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「今こそ資本主義から脱成長コミュニズムへの移行が必要」哲学者・斎藤幸平氏が語る人新世の資本論

2022.08.14

停滞する日本経済、世界的な気候変動、未曾有のコロナ禍……今なお売れ続けるベストセラー『人新世の「資本論」』の著者・斎藤幸平准教授は、問題の解決には「脱成長」を目指すべきだと語る。なぜ今、マルクスなのか? そして持続可能な社会の実現には、果たして何が必要なのだろう?

哲学者  斎藤幸平

哲学者  斎藤幸平

東京大学大学院 総合文化研究科准教授。1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』堀之内出版)によって、ドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。また、2020年日本学術振興会賞を受賞。主な書籍にマルクス・ガブリエルらとの対談集『未来への大分岐』(編著・集英社新書)などがある。世界的な気候変動やコロナも資本主義が根本原因と考え、安易なSDGsへの取り組みに警鐘を鳴らす。

〝モノがあふれた時代にモノを生産する〟ことを企業は一度見直さなければいけない。

 昨年のDIMEトレンド大賞に選ばれた「SDGs」。地球環境保護や貧困の根絶など全17分野に及ぶ「持続可能な開発目標」を意味するSDGsの認知度が昨年の2倍以上となったことなどが大賞選出の理由だった。しかし格差は開き続け、パンデミックはいまだ収束しない。環境問題や気候変動の深刻さも日々悪化するなど、問題解決のめどは立っていない。

 斎藤准教授は刊行から2年近くたつ『人新世の「資本論」』が現在も読まれる理由について、「コロナ禍で社会の矛盾であった経済格差と環境の問題が浮かび上がってきたことにある」と指摘する。

「〝人新世〟とは人類の経済活動が地球全体を覆い尽くし、自然を本質的に変えてしまった時代のことです。この時代では地球規模のパンデミックや気候変動といった問題が常に発生している。

 資本主義は拡張を続け、未開拓地を切り拓き、経済成長するシステムです。その特性により、これまでのツケを地方や途上国といった外部に押しつけたり、未来へ先送りしてきた。その結果、経済格差が開き、深刻な気候変動が引き起こされているのです。インドでは熱波で気温が50℃まで上昇するなど、貧しい人や地域にしわ寄せがきている状態です」

 経済成長ができていない日本では、仕事や日々の生活で精いっぱいな方が多いのが現状だ。そんな中、我々はSDGs実現のために何をすべきなのか?

「その問いの前に、まずは危機を危機と認識することから始めてもらいたいですね。危機であることを認識をせず、何をしたらいいのかだけを考えた先にあるのが、変テコなSDGsやESG投資なんです」

 危機的状況にある地球環境を議論する国連気候変動枠組条約締約国会議は、2015年に温室効果ガス排出削減などのための新たな国際枠組みとして「パリ協定」を採択した。地球全体で排出される温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにし、産業革命前の気温から2℃未満の上昇に抑えることを目指すものだ。実現には2030年までに二酸化炭素排出量を2010年比で30~40%削減する必要がある。もし気温が2℃上がると、都市を含めた世界各地で火災、干ばつ、洪水などが起こると予測されている。

「実質ゼロを急速に実現するには、巷にあふれるファストフードやコンビニなどを抜本的に減らすか禁止する。牛肉は食べない、近距離の国内線は実質廃止などの手を打たないと2030年には間に合わないでしょう。危機を前にライフスタイルを変えないということは『自分たちは生き延びることができるから、ほかの人たちがどうなっても知りません』と言っているのと同じ。そして、それを隠すため様々な環境対策やSDGsを掲げて、ここ数年いろいろやってきたわけです。けど何も変わっていない。だから私は『SDGsは現実から目を逸らすアヘン』だと言っているんです。先進国や都市部で暮らしている人間は、気候変動で今すぐスーパーの棚が空になることもないし、暑ければクーラーを使えばいいかもしれない。しかし発展途上国や地方へ目を向けると、災害が起きたり、農作物の品質が下がったり、今まで採れていたものが採れなくなるといったことは、すでに問題として出てきているわけです」

『人新世の「資本論」』の冒頭でも、温暖化対策のためのエコバッグやマイボトル、ハイブリッドカーなどの「善意」は有害でさえある、とはっきり書かれている。

「私たちがまず認識しなければいけないのは、本当に大きな危機、コロナ以上の危機が今、気候変動という形ですでにやってきているということです。しかも気候変動は不可逆的なもので、今手を打たないと、5年後、10年後はさらに悪化する。ただ、私の話を聞いて『変わるしかない』と思う人はすぐには出てこないかもしれない。けれども、少なくともまずは発想や考え方をいったんインストールしないことには手遅れになってしまうでしょう」

 インストールすべき発想──それは資本主義から「脱成長コミュニズム」へ移行すること、そして「コモン」という概念だ。

Z世代を中心に環境意識が高く、資本主義に批判的な層が増加

Z世代を中心に環境意識が高く、資本主義に批判的な層が増加

アメリカでは若い世代を中心に資本主義へ懐疑的な意見が多く生まれている。斎藤准教授が考える価値観の転換が近づいているのか。
出典:Gallup〝Democrats More Positive About Socialism Than Capitalism〟

『人新世の「資本論」』『人新世の「資本論」』(集英社)

ドイツの経済学者・哲学者カール・マルクスの著書『資本論』と晩年の手記をもとに、資本主義に代わる解決策を提示する経済思想書。新書としては異例の45万部超のベストセラーとなり、今も売れ続けている。2021年新書大賞受賞。

SDGsは今までどおりの生活を続ける免罪符でしかない。

斎藤幸平

脱成長コミュニズムとコモンという考え方

 危機を認識したうえで「私たちは何をすべきか?」という問いに対し、斎藤准教授は「社会を大胆に転換することを受け入れる必要があり、そのことについて真剣に政治の場や会社、日常生活などで議論すること」だと語る。

「日本ではこれだけいろんなことをやっても経済が成長しないので、今までどおりのやり方でより豊かになる道はかなり難しい。だったらこれ以上給料は増えないけれど、週休3日制や4日制にして、家族や親しい人と過ごし、社会活動に時間を使うような社会のほうが、むしろ幸福度は上がるかもしれない。また税金の在り方を変えて、教育を無償化したり、老後の生活を安定させるような形にしていければ、必ずしも経済成長を無限に求めなくてもいい。もちろん即日配送など、諦めなければならないこともありますが、今の社会で抑圧されている別の可能性を、自分たちの人生に導入することを重視する社会に転換していくべきではないでしょうか」

 そして斎藤准教授は問う──「あなたは今、幸せですか?」と。

「夫婦共働きで、長時間労働をして、住宅ローンを払い、子供と過ごす時間は少なく、趣味もない。老後の2千万円も貯まるかわからない……そんな生活を続けるよりも、労働時間が短く、教育や医療が無償化された社会になったほうが、幸せではないでしょうか?」

 また脱資本主義やマルクスという言葉にアレルギーがある方もいるかもしれないが、斎藤准教授が提唱しているのは、晩年のマルクスが手記に残した、『資本論』からさらに発展した考え方だ。

「今の社会はお金を払って買ったモノは自分のモノになる、私的所有の世界です。しかしそれが広がりすぎて、社会の皆に必要なものも企業や個人が買ってしまう。例えば公的なものが民営化されると、競争の名の下に効率化することで値上げが起きて貧しい人がアクセスできなくなったりする。そうではなく、社会において誰もが必要とする水や電気のような公共財=コモンを、情報公開や意思決定が保障される民主的なやり方でシェアしていく必要がある、という考え方なんです。旧ソ連のような一党支配とは違います。

 脱成長はパイを大きくせず、シェアすることが重要です。生活に必要ないろいろなものが公的に担保されるようになれば社会は安定するので、もっとお金が必要だから働かないといけない、という圧力から解放される。そしてその時間を自分がやりたいことに使えるようになれば、今よりも幸せになれる可能性があるんです」

転換と未来への鍵を握る30~40代は責任重大

 有限な資源を使い続け、地球環境がさらに悪化すれば、今当たり前と思っている生活は、近い将来当たり前ではなくなっていく。

「これからは〝これ以上モノを作ってはいけない時代にモノを作るとはどういうことか〟という問いを立てて商品作りができる人にならないといけない。それができないと『そんな人や企業の商品は買いたくない』と、環境問題への意識が高いZ世代などから批判されることになるでしょうし、日本では大丈夫でも欧米諸国では売れなくなる、という時代になってしまうでしょう」

 そこで未来への鍵を握るのが、30~40代の働き盛り世代だ。

「30~40代は上の世代が体験した高度経済成長やバブル等の資本主義の恩恵を受けていないので、長時間労働などへの価値観が揺らいでいたり、環境問題への関心も高いので、資本主義的なものから距離を取れていると思うんです」

 従来のマーケティングやSDGsを使って商売をするマインドセットから、Z世代や途上国の人たちから学び、立場を想像し、連帯していくべきだという斎藤准教授。

「競争という概念は、がんばって勝てばいい、負けた人のことなんて考えなくてもいい、と思考停止させてしまう。でもそれを続けると、最終的には大きなしっぺ返しがくるし、来た時はもう遅い。そのために、今企業の中で実行力のある30~40代が、下の世代にきちんとしたものを残さないといけない。2050年の世界は、今とは価値観が変わり、脱成長的なものに親和性がある社会を実現する余地が出てくる──私はそれに期待しています」

「ロンハーマン」のセール廃止など持続可能な道を探る企業が増加

ロンハーマン

カリフォルニア発のセレクトショップ「ロンハーマン」は、2023年よりセールをやめ、コロナ禍で仕入れを3割減らすなどしている。

取材・文/成田全


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