利用権などの使い方もできるし、それらを細かく分割して付与したり、削ったりと、権利を細かくして増やしたり、いろいろなオプションとしてくっつけることもできる。あまりにいろいろあって、だんだんわからなくなりますよね(笑)。

 もちろん、通貨としての役割もあるのですが、とはいえ、上で述べたとおり、資産や通貨には収まりきらない言葉なんです、クリプトのトークンって。なので、矮小化して翻訳をしたら、理解を誤るだろう、と思います。

実は、Web3は、誰にもわからない

 もしかしたら、Web3は、DAO(分散型自立組織)に象徴されるかもしれません。まだDAOはふわっとしたもので、確立していませんが、今後は、トークンの発行やコーディングなどをいいカタチで行なえるものが出てくると思う。そうすると、それをみんなが踏襲し始め、デファクトスタンダードみたいなものが生まれ、一気に世の中が変わるはず。

 もし、そうなった場合には400年ぶりに株式会社と言われるものに変わる組織体、何か大きなプロジェクトの仕組みのアップデート、ガバナンスのアップデートみたいなものが起きるともいえます。

 正直に言いますが、Web3とは何か? って、現時点では、まだ誰にも答えられないと思う。いまは、クリプトの技術からなにが生まれ、それを社会実装したときに、どうなるかを世界中で社会実験している状態なんです。そういうムーブメントのことをWeb3と呼んでいるとも言えるんです。

孫泰蔵(そん・たいぞう)
日本の連続起業家、ベンチャー投資家。大学在学中から一貫してインターネットビジネスに従事。その後2009年に「アジア版シリコンバレーと言えるようなスタートアップ生態系をつくる」という大志を掲げ、ベンチャー投資活動やスタートアップの成長支援事業を開始。そして2013年、単なる出資に留まらない総合的なスタートアップ支援に加え、未来に直面する世界の大きな課題を解決するための有志によるコミュニティMistletoeを設立。
社会に大きなインパクトを与えるスタートアップを育てることをミッションとしている。

次回は、「コモンズを目指すWeb3

*1NFT(エヌ・エフ・ティー)
Non Fungible Tokenの略。従来の暗号資産はFungible(代替可能)なTokenであるのに対し、NFTはNon Fungible Token、つまり他のものと交換ができない、非代替性トークンのこと。

*2STEPN(ステップン)
移動した距離に応じて暗号資産を入手できるゲーム。オーストラリアのFINDSATOSHI LABが運営する。Solana上に構築されたDApps(分散型アプリケーション)の一種。

*3政府税制調査会
内閣総理大臣の諮問に応じて税制に関する基本的事項を調査・審議する諮問機関。2001年から内閣府に設置された。第9回 税制調査会で孫 泰蔵氏は外部有識者の一人として招かれ「企業の成長や起業」をテーマに、同会のメンバーに意見を述べた。

*4議事録
梅澤氏と泰蔵氏のやり取りは、税制調査会が公開している議事録の10〜11ページで確認できる。以下は、関連部分の引用。
梅澤特別委員:今、ちょうど税制面の話が出たので、私の理解を申し上げて、孫さんにそれで合っているかどうか御意見をいただきたいと思います。Web3やトークン経済を発展させるためにということです。一点目が、トークンの評価益課税を見直して、実現益に課税をする仕組みに改めることです。そうでないと、暗号資産の期末時価評価で法人税課税がかかってしまい、それが大変重たい負担になっていると理解しています。二点目が、会計基準を明確化することです。暗号資産における会計基準、コインやNFTの含み益の扱い、あるいは売上げのPL上の処理が不明確で、かつ、監査法人も監査を請けてくれない、こういう不満を関係者から伺いますので、ここをクリアする必要があるのではないかと思います。

梅澤氏は、<トークンの評価益課税を見直して、実現益に課税をする仕組みに改める>という対策をして欲しい、というのが要望か? と確認すると、泰蔵氏は次のように受け答えた。

Web3、クリプト、トークン経済に関する税制上の問題点に関しては、まさに梅澤12特別委員がおっしゃったような観点から、私も全く同じ意識でおります。ここが一刻も早く変わることが重要で、既に日本のスタートアップの中には、評価益で課税されると、実際に払える原資がないことが分かっているので、国外に出ていっているケースを何例も見ています。ですので、そこは評価益課税から実現益課税に至急見直すべきだと思います。

なお、税制調査会のウェブサイトでは、泰蔵氏が配布した資料なども入手できる。以下に関連リンクを記載しておく。

第9回 税制調査会(2022年4月15日)。この会議に泰蔵氏が有識者として招かれた

泰蔵氏の配付資料「スタートアップ支援を通じて見えた起業の現状や今後の課題」

税制調査会(第9回総会)議事録

*5トキワ荘
東京都豊島区にあった賃貸アパート。1950年代を中心に、手塚治虫、赤塚不二夫、藤子不二雄、石ノ森章太郎などが入居し、若き日々を過ごしたことで知られる。その歴史的意義や文化的価値を再評価する「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」が2020年7月に開館した。

*6 資料
*4で紹介した泰蔵氏の配付資料「スタートアップ支援を通じて見えた起業の現状や今後の課題」8ページからの引用

取材・文/橋本 保  hashimoto.tamotsu@gmail.com

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