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【深層心理の謎】知的好奇心を芽生えさせるのに必要なものとは?

2022.07.14

 いつまでも好奇心を持ち続けていたいものだが、ネットで検索して事足りるような好奇心では物足りないとも言える。理解をどんどん深めたくなるような知的好奇心をいくつか持つことができればかなり充実した日々が送れそうだ。

好奇心について考えながら新橋駅前を歩く

 特別に好奇心が強いほうだとは思っていない。むしろ一般的に世の中で注目を集めていることに無関心だったりすることも多い。朝の連続テレビドラマを見ることもなければ、お笑い番組を見たりすることもまずない。このへんの感覚については自分でもあまりクリアに理解できてはいないのだが、要するにメジャーなものにあまり関わりたくないという心性が自分のどこかにありそうだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 都心部に出る所用を終えて乗ったJR山手線を新橋駅で降りた。夜8時を回ろうとしている。6月終盤の季節外れの猛暑からはいったん気温は落ち着いているが当然のことながら暑い。まあそれが夏というものだ。

 駅の日比谷口を出て新橋の代名詞である「SL広場」を横切る。SLは現在、再塗装中なのか工事用の足場で囲まれていてあまりよく見えない。“化粧直し”ということであればそれほどの期間はかからないのだろう。

 メジャーなものにあまり関わりたくなく、社会の流行とは少し距離を置きたいと思う傾向が自分の中には確かにあるのだが、それでも新しいことに興味を持つという意味では好奇心は大切だと思う。

 最近では「好奇心格差」などという言葉も出てきていて、どれくらい知的好奇心を持てるかで、将来の社会的な地位に大きな影響を及ぼすともいわれている。物事に対して興味や関心を抱いてもっと深く知りたくなり、実際に取り組むことがどれくらいできるかで将来が決まってくるというのは確かに説得力がある。

 SLの脇を抜けて通りに出た。左に進むことにする。飲食店が多い一帯で、すでにアルコールが入っている通行人もけっこういるのだろう。「ちょっと一杯」の時間帯なのだが、今は食事を摂りたい気分だ。昼にゼリー飲料を飲んだだけで今日は何も食べていない。ひとまずどこかでいったん腹を満たすことにしたい。

 生活や考え方がマンネリに陥らないためにも好奇心は重要なのだが、大切なのは知的好奇心であり、漠然と面白そうなものに気を惹かれてはすぐに飽きるというタイプの好奇心ではあまり意味はなさそうにも思える。

 特に今日のネット時代においては、興味を持った物事をすぐに検索して概要を把握することができてしまうが、そうしたことが簡単であるだけにそこからさらに踏み込んで理解を深めようとしたり、興味関心を広げることはそれほど多くないのかもしれない。

 例えば人気俳優が出演する歴史ドラマを見て、そのドラマを見ただけで好奇心が終わるのか、それともドラマに触発されて関連する史実への理解を深めようとさらに知的好奇心が頭をもたげてくるのかで、その後の知的活動が大きく違ってくることは間違いない。

好奇心は結晶性知能に関係している?

 通りを進む。コロナ禍の“時短”が解除されて久しくなるが、街の人出のほうは今やコロナ禍前の8割くらいまで戻ってきたのではないだろうか。ともあれどこか入る店を決めよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 格子模様の外壁が独特なニュー新橋ビルの1階には某カツ丼チェーン店やラーメン店、立ち食いそば屋などの飲食店がズラリと並んでいる。反対側にもラーメン店や一人焼肉の店などもありいろいろ迷うところだが、もう少し歩いてみよう。

 目新しさに惹かれた軽い好奇心ではなく、理解を深めようとしたくなる知的好奇心を持ちたいものだが、知的好奇心を芽生えさせるには何か重要な要素があるのだろうか。最新の研究では好奇心は結晶性知能に関連していることが報告されていて興味深い。


 本研究は、学生のサンプルにおける認識論的好奇心と一般知識、および流動性知能(推論能力、処理速度、記憶)を評価しました。

 結果は、認識論的好奇心が知識と推論能力が適度に関連していることを示しています。流動性知能測定のいずれもは好奇心と知識の間の関係を橋渡ししませんでした。

 むしろ推論能力は認識論的好奇心と一般知識の間の関係を仲介しました。

 調査結果は、認識論的好奇心が推論を促進することによって知識の獲得を促進することを示唆しています。認識論的好奇心が旺盛な個人は彼らの環境を豊かにし、それが彼らの認知能力を高めると推測する人もいるかもしれません。

※「APA PsycNet」より引用


 独・ラインワール応用科学大学(HSRW)の研究チームが2022年5月に「Journal of Individual Differences」で発表した研究では、好奇心は流動性知能ではなく一般知識の集積である結晶性知能に関連していることを報告している。

 結晶性知能(crystallized intelligence)は、個人が長年にわたる経験、教育や学習などから獲得していく知能であり、言語能力、理解力、洞察力などを含んでいる。つまり一般的な知識の集積である。一方で流動性知能(fluid intelligence)は、新しい環境に適応するために、新しい情報を獲得し、それを処理し、操作していく知能であり、処理のスピード、直感力、法則を発見する能力などを含んでいる。つまり目の前の状況に器用に適応するアドリブ能力である。

 研究チームは好奇心が知識の習得にどのように影響するのか、そして流動的知能がこの関係にどのように影響するかに興味を持ち、ドイツ人大学生100人の実験参加者に対し、関連する性格特性(好奇心、良心、社会不安)を測定する自己申告タスクを実施した。

 加えて研究チームは参加者の結晶性知能(地理学、歴史、数学、自然科学)と流動的知能(推論と記憶のタスク)を評価する測定を行った。

 収集したデータを分析した結果、好奇心が結晶性知能と推論能力に積極的に関連していることが示された。一方で好奇心は精神的な処理速度や記憶とは関係がなく、好奇心が流動的知能とは関係がないこともまた示されたのだ。

 その後のさらなる分析によって好奇心と結晶性知能との関係は、流動的知能ではなく、推論能力によって説明される可能性が高いことが示唆された。好奇心は推論を促進するので、推論のベースとなる一般的な蓄積された知識、つまり結晶性知能との結びつきが強いということになる。

 歴史ドラマを見た時、ある程度その歴史的背景を知っているのと、まったく知らない状態で見るのとではおそらくかなり違う体験になるだろう。そしてもちろん、見た後の感想や気づいた点などは背景を知っていたほうがいろいろと湧いてくるだろう。つまり結晶性知能によって推論が促されているということになり、知的好奇心がかき立てられているのである。

セルフサービス店の1000円ステーキを存分に味わう

 通りを進む。交差点を右折することにして信号を渡る。この界隈も店が多くて賑やかだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 コンビニを通り過ぎ、さらにATMを過ぎると、ステーキの店があった。店先の展示には「税込み1,000円ステーキ召し上がれ!!」のフレーズが記されている。安いことだしひとまず腹を満たしたいという今の自分には相応しく思える。入ってみよう。

 入口にあった消毒液で手指の消毒を済ませると、タッチパネル式の券売機を操作することになる。牛肉のステーキが5種類あり、加えてチキンステーキとハンバーグもあってなかなかのラインナップなのだが、初めて来たこともありお店の一推しであるロースステーキにした。ご飯は大盛りも無理だが普通盛りにし、3種類の中から2つ選べるという小鉢から野沢菜と塩辛を選ぶ。ちなみに選ばなかったもう1つはキムチだ。

 交通系ICカードで支払う。正真正銘の1000円だ。プリントアウトされたレシートには「呼出番号」が記されている。

 奥に細長い店内は壁沿いにカンター席があり、完全な“一人ステーキ”のレイアウトだ。パーティションで仕切られたカウンター席の1つに着き、バッグをテーブルの下のラックに置いたところで、店の奥のほうから呼出番号のコールがあり、ステーキを取りに向かう。セルフサービスなのだ。それにしても提供が早い。

 店内の奥にある「提供口」に行きトレーに乗った料理を受け取る。溶岩プレートに乗った肉が熱々で美味しそうだ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 カウンター席までトレーを運び、さっそくいただくことする。各席にフォークやナイフや箸、そして数種類のステーキソースや調味料がセッティングされていてぬかりはない。紙おしぼりや紙エプロンも完備してある。

 素早い提供時間からも予測されるように、焼き加減はレアである。しかしこの溶岩プレートがかなりの熱を保っているので、ナイフでカットした断面をじゅうぶんに焼くことができそうだ。とすればあまり行儀は良くないが、最初にある程度肉をカットしてバラバラにすることにした。そしてカットしたレアな部分を溶岩プレートに接地させておく。

 ソースはひとまずガーリックソースを選んで小皿に取り分けておき、小さくカットした肉につけて口に運ぶ。うまい。何もいうことはない。レギュラーサイズで180グラムだが、じゅうぶんに食べ応えがある。

 続いてご飯を箸で食べるがこれもまた美味しい。それもそのはずで、目の前の壁に貼ってある宣材ポスターを見ると、このお店で提供しているご飯は秋田の「ひとめぼれ」だという。美味しくないはずがない。

 ステーキといえばこれまでは大半は地元の専門店や洋食店が出すものというイメージが強かったが、最近は某全国チェーンの活躍はもちろん、沖縄が発祥のチェーンが東京に店を出したり、別の業態から格安ステーキ店を展開したりといろんな動きがある。個人的にもそうした店のいくつかに入ったことがある。

 そうした背景知識、いわば結晶性知能を持ち合わせたうえでお店に入るのであれば、そういう動向を知らないで味わうよりも、いろんな意味で味わい深さが違ってくるようにも思える。それはやはり知的好奇心を持って食べられるからだろう。

 目の前の料理を無心で味わうことに異論は何もないが、次にまたここで食べたいかと自問自答するならば、これまでのいろいろな体験と比較してしまう。比較するからこそ“当たり”だった場合の美味しさもいっそう引き立つのだろう。

 肉の旨味を噛みしめながら食べ続ける。個人的なステーキに関する結晶性知能は「また来たい」という判断を導き出したようだ。

文/仲田しんじ

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