■連載/あるあるビジネス処方箋
前回から4回シリーズで、ビジネスの現場で使う敬語の使い方をテーマに、ベテランのアナウンサーに話をうかがった内容を紹介する。今回は、その2回目となる。
アナウンサーは、梶原しげるさんと原田裕見子さん。お二人は、オンライン話し方教室・ツタバナの講師でもある。
梶原しげるさん
文化放送を経て、1991年からフリーアナウンサーに。報道からバラエティ番組まで数多くの番組に司会などとして出演。企業や公的機関、団体での話し方セミナーや研修の講師を務める。全国での講演も多数。日本語検定委員会審議委員、日本語大賞審査委員。オンライン話し方教室・ツタバナの主催者であり、塾長。語学に堪能で、英語、北京語による司会もする。東京成徳大学客員教授。
原田裕見子さん
静岡朝日テレビにアナウンサーとして13年間勤務。フリーアナウンサーとして東海ラジオやCBCラジオでアシスタントなどを務め、現在は企業研修・講演・セミナー、経営者へのスピーチレッスン、企業や各種団体のオンラインセミナーや動画配信のアドバイザーとして、「伝わる話し方」を伝授している。
「言葉」だけでなく、「全身」を使って無言のメッセージ
Q 前回(その1)で、相手が話している最中に「そうですね」「さようですか」などの言葉を添えるのは、とても難しいことをあらためて知りました。
原田:相槌にバリエーションがあることが大切ですね。相手も気分よく話すことができるようになるので、会話が弾むようになるんです。
梶原:その通りだと思います。
原田:表情や態度も重要です。たとえば、相手の言葉の終わりで深くうなづいたり、真剣な目で聞いたりして表情や態度で同意を表していくことができます。
梶原さんもよくおっしゃるのですが、アナウンサーは、相手の話を聞くときに、「言葉」だけでなく「全身」を使って、「あなたの話を聞いていますよ」「なるほど」「よくわかります」と相手に無言のメッセージを送ります。相手が話しやすい空気を作るのです。たとえば少し身を乗り出すように、表情豊かにうなづくリアクションをとります。その際、「なるほど」「ええ」「はい」「そうなのですね」など、相槌のバリエーションを豊かにします。このように自然とコミュニケーションを活性化できるんですよ。
「了解しました」は目上の人には…?
Q.前回(その1)で難しい敬語を2つ挙げていただきましたが、3つめはどのようなものでしょうか?
原田:「了解しました」です。同僚や部下目下の人に対してこの言葉を使うのは問題がないのですが、上司など目上の立場の人に使うのは失礼にあたります。たとえば上司から「これをしてもらえないかな」と言われたら、「かしこまりました」「承知しました」と答えるのが好ましいですね。
その場合、無表情で言うと、冷たい印象ややる気がない印象を与えてしまいかねいません。上司と目と合わせて活き活きとした表情で答えるのが、よいでしょうね。
また、「承知しました~」と伸ばさないように気をつけて欲しいです。語尾はスッと短く収めると感じよく聞こえます。
動作としては、上司から指示を受けた時に、その時点での作業をいったん止めて、目を見て「かしこまりました」「承知しました」と答えられると理想的です。指示を出した上司からすると、「しっかり受け止めてくれた」ととても気持ちのよい印象を持つでしょうね。
梶原:言葉と態度でコミュニケーションを図ることが大切ですよね。「了解しました」はもともとは軍隊で使われていた言葉なので、「軍隊用語」とも言われています。ですから、日常生活で使うことに違和感を感じる人もいるかもしれませんね。
原田:私が中高年の管理職にリサーチをすると、部下が「かしこまりました」「承知しました」だけを繰り返している場合もあるようです。このようなケースは、冷たい印象を受けるという人も中にはいるようです。
梶原:「かしこまりました」「承知しました」をさわやかに答えるのが、いいんでしょうね。
原田:言い方であったり、使い分けですよね。部下でも、所属している部署のメンバーとの人間関係がある程度出来上がってきたら、「わかりました」と答えてもいいのではないでしょうか。状況に応じて上司を始め、周りとの距離を推し量りつつ、言葉を使いわけることが大切だと思います。
梶原:同僚から頼まれ、その人との距離が近いならば、タイミングを見計らって「OK!」と答えることもいいと思うんです。片目をつぶって 「OK!」 もいいのかもしれません。大事なのは、言葉を多様化させることです。
敬語の一つの働きは、距離なのです。相手を遠ざけることもできるし、近づけることもできます。
原田:相手の距離感で言えば、お互いが気持ちよく過ごせることが大切だと思います。「ほどよい敬語」ってどんな感じだろうと考えたいですね。
(その3)に続く
文/吉田典史