【連載】もしもAIがいてくれたら
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AIだったら不審者の動きを検知できたのか?
7月8日に安部元総理大臣が奈良市で演説中に銃撃されて亡くなりました。先週時点では、あまりに衝撃的かつ真相もわからないことが多すぎて、記事にすることができませんでした。その後も、いろいろな視点からの情報が山のように流れていますが、この連載では「もしもAIがいてくれたら」という視点に絞って書いてみたいと思います。
7月15日のNHKによる記事などによると、警備にあたっていた警察官が元総理大臣の真後ろを台車を押して横切る男性に気を取られ、斜め後ろから近づく容疑者に気付かなかった可能性が指摘されています。その場面を映した動画も見ましたが、確かにそのように見えます。警察庁は、後方の警備が不十分となり襲撃を防げなかったことなど、問題点を明らかにしたうえで、要人の警備を見直す方針とのことです。
そもそもなぜ台車が後ろを堂々と横切れるのか、なぜSPは安倍元総理から離れたところにいたのか、など疑問点が多いことは報道されている通りですが、もしもAIが警備支援をしていたら、不審者の動きを察知することができたかもしれない、ということにフォーカスしてみたいと思います。
人間はもちろんのこと生物は、静止したものより動いているものに目が行きやすいことは心理学分野での研究などで昔から知られています。そのため、目の前を台車が横切れば、横切る台車に目を奪われるのは人間として自然なことです。そのため、そういったことが起きない、人間と違って常に安定して見渡せる目があればよかったかもしれません。
AIが優れているのは「目」
@DIMEの連載でもたびたび取り上げていますが、AIが最も優れているのは人間の目に相当する部分です。今や、人間以上に高速かつ大量に画像に含まれる情報を解析することが出来るようになっています。不審者を検知するAIサービスもいろいろあります。最近は数百万画素で車のナンバーや人の表情もはっきりと撮影できる製品が多いようです。そこで、この鮮明な画像をAIで解析することができます。また、画像の連続体である動画も、AIが高速に処理することで解析することが出来ます。
動画を解析できることにより、不審な動きを検知できるようになっています。例えば、NTTコミュニケーションズ(東京)の不審者検知ソリューションは、人の行動・動作(特有の振動パターンなど)を映像から分析・数値化し、不審な行動を起こす可能性のある人物を検知でき、重大事故や犯罪の発生を未然に防げるとしています.人が発する特有の振動パターンにに基づくため、通常必要となる不審行動パターンなどの教師データの用意・学習なしで利用可能とのことです。2020年9月の段階で、久屋大通公園の地下広場に設置した防犯カメラの映像を、AIで解析する実証実験を行い、不審者や迷子、体調不良者の検知や、匿名化したスマホの位置データで来園者の行動を分析していたようです。
NECは、AI技術の1つである顔認証技術「NeoFace」を活用し、複数カメラで撮影した長時間の映像のなかから、同じ場所に何度も出現する、あるいは複数の場所に出現するといった不審な行動をしている人物を見つけ出すことができるとしています。
デジタルキューブテクノロジーは、登録していない人や車両の進入をAIが検知すると、「立ち入り禁止です」などと音声で警告したり、警備担当者などのスマホに画像も送信できるソリューションを提供しているようです。
多くの製品が提供され、一般の人でも購入可能なほど安価になってきている防犯カメラを、要人警護に導入できていないのは残念です。
せっかくの技術を警備に活用してほしい
今回のように警護対象者が一定の場所にて、警備対象エリアが明確な場合は、不審な動きであるかどうかをAIに判定させるといった高度なことまでする必要はなく、警備対象エリアに警備担当者以外が立ち入ったら警告する、といった単純な技術でもよいでしょう。AI搭載360度防犯カメラを”第2の目”として活用することができれば、悲惨な事件を防げる可能性が少しは向上するかもしれません。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。