アジャイル思考(価値創造思考)で「まずやってみる」
「eve auto」は、工場建屋内も走れるコンパクトな設計ながら、1,500kgまでの牽引と300kgまでの積載が可能
ヤマハ発動機から、グループ会社eve autonomyが今秋から本格的な提供を計画している「eve auto(イヴオート)」の試験導入に関するレポートが届いたので概要を紹介していきたい。
検査用サンプルを載せて事業所内を自動走行する「eve auto」
工場の敷地内をゆっくりと走る小柄なEV。しかし、運転席には人の姿が見えない。「eve auto」は、EVによって生産現場の搬送工程を自動化する新しいソリューションサービス。ヤマハ発動機のグループ会社、eve autonomyが今秋から本格的な提供を計画している。
上の写真は、三井化学と出光興産の出資によるポリプロピレンとポリエチレンの製造・販売会社であるプライムポリマー 姉崎工場の事業所内。同社ではこの春から全国に先駆けて「eve auto」を試験導入し、すでに一部搬送工程の自動化を実現している。
「幸いなことに、当社にはアジャイル思考(価値創造思考)を奨励するような空気感があります」
そう話すのは、同社で導入を牽引した外崎勇太朗氏(生産・技術部)。
「まずやってみて、細かく確認しながら、浮かび上がった課題を一つずつ潰していこうという思考です。この考え方が、搬送の自動化にいち早くチャレンジできた背景の一つとなりました」
同社で「eve auto」が担っているのは、ポリプロピレン樹脂の搬送。生産された樹脂の一部をサンプルとして検査するために、現場から約1キロ離れた施設まで、昼夜問わず、毎日30回ほど運んでいる。
「eve auto」の導入以前、この作業は自転車などを使って人が行っていた。1回あたり約10分、1日で約5時間、1年間でじつに1,800時間前後の労力がこの搬送作業に費やされていた。
実績と知見を積み上げて領域拡大を
「導入しやすいサブスク方式のサービスが、アジャイル思考にマッチして早期導入につながった」と外崎氏
その一方で、導入前には少なからず不安も抱えていたという外崎氏。
「大きなところでは二つありました。まず、安全性です。姉崎工場は危険物も取り扱っておりますので、事業所内の混合交通の中で、果たして安全な運行が確保できるか? といったところ。もう一つは、自動化ツールとしてのEVを十分に使いこなして、きちんと価値を生み出せるか? というものでした」
実際にテストランが始まると、確かに小さな課題がいくつか浮上した。走行ルート上で行われる各種工事や路上駐車、また通行路まで伸びてくる雑草など、走らせて初めてわかった課題もあった。
一方で懸念していた安全性については、以下のように語った。
「逆に夜勤中の明け方によく発生した自転車の転倒リスクなどが軽減し、手ごたえを感じ始めています」
さらに続けて外崎氏は話す。
「思い描いていた姿を100とすると、現在はまだ70くらいの段階です。走行に関する種々の課題はほぼ解消されていますが、慣れ親しんだ自転車から自動化への転換に、人の方がやや追いついていない部分も見受けられます」
とは言え、動き出した搬送の自動化に「ゆくゆくは、ガスのサンプルなど、危険物の搬送も自動化できるように実績と知見を積み上げていきたい」と語った。
ヤマハ発動機 広報グループ・岩崎慎氏の見解
慢性的な人手不足に悩む生産現場で、自動化は大きな課題。しかし「つくる」という工程に較べて「運ぶ」の自動化は進んでいないと言われています。運用が始まり、その姿を見守る外崎さんは、「2030年頃には事業所内のあらゆる搬送作業が自動化できるのでなはいか」という実感を持っているそうです。これからの数年間が「搬送の自動化」の成長期となるかもしれません。
構成/土屋嘉久(ADVOX株式会社 代表)