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【カブガールが行く】バイクで行く女子二人旅

2022.06.05

「やったー!四国に上陸だぁーーー!」

ヘルメットに装着したインカムのスピーカーから聞こえる大きな声。古いラジオみたいなガビガビとした音質にも関わらず、彼女の声がいつもよりもはずんでいることが伝わってきた。

暗い車両甲板の中からは、四角く開いた出口がまるで光の塊みたいに真っ白に輝いて見えた。船の排気ガスと潮の香りの混ざった風が絶え間なく入ってくる。

目を細めたままアクセルをゆっくりと回し、私も負けじと答えた。

「徳島到着!今日はいっぱい走るよーっ!!」

近づくにつれて、何も見えなかった白い四角の中に快晴の空と港の輪郭が浮かび上がってきた。

そうだ、四国へ行こう!

そもそも今回の旅は、数年来のバイク友達で、カワサキのKLXに乗っている ななちゃん からのお誘いがきっかけだった。

ななちゃんと私は共通の知り合いを通じて仲良くなった。同じ大学の出身で…と言っても、それを知ったのは卒業した後だったのだけど、なにかと気が合うので性格も似ているんだろう。

ある晩飲みながら電話をしていた時、ふと思い出したようにななちゃんが言った。

「そういえばはるかちゃん、今度バイクで『むろと廃校水族館』に行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」

むろと廃校水族館は、高知県室戸市にあるその名の通り廃校を利用した水族館。教室やプールなど小学校らしい雰囲気は残しつつも、跳び箱や手洗い場といった意外なアイテムが魚の展示に利用されているらしい。

オープン時にずいぶん話題になっていたので、ニュースサイトかなにかで私も聞いたことがあった。

「移動が多くなりそうだから、さすがにキャンプは難しいと思うんだよね。行くとしたら1泊2日で旅館かホテルに泊まることになると思うんだけど…」

これまで二人で何度かキャンプに行ったことはあるけれど、それ以外は日帰りで遊ぶことが多かった。ガッツリとツーリングをしての泊まりがけ旅行は初めてのことだ。

というか、最後に友達とキャンプ以外の旅行に行ったのって何年前だろう?コロナ禍もあって思い出せないぐらいずっと昔のことだ。

実を言うと、私は普段人とツーリングに行くのを極力避けている。走るリズムや速度、休憩の頻度など気を使うことが多く、気疲れをしてしまうからだ。でも、ななちゃんとなら…。なんとなく一緒に走る感覚も掴んできたし、似た者同士の二人だ。大丈夫なんじゃないかな。

思いがけない誘いだったが、乗ってみることにした。

はるか「いいね、四国!海と魚を見に行こっか!」

和歌山港へ滑り込みセーフ!

当日、和歌山港までの移動は台風みたいに大騒ぎだった。というのは、ななちゃんの新しいシートバッグが思っていたように積載できなかったのだ。

ベルトの長さの調整が難しく、ふたりで頭を突き合わせてなんとかできたと思ったら、船までの残り時間がギリギリに迫っているではないか。「いってきます」も言えないぐらいの勢いで家を飛び出したのであった。

もどかしいのが信号待ちの時間だ。どんなに焦っても数分間の赤信号が短くなることはない。

「もう~!早く変わってよぉ~!!」

どちらともなく叫びながらも走り、転がるように和歌山港のチケット売り場に到着した。

時刻は8時15分。8時半の出航まであと15分だ。ギリギリ間に合った…。ヘルメットをはずして顔を見合わせると、気が緩んだのか声を出して笑ってしまった。

長距離フェリーには出航の30分前までの受付が必要なところも多いのだが、幸いにも比較的近い距離の運行である南海四国ラインは制限がない。「すぐに乗り場へ向かってくださいね」という言葉と共に乗船手続きを済ませることができた。

運賃はバイク分も合わせて1人4800円。私のクロスカブもななちゃんのKLXも125㏄以下なので、安く乗ることができるのだ。

和歌山港-徳島港間では、夜中の2時40分から21時40分まで、1日に8本の船が出ている(2022年5月時点)。観光で使う人も多いが、地元の方や物流の関係者の利用も多いようだ。チケット売り場からバイクで1分ほど離れた場所にある乗船口へと向かう道中、ちょうど大型トラックが前を走っているところが見えた。

快適!船旅の世界へようこそ!

ななちゃんにとってはこれが初めての船旅。

「どうしたらいい?どこから乗るん?」

和歌山港への入り方は少しややこしいのだ。

海に平行してのびる港の前の道路をまっすぐ、船を右手に見ながら30mほど走る。すると入口があるので、Uターンするように鋭角に右折して、ふたたび30mほど走ると乗船口にたどり着くのである。

係員の男性にチケットを渡す。

バイクや自転車の場合、車とは違って荷物を一時的に置く場所が存在しないため、チケットはポケットやシートバッグなどすぐに取り出せる場所に入れておくのが吉だ。特に今回みたいに出航時間が迫っている場合、お互いに焦らずに済むはずだ。

車両甲板に入ると、床にはタイダウン用の金具がたくさん用意されていて、船員の方々が慣れた手つきでベルトをつけてバイクを固定してくださった。時間にしてわずか2分ほど。あっという間に準備が整った。

2時間ほどの乗船時間中は客席で過ごす。客室は階段を登って2階だ。

席の指定はない。椅子と机がセットになったファミリー席、電車やバスのように椅子が並んだ椅子席、床に座ったり寝たりできるじゅうたん席、コンセントと読書灯を備えたビジネスコーナーなど、好きな席を選ぶことができる。

じゅうたん席の角に二人並んで座ると、フー…と息をついた。

平日の朝と言うこともあって、お客さんは全員合わせても20名ぐらいだろうか。ジャケットやヘルメットなど、荷物が多いバイク乗りにとっては有難いことに、広めにスペースを使うことができた。

エンジン音が大きくなり、床が揺れた感覚があった。

「あ、出航したよ…!」

乾いた塩で白く模様がついた窓を覗くと、港が離れていくのが見えた。船は徐々にスピードを出し、和歌山の街はジャンプしても届かないぐらいになり、浮き輪があっても泳げないぐらいになり、すぐにジオラマみたいに小さくなった。

ウキウキしつつも私の頭の中では『いい日旅立ち』のメロディが流れている。1泊2日のショートトリップとは言え、旅の始まりってなんだかセンチメンタルな気分になるのだから不思議だ。

そんな寂しい気持ちを吹き飛ばしてくれたのが、セブンティーンアイスの自動販売機。17種類のカラフルなパッケージが賑やかに光っていた。

いつも節約のためにファミリーパックのアイスを買っているので、1つ130円以上するアイスなんて普段なら我慢するかもしれない。しかし今は旅の始まり、船の中。ディズニーランドの中にいれば400円のチュロスが躊躇なく買えちゃうのと同じように、迷わず硬化を入れてボタンを押した。

フルーツ味のゼリーが入ったバニラアイスを食べながらスマホを触る。海のど真ん中は電波が弱い。さっき撮影した港の写真をツイートしようとしたのに、何分待っても一向にアップされない。

「私の方はいけたよ!」

チョコ味のアイスを片手に、ななちゃんが寝転がりながら言う。

「うそ~!キャリア一緒なのに~!」

私も隣に転がりながら、あおむけでスマホを掲げてみた。しかし2分ほど待ってみても処理中の表示が変わることはなかった。

「……やっぱりダメっぽい。もう寝るしかないわ」

夢の国のアイスはあっという間に食べ終わった。口の中にミルクの後味が残るのをお茶で流し込み、ジャケットをお腹にかけて目を閉じる。エンジンの振動を背中で受けながら「寝られないかも」なんて思ったのもつかの間、いつの間か夢の中へ落ちていったのであった。

徳島港へ上陸!

気が付いた時には10時近くになっていた。あと30分ほどで徳島港に着くんじゃないだろうか。隣で同じように眠っているななちゃんの肩を揺らして声をかけた。

「甲板から徳島が見えるかもしれん。見に行ってみようよ!」

ぶ厚くて重い金属製のドアを開けて外に出ると、一瞬明るさに目がくらんだ。すぐに慣れ、水彩絵の具みたいに透き通った空と、油絵の具みたいに濁った海、そして遠くに豆粒みたいな街が見えた。数えきれないぐらいの家がならんでいて、工場や田んぼ、ショッピングセンターみたいな建物もある。

「陸が見える!徳島が見えるよ!」

「思ってたより大きい街なんやな。うわ~、緊張してきた!」

吹き付けてくる風は案外乾いていたけれど、すぐに髪の毛が潮でパッサパサな感触に。こりゃたまらんとすぐに室内へ戻ることにした。

──20分後、到着の館内アナウンスが流れた。

乗船時は気が付かなかったけど、車両甲板と客室を繋ぐ階段は上から見るとフォトジェニック。階段が急なので、転げ落ちないように注意が必要だ。

車両甲板には排気ガスの臭いが濃く漂っていた。既に多くの車がエンジンをかけてスタンバイをしている。

船の先頭部分では出口が光を放っていて、早くも前側の車は降り始めているようだ。同時進行で係員の方々が忙しそうに走っている。輪留めを取り除いているのだろう。

フェリーの出入り口は前と後ろにひとつずつ作られている。車が船内でUターンすることなく、入場時の進行方向のまま降りることができる仕組みだ。最後に乗船した私たちは降りるのも最後なのである。

輪留めの回収を終えた係員の方がバイクのベルトも外しに来てくれた。

エンジンをかけ、出口へ向かって時速10kmほどで走り始めた。床にはたくさんの金具が設置されている。飛ばすとタイヤが弾かれて転倒しかねない。

近づくにつれて四角の光は大きくなり、色が増えていき、最終的には港の風景が見えるようになった。

「四国に上陸だーーー!」

船と港とを繋ぐ金属の橋を渡りながら、ななちゃんが大きな声で言った。

日光を浴びるとムワッと暑い。メッシュジャケットを着てきた方が良かったのかも、と不安が一瞬よぎったけれど、風が爽やかだったからすぐにどうでも良くなった。

まぁいっか、なんとかなるよね!……バイクには人をポジティブにする魔法の力があるに違いない。根拠はないけど、二人で走れば何があってもきっと楽しいはず。自然に気持ちが上向きになっていくのがわかった。

「今日はいっぱい走るよーっ!」

KLXを追いかけながら負けじと叫んだ。

インカムのスピーカーからは笑い声が返ってきた。

【続く】

文/高木はるか

アウトドア系ライター。つよく、しぶとく、たくましくをモットーにバイクとキャンプしてます。 愛車はversys650、クロスカブ110、スーパーカブ90。

高木はるかの記事は下記のサイトから
https://riding-camping-haruka.com

編集/inox.


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