日本の食料自給率の低さが問題視されているが、より深刻な状況となっている国が「シンガポール」。約9割が輸入に頼っており、コロナ禍において物流が混乱したことをきっかけに改革を進めている。
しかしシンガポールの国土の広さは東京23区よりすこし大きい程度。土地を開拓することが難しいシンガポールが選んだ道は、食品技術の向上だ。国を挙げて自給率向上を目指すシンガポールで立ち上がり、日本上陸したスタートアップ企業「Next Gen Foods」を取材した。
2030年までに食糧自給率30%を目指すシンガポールの取り組み
シンガポールのNext Gen Foodsが販売する代替鶏肉「TiNDLE」。
持続可能な社会を目指す「シンガポール・グリーンプラン2030」の一環として、2030年までに食料自給率を30%引き上げる「30×30」を掲げているシンガポール政府。
「国土の小さなシンガポールでは田畑を広げていく『水平』の施策ではなく、ビル内でテクノロジーを駆使して『垂直』に生産能力を高めるような施策を注力しています」と話すのは、代替鶏肉「TiNDLE(ティンドル)」を販売するNext Gen Foods シニア トレード マーケティング マネージャーのブライアンさん。
政府は「30×30」を達成するために食品技術向上に繋がるスタートアップ企業の支援を積極的に実施しており、TiNDLEもそのひとつ。ほかにもLab-grown meat、つまりラボで育った代替肉など、サステナブルで食糧自給率向上に繋がる企業に多くの補助金を交付しているのだ。
土地利用74%削減。環境にも優しいTiNDLE
Next Gen Foods シニア トレード マーケティング マネージャーのブライアンさん。
Next Gen Foodsは2020年に起業した若い企業だが、シンガポール国内は約100軒、全世界ではアメリカ、アジア、中東、ヨーロッパなど500軒以上もの飲食店にTiNDLEを提供中。特にアメリカなど消費量の多い国へ、シンガポール発の食肉加工技術が詰まった代替鶏肉が届けられている。
TiNDLEの特徴は大きく3つあり、まず1つ目はサステナブルということ。植物由来の鶏肉のため、通常の鶏肉生産時と比べると、土地利用は74%削減、温室効果ガス排出量は88%削減、水利用は82%削減(参照:ブルーホライゾンの2020年動物や植物由来食品の環境影響レポート)。環境に配慮しながら、かつ限られた土地でも生産できることがポイントだ。
2つ目はシンプルかつすべて自然由来の原料。原料は大豆、小麦グルテン、ココナッツ油、オーツ麦食物繊維、小麦でん粉/香料、増粘剤(メチルセルロース)で、ほかの代替肉に比べると少ない原料で構成されている。特に食物繊維などから独自開発した「Lipi(リピ)」という成分がTiNDLEの味の秘密。この登録商標も取得しているLipiによって、より鶏肉に近い香りや味を生み出している。
Schmatzで販売中の「TiNDLE KARAAGE」。
3つ目は「シェフ」をターゲットにしていること。TiNDLEは一般消費者ではなく、レストランで働くシェフが使いやすいように開発。汎用性が高く、ソテー、ケバブ、唐揚げなどあらゆる調理に活用できる。2022年7月には日本にも上陸。ドイツビールを提供するレストラン「Schmatz」とタッグと提携し、中目黒店とCIAL横浜ANNEX店から期間限定メニューの販売を開始した。
Next Gen Foodsのミッションは畜産の必要性を低減する商品を開発し、サステナブルなエコシステムを作ること。なぜ牛や豚ではなく鶏を選んだかというと、世界中で最も消費量が多いことが理由だ。シンガポール国内だけでなく世界中のレストランを通してチキンLOVERたちにTiNDLEを届け、グローバルカンパニーを目指している。
国土が小さいからこそ、最先端の食品技術を活用し、食糧自給率向上を目指すシンガポール。筆者もTiNDLEを試食し、鶏肉の代わりとしておいしく食べることができた。ほかの大豆で作られた代替肉と比べると、大豆の香りもせず、汎用性が高いことがわかる。同じく国土資源が限られている日本が持続可能な食生活を目指すヒントとなるだろう。
・TiNDLE
https://tindle.com/jp/
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取材・文/小浜みゆ