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生産性低下に悩む社員の頭痛に本気で取り組んだ富士通のユニークなプロジェクト

2022.07.01

頭痛は、会社員が“出勤しているが生産性が低下している状態”を示す「プレゼンティーイズム」の主たるものといわれている。これが常態化してしまえば、企業にとっては大きな損失を生んでしまう。企業は、早々に社員の頭痛対策を行う必要があるだろう。

そうした中、富士通は頭痛対策プログラムを独自開発して社内で実施。その取り組みと成果を受け、国際頭痛学会より世界的リーダー企業に認定された。そこで今回は、頭痛対策プログラムの実施内容について紹介する。

また頭痛専門医にビジネスパーソンが知っておきたい頭痛対策も聞いた。

「FUJITSU頭痛プロジェクト」とは

富士通が実施した頭痛対策プログラムは、「FUJITSU頭痛プロジェクト」として2019年7月~2022年2月に行われた。国内のグループ従業員、約7万人を対象に「eラーニング」やオンデマンド形式の「ビデオセミナー」、「オンライン頭痛相談」などを行うものだ。

2018年に行われた共同研究結果「職場における慢性頭痛による就業への支障度調査」を踏まえ、2019年度から富士通、国際頭痛学会(IHS)の世界患者支援連合(GPAC)※、日本頭痛学会との3者共同でプログラムを開発した。

※国際頭痛学会(IHS)の世界患者支援連合(GPAC):国際頭痛学会は頭痛の研究、臨床、教育のために1981年に設立された英国に事務局をもつ学術団体。世界患者支援連合は世界および地域の頭痛学会、神経学会、疼痛学会と共同で患者支援活動を行う。また行政、患者会、頭痛専門医とも連携して活動。

eラーニングと頭痛セミナーは、それぞれどのような内容だったのか。今回のプロジェクトに携わった3名に回答してもらった。

●回答者
・健康推進本部 産業医、富士通クリニック頭痛外来 頭痛専門医 五十嵐久佳氏
・健康推進本部 健康事業推進統括部長 東泰弘氏
・事業推進部 加藤博久氏

●eラーニング「頭痛の正しい知識と対処法」
実施時期:本体2020年10月~12月 /グループ2021年4月~6月

「冒頭で簡易頭痛タイプチェックを行い、各自の頭痛タイプを知った後、以下の項目について学びました」

・頭痛に関する基礎知識(頭痛タイプ、有病率、影響、メカニズムなど)
・頭痛の日常生活・仕事への影響
・頭痛への対処方法(予防、治療、改善など)
・頭痛のある人の支援について理解する(幹部社員のみ)

「富士通グループ全体で約8万名を対象とし、約7万3千名が受講しました。受講率は90.5%で、受講者の72.5%が本研修により、『頭痛の考え方や印象が変化した』と回答しました。受講前は『頭痛は日常生活に支障が大きい病気』と回答した人が46.8%でしたが、受講後は70.6%になりました」

●頭痛ビデオセミナー

「ビデオセミナーは、コロナ禍であったためオンデマンド配信で行いました。各10分~15分で、eラーニング受講中の社員へ案内し、イントラネット上で視聴することができるようにしました。下記のテーマについてeラーニングより詳しい内容で制作しました」

・緊張型頭痛(詳しい情報提供)
・片頭痛(詳しい情報提供)
・女性と頭痛(生理、妊娠、ホルモンバランスなど)
・頭痛セルフケア(治療のこと、頭痛ダイアリー、職場での対処など)
・頭痛体操(頭痛の圧痛点(押すと軽減するポイントや頭痛を楽にする体操)

●頭痛相談

プログラムの中には、医師に頭痛相談ができるものもある。

「頭痛相談は2021年2月から2022年2月の1年間実施しました。3名の専門医(うち2名は産業医)で対応し、職場の担当看護職が同席し、頭痛の相談対応について専門医から学ぶという機会にもしました。eラーニング受講者7万3千名を対象とし、希望者は376名でした(うち20名は家族の相談)。

頭痛相談を希望した理由で最も多かったのは『何年も前から頭痛に悩まされている』でした。相談において頭痛タイプの診断を行いましたが、片頭痛タイプが最も多くみられました。相談後のアンケートにおいて頭痛相談で分かったことについて確認したところ『自分の頭痛タイプを知ることができた』や『頭痛を減らす方法がわかった』といった回答が多くありました」

実際に相談があった症例を2つ紹介する。

1.30代男性社員

月の半分以上、頭痛が起こり、市販の頭痛薬を飲んで楽になるが、頭痛が消失しない。頭痛外来を紹介し、片頭痛予防薬とトリプタン(片頭痛急性期治療薬)を処方され、受診半年後には頭痛はほとんど起こらなくなった。本人は「頭痛予防薬の存在がすごく大きな助けになった」と述べている。

2.40代女性社員

25歳頃から片頭痛があり、嘔吐を伴うこともあり、夫の勧めで頭痛相談を受けた。妊娠希望があるため、頭痛外来紹介後、漢方薬とトリプタン、消炎鎮痛薬を処方された。本人は「頭痛ダイアリーを付けて、自分がどのくらい頭痛に悩まされているか認識できた。漢方薬開始後頭痛日数、強い痛みが減少し、頭痛のことを考えずに生活できるようになった」と述べている。また「頭痛がこんなによくなることを知らない人が多いのではないかと思う。治療できるということをもっと多くの人に知ってほしい」ともコメントした。

●職場環境づくり

プロジェクトでは、職場環境づくりにも注力していったという。具体的にはどのような施策を行ったのか。

「本プロジェクトは、会社の健康経営施策の一環として取り組みました。頭痛が日常生活、仕事の生産性に影響がある病気であるということを認識してもらい、たかが頭痛という認識を『頭痛という疾患』という認識に変える取り組みにしていきました」

・社内報

「社内報では、監修者の頭痛専門医、埼玉国際頭痛センター長 坂井文彦先生と当社役員との対談記事をキックオフとして、eラーニングを開講し、プロジェクトを進行しました」

・幹部社員向けのeラーニング

「eラーニング内には幹部社員向けの内容を設け、職場マネジメントによって頭痛発作を防ぐことや軽減させることを学んでもらいました。2018年に社内で行った調査のデータでは『メンバーに自分のつらさや悩みをオープンに話せない』『メンバーの反応が心配でつらくても仕事を休めない』『周囲の人に仕事上で負担をかけていると思う』と感じる社員が存在していたことを幹部社員に示し、職場の心理的安全性に問題があるのかもしれないということを伝え、1on1ミーティングをうまく活用することを提案しました。また幹部社員向けに頭痛相談の案内を送り、頭痛で苦しむ部下をもつ上司の相談も可能としました。頭痛の専門医の紹介、人事制度の紹介なども行われました」

・社内の医療職向け

「社内の医療職(産業医、看護職)には、頭痛について学んでいただき、社員と接する際に頭痛に関する相談があった場合は専門医の紹介など対応していただくようにしました」

●頭痛対策に取り組む企業へ

このプロジェクトは、国際頭痛学会の世界患者支援連合より企業として、世界で初めて、頭痛対策プログラムの世界的リーダー企業に認定された。

慢性頭痛を持つ従業員が頭痛発作に耐えながら就労を続けるケースが多く、生産性やQuality of Life(以下、QOL)の著しい低下が起きているという問題を解決するための本取り組みが、企業における頭痛対策のモデルケースとして、国際頭痛学会に評価されたという。

認定を受け、日本の他企業も同様に社員の頭痛対策を行っていく流れが作られると考えられる。その場合、まず何から取り組むべきだろうか。

「まず、その頭痛が日常生活への支障が大きい病気であること、つまり『頭痛という疾患』であることを知ってもらう必要があると考えています。その方法として、会社の健康管理、安全衛生担当者や医療職(産業医、看護職など)に頭痛に関するセミナー開催を相談することからはじめることをおすすめします。

頭痛に関するテーマをとりあげると、他の生活習慣病に関する健康セミナーよりも多くの社員が申し込んでくる印象です。セミナー開催と合わせてアンケート調査も行うと、社内の頭痛の実態が可視化できる可能性があります。

また会社内にポスターやデジタルサイネージで、頭痛に関する内容を掲載し、医療機関検索のQRコードなどで診療や治療を促すことも有効であると考えています」

今後、他の企業にも展開されていき、社員の生産性向上やQOL向上につなげる取り組みが活発になることを期待したい。

【頭痛専門医インタビュー】企業が社員の頭痛対策を行う必要性

富士通の事例を通して、企業が従業員の生産性向上のために頭痛対策を行っていく必要性が高まってきていることが、世間に認知された。

そこで、頭痛専門医に企業が社員の頭痛対策を行っていく際に重要なことを聞いた。話をうかがったのは、頭痛外来のあるらいむらクリニックの院長、來村昌紀氏だ。

【取材協力】
らいむらクリニック院長
來村昌紀氏
和歌山県出身。和歌山県立医科大学、千葉大学大学院卒業。和歌山県立医科大学附属病院にて一般内科(呼吸器、循環器、消化器、腎臓病)、皮膚科、病理、救命救急センター、脳神経外科を研修。日本赤十字社和歌山医療センター脳神経外科、独立行政法人南和歌山医療センター脳神経外科(中略)などを経て、2014年12月 らいむらクリニック開設。
資格:医薬学博士、日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、日本頭痛学会頭痛専門医・指導医、国際頭痛学会認定 Headache Masterなど

「富士通さんが頭痛対策プログラムの世界的リーダー企業に認定されたことはとてもすばらしいことです。関係各所の皆様のご努力に敬意を表します。頭痛には自分たちでもできる予防方法や急性期の対処方もあり、また現在では内服薬、注射薬をはじめ色々な治療法が発展しています。この知識を知らず、悪気はないのですが、間違った対処法や市販の鎮痛薬を使用し、悪化してからクリニックを受診される方もいます。簡単な知識を、朝の朝礼や職場での相談などで広く社員の方々や頭痛のない方にも広め、相談しやすい環境を作ることが必要だと考えます」(來村医師)

頭痛専門医に聞くビジネスパーソンの頭痛対策

ところで、現在働きながら頭痛に悩んでいる場合、具体的にどのような対策を行うとよいだろうか。來村氏にインタビューを行った。

――先生のもとに来院するビジネスパーソンの患者さんの頭痛の主な理由とそれに対する治療方法についてお教えください。

「30代~40代の男女ビジネスパーソンの頭痛の9割以上は、命に別状のない一次性頭痛です。またその中でも多いのが緊張型頭痛や片頭痛で、両者を合併している人も少なくありません。コロナ禍でリモートワークも増え、自宅での長時間のパソコン作業や運動不足、仕事のon-offのメリハリがつかず睡眠が不規則になっていることなども影響し、頭痛の患者さんが増えている印象です。

治療方法としてはまずは睡眠、食事、運動を含めた規則正しい生活がとても重要で、その次に内服治療や、最近では片頭痛予防の注射製剤も登場しています」(來村医師)

――先生がおすすめする頭痛対策をお教えください。

「頭痛対策の基本は、まずは勤務日も休みの日も寝る時間、起きる時間を同じにして睡眠を規則正しくすること、3食きちんとバランスのとれた食事をとること、適度な運動や入浴でリラックスすることです。その上で、残った頭痛に対し、漢方薬や鎮痛薬、片頭痛専用のトリプタン製剤などの頓服を利用し、月3日以上頭痛がある場合には、予防薬の投与も考慮します。現在では、内服薬以外にも、片頭痛では月に一度注射をすれば頭痛を予防できる製剤も登場しています」(來村医師)

(参考)頭痛に用いられる代表的な漢方薬(來村医師監修)

――頭痛を抱えるビジネスパーソンにアドバイスをください。

「頭痛は脳の疲れと興奮が原因です。目からの光刺激、耳からの音刺激なども脳を興奮させたり、疲れさせたりします。可能ならば部屋の電気を明るくしすぎない、パソコンのモニターの画面を少し暗目の設定にする、音をできるだけ小さくすること。スマートフォンやパソコン、テレビなど光や音を発する電化製品は必要最小限の使用にし、睡眠や食事を規則正しくし、適度な運動や入浴でリラックスすることが大切です」(來村医師)

ビジネスパーソンの頭痛は、会社をはじめ、社会全体への支障につながってしまう。ぜひ働きざかりのビジネスパーソンで頭痛に悩んでいる場合には、まずは積極的に正しい情報を求めてほしいものである。

【参考】
富士通「世界初、国際頭痛学会の世界患者支援連合より頭痛対策プログラムの世界的リーダー企業に認定」

取材・文/石原亜香利


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