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話題のDX小説第14話【TOKYO 2040】アイ・ドロイド

2022.07.04

コロナ禍を機に、一気に加速した「DX」だが、行きつく先にはどんな未来が待っているのか。一昨年の都知事選にも立候補した小説家、沢しおんが2040年のTOKYOを舞台にIT技術の行く末と、テクノロジーによる社会・政治の変容を描く。

※本連載は雑誌「DIME」で掲載しているDX小説です。

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【これまでのあらすじ】
 二十年のうちにデジタル化が浸透した二〇四〇年の東京。都庁で近々役割を終える「デジタル推進課」の葦原(あしはら)は、現実社会と量子ネットワークの両方から消えた住民データの調査を進めるさなか、課長の大黒からデジタルとは真逆の「ご神木」の過去を聞かされるが、にわかに信じることができず──。

アイ・ドロイド

 櫛田(くしだ)と橘樹花(たちばなじゅか)はまるで姉妹のようにおしゃべりしながら歩いてきた。葦原には、櫛田がどうやって橘に話をつけたのかわからず、意外に思えた。

「葦原さん、いいタイミング」と櫛田は微笑んだ。

「どういうことです。橘さんの来庁が急にキャンセルになったんで変だと思っていたんですが」

 葦原が言いかけたのを遮って、橘が割り込んでくる。

「受付の人に言ってキャンセルしてもらったんだ。櫛田さんとバッタリ会っちゃったから。一緒に警察についてきてくれるって言うし」

 橘があっけらかんと答えた。

 もし行き違いがあって来庁者管理システムからの通知がなかったら、葦原は情報公開課の窓口でずっと待ちぼうけを食う羽目になっていた。


「橘さんのお兄さんの手がかりがデジタルツインにあるかもしれないって、その説明はどうするつもりだったんですか」

 意地悪な言い方をしてしまったと、葦原は思った。

「デジタルツインって聞いた時何だかわかんなかったけど、学校の友達にちょっと訊て調べたらすぐわかった。東京がまるっとメタバースにコピーされてるんでしょ。そこに兄がAIのアバターを放置してたら、そいつを見つけて問い詰めればいい」

 すぐ友人に聞いて理解したことには感心したが、「そいつを見つけて問い詰めればいい」なんて行き当たりばったり過ぎる。

「そんな話……」と櫛田は葦原に顔を寄せ、「応対の記録、残らないほうがいいと思ったから」と耳打ちをした。

 つまり、彼女はそのために受付の手前で橘を待ち伏せて合流したことになる。

 櫛田の言うとおり、来庁者のキャンセルはログに残るが、庁舎を出てしまえばPA端末も行動履歴を取得しないため、これから橘とどんな話をしようが記録されることはない。

 だが葦原は、この一連のことは隠すものでもないと思っていたし、前回の対応も記録に残っているので、なぜ櫛田が記録を残さないように気を回したのかわからなかった。

「お二人って、待ち合わせしてたわけじゃないの?」

 橘が葦原と櫛田を交互に見て、いたずらっぽく訊いた。「お二人」なんて言い方がとてもわざとらしい。

「違います。情報公開課で、橘さんの応対をするために移動してきたんですよ」

「え、だって、カバン持ってるの、どう見たって帰りでしょ」

 分庁舎(はなれ)を出る前、葦原は大黒の話をそれ以上聞きたくなかったので、戻らないつもりで荷物を持ってきていたのだった。

「……大人は行き帰り以外にも鞄を持ち歩きます」と、PAでそのまま退勤処理をした。

 三人はコミュニティーバスの後部シートに落ち着いた。しばらくは何を話していいかわからずそれぞれ黙っていたが、葦原は思いついたことがあって「櫛田さん」と声をかけた。

「ちょっと聞きたいんですが。文書課だから公文書館とやり取りありますよね」

「西国分寺のなら、連絡するのはたまにかな。今は行政文書のファイルは全部自動でアーカイブされるし、打ち合わせもなくて」

「昔は違ったんですか」

「私は直接知らないけれど、うちの課長が言ってた。毎年わざわざ保存するものとしないものを内容や期間で仕分けして、プライバシーに関わる部分の黒塗りも一つ一つ人がして、それから公文書館へ送ってたんだって」

「今は全部ヌーメトロンにぶらさがっている文書管理システムのAIがやってるわけですね」

「それで、葦原さんは公文書館に何か」

「分庁舎のことを調べたいと思ったんです。かなり前に、ご神木を切ってその上に建物で蓋をしたって、信じられますか」

「もしかして、大黒さんがその話を?」

「そうです。よくわかりましたね」

 課長の大黒のことは一切言わなかったのに、櫛田が言い当てたことに葦原は驚いた。

「あ、ほら、大黒さんはデジタル推進課ができた時に一度配属されたことがあったって、前に聞いたから」

「そうなんですね。大黒課長、変なこと言ってるなって思ったんですが、建物のことが気になったもので。自分は築百年ぐらいと思ってたんですが、作ったの二十年前くらいかもしれないんですよ、信じられますか」


 櫛田は答えずに葦原から目を逸らし、イヤホンで音楽を聴いていた橘に声をかけた。

「ねえ、橘さんはああいうのに憧れたりする?」

 車内モニターにはアイドルのライブ広告が映し出されていた。

 話しかけられた橘はイヤホンをはずして顔を上げ、モニターを眺めた。

「あー、この子。〝アメノナツキ〟でしょ。最初に流行(はや)ったダンス動画、夢中になって真似してたの中一の頃だから、もう五年も前だよ。私の年齢が追いついちゃった、もうすぐ追い越すしヤバい」

「追いつくとか追い越すって、なんですか」と葦原は訊いた。

「あの子、永遠の十七歳だから。アイ・ドロイド」

 葦原はそう言われてやっと、モニターに映っていたのは人間に似せて作られた精巧なアイドル型アンドロイドの「アイ・ドロイド」であると理解した。

「あのアイドル、どこかで見た覚えはあったんですが、ずっと人かと思っていました」

 葦原はアメノナツキが人間と見紛う姿で歌い踊っているモニターにもう一度目をやった。

「珍しそうな感じで見てるけど、毎年曲もダンスもバズッてたのに、葦原さん、アメノナツキ知らなかったとか?」

「あまりアイドルに興味がなくて、すみません」

 高校生にまくし立てられて葦原は居たたまれなくなる。

「アンドロイドを使っていいのはタレントや俳優の芸能と、あと何だったかな……」

 櫛田はすこし考え込んで、ちらりと葦原に視線をやった。

「あとは窓口や受付などの単純な応答業務ですね。それでも用いる場合は誤解を与えないような表記とセットにしておく必要があります。規制法に記載があります」

「アメノナツキを知らなくても法律のことは知ってるんだ」

「AIやドローン、アンドロイドに関する様々な規制は、職務に関係がありますので。一昨年に改正案が国会を通って、もうすぐ施行されて、アンドロイドをどの職種でも使っていいことになります」

 面目躍如とばかりに説明するが、気づくと橘は元の通り、スマホの画面に目を落としていた。

「……本当は歌もダンスもタイミングどおりできるのに、わざと人間味を付け加えられてるんですよね、ああいうの。それも技術のうちですね」

 橘が興味を持ちそうな内容を付け加えたが、耳に届いていないようだった。それを見ていた櫛田が、笑って場を繋いだ。

「アンドロイドの中に入っているのがどんなAIかは知らないけれど、人間みたいな意識があったら何で歌やダンスをしているのか、自問自答してしまうかも」

「電源が入っている時に、あらかじめプログラムされた動きや応答をするだけでは」

「逆。私たち、物心ついた時から色々な仕事がAIやロボットに置き換わってるでしょう? ヌーメトロンのAIが自由に仕切ってる下で、職員にはまだプログラムみたいなルーティンワークが残ってるって、どっちがロボットかわからないじゃない」

 葦原は櫛田が急に不満か皮肉かわからないことを言ったので、答えに戸惑った。

 コミュニティーバスが新新宿(しんしんじゅく)警察署前に着き、三人はそこで降りた。

「人の形を使っちゃいけなかったから、あんな形してるんでしょ?」

 橘は警備ドローンを指した。

 ギリシャ神話に出てくる半人半馬のケンタウロスに似た異形(いぎょう)が、据え付けられたカメラの内側から睨んでいる気がした。

(続く)

※この物語およびこの解説はフィクションです。

【用語・設定解説】

AI・ドロイド規制法:ビッグデータやオープンデータ、民間と行政のデータ連携において個人情報保護法が2020年代に何度か改正されたが、その後AIがデータをどう扱った上でアウトプットすべきか、震災後の復興に欠かせなくなった人型ハードウェアで発生するインシデントをどう解決すべきかということが議論となり、2030年代半ばに立法された。

アイ・ドロイド:2035年頃にアイドルグループの新メンバーとしてアンドロイドが加わったことでブームに火が付いた。この物語の世界では自立行動型のアンドロイドが存在している。

沢しおん(Sion Sawa)
本名:澤 紫臣 作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選にて9位(2万738票)で落選。

※本記事は、雑誌「DIME」で連載中の小説「TOKYO 2040」を転載したものです。

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