【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第55回:イーロン・マスクの「日本消滅」発言に婚活支援AIや育児ロボで対抗できるか?
「fake door test」という効率的な手法だけど…
宅配ピザ大手「ドミノ・ピザ ジャパン」が一部の顧客に実施している架空商品を用いたオンラインでの需要調査が、消費者の気持ちへの配慮が欠けているということで批判されています。
同社は需要予測のために、オンラインによる注文サイトで、実際には販売していない新商品候補をそれとわからない形でメニューに紛れさせているとのことです。オンラインで顧客が架空商品を注文することに決めると、ネタばらしをし、お詫びとしてクーポンを提供しているとのことです。
この件が話題になった時期に、回転ずしチェーン大手「スシロー」が宣伝していた期間限定の寿司が、実際には販売されていない「おとり広告」であるとして非難されました。スシローについては、消費者庁が運営会社に対して景品表示法に基づく措置命令を出しました。
スシローの場合は、顧客におとり広告であったことを伝えず騙したままだったという点がドミノ・ピザとは異なりますが、ドミノ・ピザについても、架空商品が架空であると知らないままに検討していた段階では顧客は騙されていたということかと思います。私も、オンラインで商品を注文することがありますが、いろいろスクロールして検討し、買い物かごに入れたと思ったら入っていなくてやり直したり、といった経験があります。こういったプロセスは、慣れたサイトでない限り、かなり時間をとられます。
実際に商品を開発する前に、どの商品が実際に需要があるのかをできるだけ正確に知ることで、商品開発コストを抑えたいでしょうし、調査費用も抑えたい、というところかと思いますが、そのために消費者側がコスト負担を負わされるということは問題でしょう。
ドミノ・ピザが採用した需要予測の手法は、海外では「fake door test」(FDT)と呼ばれる方法で、効果が高いとされています。しかし以前から、顧客が騙されたと感じないような配慮の必要性があるなど、リスクも指摘されていました。それでもこの手法を導入したくなるほど、需要予測には需要がある、ということでしょう。
AIには、どんな商品データを分析させればいい?
需要予測は、「どのような商品をどのような時に食べたいですか?」といった単刀直入なアンケート調査は、現場の経験や勘に依存した方法では難しいため、多様なAIの導入が進んでいる分野ではあります。
AIへの期待が高いとはいえ、有用なデータを入れられなければ役に立ちません。需要の根拠となるデータが無ければ、やはり正確な需要を予測することは難しいのです。何が、いつ、どのくらい売れたか、というデータを入力しただけでは、需要のある新商品の開発には繋がりません。「どのような特徴をもった商品」がどのくらい売れたかというデータが重要です。各商品の特徴を詳細にデータ化していく作業は骨の折れる作業です。そもそも、需要予測するためにどういった特徴を入力すればよいかを決定し、人手でデータを準備することも難しい作業です。単純に売れた商品の画像をAIに入れて、画像特徴を分析させて、新商品候補画像と比較し、どの商品候補が選ばれる確率が高いかを予測しようとするAIで、本当に人が食べてみたいと思える商品の予測ができるのか、確信をもってAIに任せることも難しいかもしれません。
そういった中で、どの商品候補が実際どのくらい選ばれる確率が高いのか、直接顧客に聞いてみるのが速くて確実、と安易に思ってしまうのだろうと思います。しかし、どのような商品が売れているのか、日頃から地道にデータを蓄積していく仕組みを導入することが、持続的に売れる商品開発と顧客との信頼関係の実現において重要なのではないかと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。