小麦粉などのつなぎを使わずに、そば粉100%で作る「十割そば」などの高配合乾麺蕎麦が、近年グルテンフリー食品として大きな注目を集めている。そばは日本人の食生活を語るうえで欠かすことのできない伝統料理である一方で、寿司やてんぷらほど、海外で話題になることが少ない。これはどうわけだろうと、疑問に感じている人は多いはずだ。
そばを使った伝統料理は世界各地に存在する
そばの実を炊いてお粥のようにして食べるロシアの「カーシャ」、そばがきのようにして食べるネパールの「ディード」、それからクレープ状にしたそばの生地にハムやチーズなどを乗せて食べるフランスの「ガレット」は日本でもなじみの深い伝統料理のひとつだろう。しかし、それらの多くは温かい料理である。そのため、「ざるそば」のように冷たい蕎麦を食べる日本の文化は世界でも珍しいのだとか。
では、産地はどうか。そばを世界で最も多く栽培し、かつ最も多く食べている国はロシアだといわれているが、日本で最も食べられるそば粉がロシア産であるとは言い切れない。
農林水産省が発表した「そば及びなたねをめぐる状況について(平成25年度)」によると、日本国内におけるそばの需要量は年間12~14万トン程度。そのうちの約76%は外国産で、85%を中国産、13%をアメリカ産が占める。国産のそば粉で作られる蕎麦は3~4万トン程度だというから、それが加工食品である乾麺蕎麦となると実は希少だ。
そばの国内生産1位は北海道!乾麺蕎麦の生産量は長野県に軍配
次に、日本におけるそばの産地を見てみよう。日本最大のそばの産地は何と北海道で、年間生産量の何と約40%程度(1万1500トン)を占める。生産量第2位の長野県が7.4%(2130トン)なのだから、北海道の生産量は圧倒的だ。ただ、乾麺蕎麦に目を向けると話は変わる。
DIME編集室の独自調査によると、そば粉を80%以上配合した高配合の乾麺蕎麦を作るメーカーは日本全国に20社足らず。そのうちの3分の1を、長野県に拠点を置くメーカーが占め、さらには全国トップの生産量を誇るのはそば専業メーカーの「おびなた」であったり、そば粉100%で作る乾麺蕎麦の元祖が「山本かじの」であったりと、やはりそば処として有名な長野県の存在感は増す。
乾麺蕎麦ならではのマルチな調理法にも注目!
近年はメーカー各社で高配合がトレンドになったことで、麺線や食感、海藻をつなぎに使った「へぎそば」など、乾麺蕎麦のバリエーションは一気に拡大した。また、意外と知られていないが、乾麺蕎麦は生蕎麦と違い、煮る・焼く・炒めるなど、様々な調理法に対応する使い勝手の良い食材である。
そんな乾麺蕎麦の食材としての新たな可能性に脚光を当てた、かつてないレシピ本が登場した。『分とく山・野﨑洋光監修 DEEN池森の「創作」』である(池森秀一・著 小学館・刊 定価1650円)。
芸能界きっての蕎麦好きと知られるDEEN池森秀一池森さんと日本を代表する料理人「分とく山」の野﨑洋光さんが乾麺蕎麦を使った創作料理で夢の競演を果たした本書には、サルサソースをたっぷり使ったピリッと旨辛の「サルサそば」、宮崎県の郷土料理をそばつゆにアレンジした「冷や汁そば」など、それぞれが考案したオリジナルの乾麺蕎麦レシピ50点が収録されている。
猛暑が予想されるこの夏は、キリッと冷えた高配合蕎麦で、あるいは新感覚の創作メニューで健やかに乗り切ってみては?
取材・文/渡辺和博