全国から3000人のクリエイターが集うイベント「ハンドメイドインジャパンフェス2022」が、7月23日(土)、24日(日)の2日間にわたって、東京ビックサイトで開催される。夏のリアル開催は3年ぶりとなる同イベントは、ハンドメイドやクラフト作品のマーケットプレース「Creema」が主催するもの。2013年にスタートし、今回で11回目を迎える。クリエイターエリア、ミュージック&プレイエリア、フード&カフェエリアの3つのエリアが設けられ、作品の販売やワークショップ、アーティストによる音楽ライブ、手作りフードが楽しめる。
最近になって多くのイベントが、オンラインからリアルへ戻りつつあるが、開催できなかった期間を経て、今改めて思うリアルイベントの価値とは?イベントを主催するクリーマ代表取締役社長兼クリエイティブディレクターの丸林耕太郎さんに聞いた。
コロナ禍にリアルで活躍していた作家のオンライン進出が加速
才能があるのに正当に評価されていない――学生時代、そう感じるクリエイターが周りにいたことから、インディーズのクリエイターが活躍できるプラットフォームを作りたいと起業した丸林さん。2010年からサービスを開始した「Creema」は右肩上がりの成長を続けてきたが、コロナ禍を経て、同プラットフォームを活用するクリエイターの層も広がっているという。
――コロナ禍を経て、この3年間にどのような変化がありましたか?
巣ごもり消費でEC業界全体が活況な中、これまであまりオンラインで展開されていなかった方々が、Creemaにたくさん参入いただいたということでしょうか。特に、地方の観光地や百貨店で販売されていた伝統工芸品・地域産品などは、販路を絶たれ厳しい状況に置かれました。そのため個人だけでなく、全国各地の自治体からもお話をいただきました。
遅れていたEC化が進んだともいえますが、これまでは生産量の問題などいろんなことがあって、オンラインに展開されていなかった方が、コロナ禍で販路の見直しをしなくてはいけない状況になり、その場としてCreemaを選んでいただいた。Creemaにいるクリエイターさんたちが場の価値を高めてくれた結果、そこに新たなクリエイターの方が集まるという、良い循環ができているのだと思います。
――新規参入されたクリエイターさんは、コロナ後も継続されるのでしょうか?
そうなると思います。自分のお店を持つことも商業施設や百貨店に出店することも、たいてい大きなコストがかかります。ですがCreemaでは低コストで販売ができる。我々はCreemaを、クリエイターさんにとっての基本インフラみたいなサービスにしなくてはいけないと思っていますし、実際にそう言っていただけることも多い。だから継続しない理由はないと思います。リアルの活動が再開したからといって、オンラインから撤退するっていう発想はないんじゃないでしょうか。
――コロナ禍にはEC全般が活況だったと思いますが、Creemaも売り上げが伸びていますね。マーケットが大きくなったことで、クリエイターの作品に対する評価が変わったといったことはあるのでしょうか?
ずっと成長を続けてはきましたが、コロナ禍で1段階利用者が伸びて取引が増えたという実感はあります。巣ごもり消費が発生したのは、やはり大きかったと思います。
一方で、2010年からこのサービスやっていますが、その中で価値観の変化も確かに感じています。世間が決める価値ではなく、自分の価値観が大切にされるようになってきたように思います。身に付けるものや、暮らしに取り入れるものを自分の基準で選んでいる人が、徐々にではありますけど、増えてきたと感じています。
これまではいわゆるブランドものと、ハンドメイドを分けて考えていた人が多かったと思いますが、だんだんその壁がなくなってきている。クリエイター作品が一定程度、世間に浸透してきたと感じています。
――それはハンドメイドに触れる機会が増えたこともありますよね。Creemaの貢献をどう考えていますか?
まだまだではありますが、クラフトカルチャーの醸成には多少なりとも貢献していると思います。日本だけでなくアジアも含めて、魅力的なクリエイター作品がこんなに集まっている場所は、これまでなかったので。そこで作品を見て、実際に買って手に取っていただいて、「インディーズのクリエイターの作品、いいじゃん」って思ってくれる人が、少しずつ増えてきたのかなと。市場が大きくなったということは、単に売り上げがどうこうという話ではなく、ハンドメイド・クラフトのカルチャーにおいて極めて大きな意味があると思います。自分のホームページで1つ2つしか売れなかった人が、Creemaに出品して月100万円単位で売れるようになったというような話も当たり前にありますし、それはサイトだけでなく、イベントも同様です。
「ハンドメイドインジャパンフェス2022」にかける思いとは?
――オンラインだけでなく、リアルイベントも開催されていますが、「ハンドメイドインジャパンフェス」を始めたきっかけは?
Creemaをスタートしてから最初の3年間、作品の取引がまったく伸びませんでした。そもそもC to Cの売買がまだ一般的ではなかったということもありますが、素晴らしいクリエイターの方がCreemaに期待して、たくさん集まってくれているのに、作品が売れないっていう状態が続いたんです。その状況でやらなければいけないことはなにか。もちろんサービスをより使いやすいものにしていくということは大前提ですが、そもそも個人クリエイターの作品がどんなものか、そのカルチャーを広げないと……と思ったんです。
例えば音楽でいえば、フジロックのようなフェスが、音楽シーンを広げるというところに果たした役割は大きいと思っていて。フジロックみたいな存在のイベントを、クラフトやもの作りの世界でも展開することで、クリエイター作品とは何なのか、どんなものかを体感してもらうきっかけになるのではないかと考えました。
ちょっとかっこ良く言い過ぎかもしれませんが、カルチャーが勃興するとか、解放されるようなことをしないと、クリエイター作品の魅力は伝わらない。伝わらなければCreemaのサービスも伸びない。だからそういうカルチャーを作れるようなものをやりたいと思ったんです。体験してもらったり触れてもらって、作品の魅力を知ってもらうには、やっぱリアルの場が圧倒的に強い。そんな考えから社員がまだ6人だった2013年に、社運をかけた大勝負として、「ハンドメイドジャパンフェス」を始めました。
――コロナ前までは毎年開催されてきましたが、手応えをどう感じていますか?
カルチャーを広げるためには、イベントそのものが魅力的でなければなりません。その上でクリエイター作品の魅力がちゃんと伝わることが大前提です。僕にはそもそも、Creemaには魅力的な作品を作れるクリエイターが、たくさん集まっているという自負がありました。作品の魅力に直接触れてもらうことができれば、その面白さが伝わる。それが集合体になって大きくなった時に、少しずつかもしれないけれどカルチャーとして広がっていく。それを毎年、丁寧にやり続けてきたという感じでしょうか。
――今夏は3年ぶりにリアル開催されるということですが、どのような内容になりますか?
日本発のクリエイティブカルチャーを発信できる場所。ものづくりのカルチャーが広まっていくような場所にしたいっていう思いはずっと同じですので、やること自体は大きく変わりません。
ただ夏の開催は3年ぶりですので、思いはひとしおです。コロナ禍の中、世の中が大きく変わり孤独感が増す中で、それでも情熱を止めることなく、制作を続けてきたクリエイターの方々へのリスペクトを込めて、今年は「つくるつづける」を開催テーマにしました。作り続けることの情熱やクリエイティビティ、エネルギーが、ひとつになって現れるような場になったらうれしいですね。
――コロナ禍を経て改めて、今リアルなイベントを開催する価値とは何でしょう?
クリエイターにとっては、自分の作品に直接触れてもらえる機会ですし、お客様にとっても、クリエイターと直接話せるというのはなかなかできない体験です。直接会話してそのストーリーとか思いとか、なぜこれができたのかみたいなことを知ることができたら、やっぱりめちゃくちゃ面白いと思うんです。
クリエイターも自分の作品にどういう反応をしてくれるのか、直接フィードバックを受け取れる。リアルでなければできないことだし、すごく刺激的なことだと思うんです。言ってしまえば、アーティストや音楽ファンとっての「ライブ」みたいなもの。その時間や空間をお客さんと共有できる、唯一無二の機会というか。そこをみんなが楽しんでくれているのだと思いますし、コロナ禍で長くそういう機会が持てなかった分だけ、多くの人に楽しんでほしいと思います。
――今後の事業展開についても聞かせてください。どんなことを考えていらっしゃいますか?
クリエイターが作りたいものを作って、それを糧にして生きていくことができる。一方で、作品を求めて来ていただくお客様が、好きなものにちゃんと出会えて、両者がハッピーになれるような関係性を最大化していく。Creemaはそういうインフラでありたいし、そうならなきゃいけないと思っています。
ほかにも作品の販売だけでなく、クリエイターとして大きなチャレンジをしたいから、その資金を集めたいといったときに利用できるクラウドファンディング「Creema SPRINGS」や、作品ではなく、ものづくりのレッスンを提供したいといったときに利用できる動画レッスンプラットフォーム「FANTIST」も展開しています。そうしたものも含めて、クリエイターが抱える様々な課題に応えていきたい。クリエイティブな活動がもっともっと広がっていくための、あらゆるサポートをしたいと思っています。
「ハンドメイドインジャパンフェス」もそうですが、とにかく1人でも多くの人が我々のサービスによって、夢や情熱を諦めることなく作品を作り続けていける、そういう場所にしなきゃいけないと思っています。そういう強い使命感を持って取り組んでいますし、今後もその取り組みを続けていきます。
取材・文/太田百合子