コロナ禍で打撃を受けた事業者を救済するために国が設けた「持続化給付金」について、組織的な詐欺容疑による逮捕事案が相次いでいます。
持続化給付金に見られるような給付金詐欺は、通常の詐欺罪にとどまらず、さらに重い「組織的な詐欺」の罪で処罰されるケースもあり得ます。軽い気持ちで手を出してしまうと後悔する可能性が高いので、詐欺への加担を誘われても絶対に断ってください。
今回は、持続化給付金詐欺のよくある手口や、成立する犯罪・量刑などを解説します。
1. 持続化給付金詐欺のよくある手口
持続化給付金の制度は、売上の減少によって困窮している事業者を救済するため、できるだけ迅速に給付金が行き渡らせることを優先して設計されました。そのため、審査も簡易的なものにならざるを得ず、結果的に多くの虚偽申請を通してしまうことになったのです。
虚偽申請によって持続化給付金を詐取した人は、次第に捜査機関によって摘発されていき、特に最近では逮捕のニュースをよく耳にするようになりました。報道される事例を見ていると、主に以下の手口がよく見られたようです。
①サラリーマンが個人事業主を偽る
持続化給付金は個人事業主・法人を対象とした給付金です。しかし、本来であれば受給資格のないはずのサラリーマンが、個人事業を営んでいると偽って持続化給付金を申請する例が見られました。
②帳簿を操作して売上の減少を仮装する
持続化給付金は、単月でも前年比の売上が一定割合以上減少すれば、受給権を得ることができる仕組みでした。そのことを悪用して、帳簿操作により特定の月の売上が減少したことを仮装し、本来であれば受け取れないはずの持続化給付金を受給する例が見られました。
③指南役が入れ知恵をして集団申請させる
一部の悪意ある税理士や、詐欺グループが指南役となり、受給権がないはずの個人を大勢勧誘して、持続化給付金を集団で申請させる例が見られました。
中には申請者にほとんど金銭が交付されず、「手数料」や「投資資金」などの名目で指南役が大半を着服する事案も存在し、きわめて悪質な手口と言えます。
2. 持続化給付金詐欺について成立する犯罪
受給権がないにもかかわらず、虚偽の申請書類を提出して持続化給付金を詐取する行為は、国に対する「詐欺」として処罰されます。
特に詐欺グループの一員として、組織的に持続化給付金詐欺へ加担した場合、「組織的な詐欺」の罪により重罰が科される可能性があるので要注意です。
2-1. 詐欺罪
持続化給付金詐欺は、国から金銭を騙し取る行為であるため、行為者は「詐欺罪」により処罰される可能性があります(刑法246条1項)。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
指南役から入れ知恵を受けて虚偽の申請を行った場合でも、詐欺罪の正犯として罰せられます。
「詐欺になるとは知らなかった」と主張しても、それは単に「法律を知らなかった」だけであり、詐欺罪による処罰を免れることはできないのでご注意ください(刑法38条3項)。
2-2. 「組織的な詐欺」の罪
団体の活動として組織的に行われる持続化給付金詐欺については、通常の詐欺罪よりも重い「組織的な詐欺」の罪によって罰せられます(組織的犯罪処罰法※3条1項13号)。
※正式名称:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
「組織的な詐欺」の罪の法定刑は「1年以上(20年以下)の有期懲役」です。
「組織的な詐欺」の罪は、詐欺罪に当たる行為がなされたことに加えて、以下の要件をすべて満たす場合に成立します。
①詐欺行為が「団体※」の意思決定に基づいて行われ、その効果・利益が「団体」に帰属すること
②詐欺行為を実行するための組織により、詐欺行為が行われたこと
※「団体」とは、共同の目的を有する多数の人が、その目的・意思を実現するため、指揮命令に基づき任務を分担して組織的な活動を行う継続的結合体(集団)を意味します。
詐欺グループの一員として持続化給付金詐欺に加担した場合、首謀者のみならず、末端の構成員に過ぎない場合でも「組織的な詐欺」の罪が成立する可能性があるので注意が必要です。
3. 持続化給付金詐欺を行った場合、実際の量刑は?
刑事裁判で有罪判決を受けた場合、量刑は法定刑の範囲内で、犯罪の悪質性やその他の情状を考慮して決められます。
持続化給付金詐欺の場合、過去の裁判例に照らすと、行為者に科される量刑の目安はおおむね以下の程度と考えられます。
自分一人だけで虚偽申請を行った場合 指南役に唆されて虚偽申請を行った場合 |
懲役1~2年程度(執行猶予の可能性が高い) |
詐欺グループの構成員として、複数の持続化給付金詐欺に関与した場合 |
懲役2年~7年程度(被害額や役割によっては実刑の可能性もある) |
詐欺グループの首謀者として、複数の持続化給付金詐欺に関与した場合 |
懲役5年~15年程度(実刑の可能性がきわめて高い) |
特に詐欺グループの首謀者・構成員については、重罰が科される可能性が高いでしょう。
また、単独または指南役に唆されての虚偽申請であっても、逮捕・勾留されて長期間身柄を拘束されたり、刑事裁判にかけられて有罪判決を受け、前科が付いてしまったりする可能性は十分にあります。
現在のところ持続化給付金の募集は停止されていますが、今後何らかのコロナ給付金が新たに募集されたとしても、軽い気持ちで給付金詐欺に手を染めることは厳にお控えください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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