イガ・シフィオテンテクの勢いが止まらない
今年2大会目のグランドスラム(国際テニス連盟が定めた4大大会、開催時期順に全豪、全仏、ウィンブルドン、全米)となるローラン・ギャロスことフレンチ・オープン優勝を果たし、現在35連勝中の女子テニス選手、イガ・シフィオンテク。
35試合連続勝利は、ビーナス・ウィリアムズ選手と並び、2000年以降では世界一となる記録です。
破竹の勢いで堂々の女子ランキング世界一位に君臨する彼女は2022年5月31日、フレンチ・オープン期間中に21歳になったばかり。
眩く煌めく新星の活躍にテニス界が湧いています。
プロフィールとプレースタイル
イガ・ナタリア・シフィオンテクは2001年5月31日にポーランドのワルシャワで生まれました。
176cmと長身で、右利き。プロに転向したのは2016年のこと。現在は日本ブランドのアシックスのウェアを着用しています。
彼女のロールモデルはフォアハンドのヘビースピンでは右に出るものがいないラファエル・ナダル選手。
ナダルにインスパイアされたイガのプレイスタイルはスウィングスピードの速さとフットワークの良さを武器に、スピンを多用する攻撃的なオールコート型です。フォアハンドのトップスピンはナダルにも匹敵するほどのスピードを記録しています。
ベースラインからのドロップショットを効果的に使い、見事なウィンドミル(頭上までラケットを持ち上げるフォームのショット)で会場を沸かせます。
実は2年前、2020年のフレンチ・オープンでもタイトルを獲得している彼女。
当時の世界ランキングはまだ54位で、ノーマーク選手だったにもかかわらず、全試合ストレート勝ちで優勝を飾り、世界を驚かせました。それはランキングが採用されるようになってから、最も低いランキングからの全仏タイトル獲得でした。
その後2022年にポーランドの選手として初めて世界ランク一位に輝き、WTA1000トーナメントの インディアンウェルズとマイアミを連覇、史上4人目となるサンシャイン・ダブルを達成。
引き続き勝利を重ね、連勝記録を伸ばしながら今回のフレンチ・オープン優勝に至ったのです。
素顔に迫る等身大のエピソード
フレンチ・オープンでココ・ガウフ選手を破って優勝を決め、自陣のスタッフと喜びあっていた最中、ポーランドのサッカー界のヒーロー、ロベルト・レバンドフスキ選手(バイエルン・ミュンヘン所属)が試合を観戦していたことに気がついたイガ。
「信じられない!」とばかりにあどけない驚愕の表情を見せました。
母国のヒーローの突然の登場に相当驚いたようで、試合後の記者会見では、「彼は何年も前から我が国のトップアスリートで、今でも彼が実際に私を見に来たなんて信じられない」とコメント。
感情表現豊かな飾らない人柄が垣間見えた瞬間でした。
6月2日に行われた準々決勝では勝利後にテレビカメラにメッセージを書こうとして自分の年齢を間違えたシーンが話題に。
前々日に誕生日を迎えたばかりだったというのに、「#22」と、1歳多くサバを読んでしまいました。年齢に頓着ないのかもしれません。
日本の大坂なおみ選手と仲がよく、試合で当たった際にはコイントス後に微笑みを交わして頷き合い、互いの健闘を約束しあっています。
インスタグラムで一緒にライブをやった時には、好きなアイスクリームのフレーバーについて盛り上がっていました。
プレイ中は頭の中で歌を歌っているというイガ、フレンチ・オープン4回戦中に歌っていたのはデュア・リパだったそう。
女子テニス世界ランク1位、イガの願い
2022年にロシア政府によるウクライナ侵攻が開始してからは度々キャップにウクライナカラーのリボンを着けてプレイをしているのが注目されていた彼女。
フレンチ・オープン優勝スピーチでは「ウクライナの人々に強くあって欲しいと伝えたい。まだ戦争は続いているから」と話しました。
ウクライナの隣国であるポーランド出身のイガは、ウクライナの現状がもっと広く知られるべきと、世界中の注目を集めるテニスマッチで自身の優勝を効果的に使って戦争が続く現実を訴えたのです。
記者会見でも発信することの大切さに触れていました。
現在はウィンブルドンへ向けて、ひとときの休息を取っているイガ。
赤土に続いて次は芝での戦い。ずば抜けたフットワークで、コート狭しと走り回る姿が楽しみです。
文/山根那津子
ジャーナリズム誌やカルチャー誌の編集をしていた何者でもないただのフェミニスト。自身のミソジニーに気がついて一時ベルリンに移住。書くこと、描くことが好き。
編集/inox.