前回の記事では徳島港を出発し、ツーリングがスタートしました。
夏日の海沿いを走り抜け、半日かけて旅の目的であったむろと廃校水族館に到着。思う存分廃校の雰囲気と海の動物たちとの触れ合いを堪能したのでした。
日が暮れる前にお宿へ向かっていた道中、思わぬお宝を見つけましたよ…!
四国ツーリング 室戸岬でお宝発見!
陽が傾きかけた午後5時半。高知県の東側の先端、室戸岬にたどり着いた。岬の前には土佐東街道沿いに車30台分ぐらいの無料駐車場があり、私たちはそのうちのひとつにバイクを並べて停めた。
「海の近くまで行ってみようよ」
ななちゃんが言う。
今日1日道路からは飽きるほどたくさんの海が見えたけど、遠くから眺めるばかりだった。宿まではあと3分とかからないはずだし、ちょっとぐらい時間を潰しても大丈夫だろう。
虫よけスプレーを首の周りに振りかけ、駐車場の左端から海へ向かう小道に入ってみることにした。
青々と元気に育った植物に囲まれていた道はすぐに開け、大きな岩が乱立する広い海岸に出た。波の音が大きく聞こえるので、向こう側には海が広がっているらしい。
コンクリート敷きの歩道をこのまま進めば海岸に出られるけど、岩があれば登りたくなるってものだ。
このあたりの地形は「タービダイト」と呼ばれ、数千万年前に海底にできた地層がせり上がり、地上で割れたり傾いたりして形成されたのだそう。大きい岩であれば一軒家ぐらいのサイズがあり、まるでゴジラの背中のようにゴツゴツしていた。
「ちょっと待って、ななちゃん速くない?」
どうして、年齢も体格もほとんど同じなのにまったく追いつけない。ななちゃんはただの階段を登っているみたいな調子で「こういうの得意なんだよね」と笑っているじゃないか。
対して私はなるべく平らな場所を探し、両手両足を使って這うように進む。岩の上はバランスがとりにくい。ライディングブーツの靴底が分厚いから?とも思ったけど、あまり関係はなさそうだ。
コケたらタダじゃ済まないぞ。おそるおそる1歩ずつ前へ進む。こういう時って足元ばかりを見るから危ないんだっけ?
「はるかちゃん!見て、コレ!」
声がする方を見ると、先に波打ち際まで降りたななちゃんが何かを拾いあげている。
思い切って飛び降りるように近くまで行くと、持っていたのは500円玉ぐらいのサイズの巻貝だった。欠けてはいるけど、滅多に見かけないようなビッグサイズ。
「ウソ!大きくない!?……いや、ホントだ。よく見たらこのへん貝殻だらけ!」
それまでは小石の山にしか見えていなかったけど、目を凝らしてみると薄紫や茶色、オレンジ色の貝殻がバラバラと散らばっている。
ほとんどは親指の爪ぐらいの小さな貝。だけど100個に1個あるかないかの割合でビッグサイズが混ざっていて、その中のいくつかは割れも欠けもなくキレイな状態で打ち上げられていたのだ。
急に無言になって物色し始める。
落ちていたのは貝殻だけじゃない。カニの甲羅、サンゴ、イカの骨、干からびた海藻。一気に夢中になった。
カニなんてほとんど全身が残っていて今にも動き出しそうなのに、つま先でつつくと発泡スチロールのように軽い。中身が空っぽだった。
一瞬ゾッとしたけど、すぐに拾い上げて自慢した。
「それはさすがに気持ち悪いって!」
思わず逃げ出すななちゃん。持ち帰りにくそうなので、カニは元居た場所に戻しておいた。
1時間ぐらいかけてようやくお気に入りを選び、最後に私の螺鈿みたいに光る貝と、ななちゃんのツヤツヤなキャラメル色のタカラガイを交換した。
貝殻をお金代わりにおままごとをしていた幼少期にタイムスリップしたみたいだった。
実家みたいなお宿「室戸荘」
同じ道を引き返すのも面白くないから、「アコウの木」と書かれた方へ寄り道をしながら駐車場に戻ることにした。
アコウとは温暖な地域にみられる植物だそうで、髭のようにもじゃもじゃと別れた枝と根っこが特徴だ。あまりの枝の多さに夕暮れ時のわずかな光すらも遮られ、周辺は不気味に感じるほど暗かった。
「ブレスオブワイルドのステージにこんな木あったよね」
二人ともが遊んでいるゲームの名前を出すと、ななちゃんも「確かに」と笑う。
ステージの中には馬みたいな姿の強敵がいて、操作がヘタな私には回復アイテム無しでは倒せない。昨日の夜も攻略方法を相談したばかりだ。
再びゲームの話をしながら歩いていると、まもなくアスファルト舗装の道路が見えた。土佐東街道へ戻ってきたのだ。
道路を挟んだ反対側に見覚えのある建物があった。室戸岬に来るのは初めてなのに一体どこで見たんだろう?
──すぐに答えが思い浮かんだ。
「あ、室戸荘!今日泊まる宿だよ。こんなに近かったんだー!」
駐車場に戻ってバイクに乗った。近いと言っても100mほどの距離があるので、押していくには少し苦しい。
わずか30秒後、玄関の前でヘルメットを脱いだ私たちを、女将さんともう1人のスタッフの女性が迎えてくれた。「お母さん」とついつい呼びたくなるような、明るく気さくな雰囲気のおふたりだ。
「バイクはこの中に入れてくれたらいいからね」
案内してもらった場所は思わず「土足でいいんですか?」と聞いてしまったほど、生活感のある普通の部屋だった。
ただし、真ん中には大きなビリヤード台(ご主人が数十年前に購入したものらしい)が机のように置かれ、奥に続く食堂との境にはのれん代わりの大漁旗が下がっていたけれど。
屋根と扉のある場所に駐輪させてもらえる嬉しさ、きっとライダーの方にはわかるだろう。盗難や悪天候の心配をせずにぐっすり眠れるのだから!
案内してもらった2階の和室は古いけど清潔で、薄型のテレビが少し浮いていた。まるで実家のように落ち着く部屋だ。
窓の外からは海が見える。さっきまで散歩していた場所だ。
まずはジャケットとライディングパンツを脱いで浴衣に着替える。一気に身体の力が抜け、今日を無事に走り切った実感が湧いた。走ったのはたったの130kmだけど、和歌山を出たのが今朝のこととは思えないぐらいにずっと前のことみたいだ。
軽くシャワーを浴びて汗を流し、すぐに夕食をいただくことにした。
食堂へ行くとすぐにカツオ、キビナゴ、黒ムツ、など新鮮な海の幸がたっぷりと机に並べられた。
お刺身が美味しいのはもちろん、金目の煮物は身が柔らかく、甘めの味付けが染み込んでいて冷酒が進む。お味噌汁は疲れた体に染みわたり、心の栄養を摂取しているみたいだった。
(背景に写る岩は、なんと壁を突き抜けて外に繋がっている。この建物の建設時、硬く大きく取り壊せなかったため、壁に取り込む形で施工したんだとか!)
女将さんはお話好きな方で、食後は部屋に戻って二人で飲みなおそうと思っていたところ、ついつい食堂に長居をすることになった。
室戸荘の水道水はこのあたりで一番美味しい自信があること、10年以上前に大きな台風が来た日の夜のこと、昔泊まりに来たお客さんが乗っていたハーレーが大きくて部屋に入りきらなかったこと、そのカスタム費用を聞いてひっくり返りそうになったこと…。
ずっと喋って笑っていたら、気が付けば22時近くになっていた。初めて会う人とこんなに長い時間会話をしたのっていつぶりだろう?
最後に女将さんがポロっと言った。
「せっかくここまで来たんだから、ひろめ市場まで行ってカツオの藁焼き食べてみたら?明日帰るって言っても、夕方の船なら大丈夫やろ。」
ななちゃんと二人で顔を見合わせた。
ひろめ市場は高知市の中心地にあり、室戸岬から西へ85kmほどの距離がある。徳島港から18時55分出航の船に乗ることを考え、諦めていた場所だ。
地図を思い描き、想像の中でバイクを走らせてみる。長居はできないけど、行けなくもないのか?
部屋に戻ると夜風でカーテンが揺れていた。昼間あんなに暑かったのが嘘みたいに涼しい。
1台の車も通らない夜の室戸岬。海が青白く月を反射し、静かに波が打ち寄せる音だけが絶え間なく聞こえてきた。
「…高知市、行っちゃう?」
自分の中では答えは出ていたけど、あえて冗談っぽく聞いてみた。
きっとななちゃんも同じ考えのはずだ。
今日は早寝に徹した方がいいな。でも、すぐに出発できるように荷物もまとめておかないと。
そう思いながら、頭の中では既に明日の走行ルートを練り直しているのであった。
【続く】
文/高木はるか
アウトドア系ライター。つよく、しぶとく、たくましくをモットーにバイクとキャンプしてます。 愛車はversys650、クロスカブ110、スーパーカブ90。
高木はるかの記事は下記のサイトから
https://riding-camping-haruka.com
編集/inox.