■連載/阿部純子のトレンド探検隊
ルンバの動きをRootで再現することでプログラミングの仕組みを学ぶ
アイロボットでは未来のエンジニアを育てるSTEM教育に取り組んでおり、一昨年に発売されたプログラミングロボット「Root」は、全国38都道府県の学校に導入されている。
プログラミングを学ぶ意義や目的、楽しさを感じてもらえるように、日本法人からの呼びかけでアメリカ本社と共同開発した、Rootを使ってプログラミングを楽しく学ぶ小中学生向けカリキュラム「ルンバ エンジニアリングコース」を新たに開発した。
プログラミング教育の課題は、プログラミングが実生活にどのような形で結びつくのかイメージがしにくいという点。ルンバ エンジニアリングコースは身近にあるルンバの動きをイメージしながら、Rootで再現することでプログラミングの仕組みを学ぶ。
Root本体には、バンパーセンサー、タッチセンサー、色を認識するセンサーなどさまざまなセンサーを搭載。自身のプログラミングのレベルによって、アプリのレベルも上げることが可能で、ブロックを使った初歩的なプログラミングから、コードを直接入力するレベルまである。Rootを使った学習カリキュラムの主な特長は次の3点。
〇ルンバの動きを再現
ルンバは壁にぶつかると少し後ろに下がり、向きを変える。そのためにはどのような条件の時にどのような動きが必要になるか、それをRootで再現するために、どのブロックをどういった形で組み合わせる必要があるのかなど、ルンバの動きをイメージしながら、プログラミング的思考が学べる。
〇多彩なアクティビティ
アクティビティコンテンツは全45個。基本的なブロックを学ぶところから始めて、バンパーセンサーの仕組み、侵入禁止エリア、ダートディテクトなどルンバの動きを再現しながら、最後はオリジナルのクリーンマップを子どもたち自らが設計して、ルンバと同じように清掃するミッションまで到達する。
第一弾となる今回は初級のカリキュラムだが、今後はより上級のカリキュラムも開発して、子どもたちが段階的に学べる道筋を作っていく。
〇アイロボット社員によるレッスンムービー
子どもたちが視覚的にカリキュラムの内容を理解できるための動画コンテンツ。アイロボットの社員が登場して、アクティビティを説明。今後ブランドサイトに順次アップデートしていく。
日本では未発売だが、アメリカでは「Create3」というプログラミングロボットがある。見た目はルンバそのもので、充電するためのホームベースも付いている。Create3は多彩なセンサーを内蔵しており、ROS2やPythonといったハイレベルなプログラミングができる仕様になっているが、Rootと同様にブロックを組み合わせることで、簡単に動かすこともできる。
Create3のセンサーはRootのセンサーと異なり、組み合わせ方によって再現方法も異なってくるが、ルンバのように室内の環境を把握するためにセンサーを組み合わせて、情報を基にしたより高度な動きができる。さらにエンコーダー、ジャイロスコープ、速度計が付いているので、走行させながらどのくらいの距離を、どのくらいの傾きで動いたのかといったデータを取ることも可能。
Create3の天面部分にカメラを付けたり、アームを付けて物をつかんだりするプログラミングを組むユーザーもいて、Rootでは出来ないより応用した動きを行うことができる。
RootもCreate3も専門的な知識がなくても、だれでも簡単に動かすことができるロボット。アイロボットでは、子どもたちがRootをきっかけにプログラミングに興味を持ってもらい、ルンバ エンジニアリングコースを通じて学び、理解を深めて、最終的にはCreate3を使った本格的なプログラミングができるシステムを開発していくという。
この取り組みの一環として、教育機関向けにRoot6台とCreate3 1台の無料貸し出しパッケージを用意。レンタル費用や送料は無料で、教育機関であればだれでも申し込むことができる。
【AJの読み】SDGs4「質の高い教育をみんなに」を実現する取り組み
アイロボットではコリン・アングルCEO自らが主導し、2009年からSTEMプログラムを社内に導入。日本でも2018年からボランティア社員により、ルンバの実機を使ってのプログラミング教室を開催している。新型コロナの影響で2020年から中断していたが、今年の7月24日に約2年半ぶりに再開する。
アイロボットが長年取り組んできたSTEM教育への想いを形にしたプログラミングロボットがRoot。ルンバ エンジニアリングコースのサイトには、Rootを導入した授業の様子の動画もある。動画で紹介されている大阪府摂津市の別府小学校では、Rootを使ったプログラミング教育を始めたところ、不登校だった生徒が再び登校するようになったという。
アイロボットでは国籍や人種、性別を問わず、すべての子どもたちが平等に教育を受ける権利があると考えており、STEMやRootを通じて、SDGsの4項目「質の高い教育をみんなに」を実現するための課題解決に取り組んでいる。
多くの子どもたちにプログラミングを身近に体験できる機会を創出する、日米共同開発カリキュラムの今後の展開に注目していきたい。
文/阿部純子