【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第53回:Googleの「ユーモアがわかるAI」と「AI大喜利」は何がスゴいのか?
マスク氏は「言論の自由」を本当に尊重するのか?
世界一の富豪と言われるテスラのCEOイーロン・マスク氏が、アメリカのSNS大手Twitterを買収して非上場化するという件で、イーロン・マスク氏の狙いは何なのかが話題になっています。
@DIMEでも、5月22日に「5分でわかる!Twitterを買収したイーロン・マスクの狙い」という記事で解説されています。この件は、結論が出ておらず、動きが激しく、書きにくいネタではありますが、5月20日の情報をもとに書いたというこの記事では、「マスク氏がTwitterを買収する狙いは再上場によって利ザヤを得ること。これに尽きます。」としています。
確かにそうなのだろうとは思いますが、何も新しいことをしないままでは、金銭的な狙いも成就しにくいので、Twitter自体の何かを、おそらく良い方向に変えようとすると期待しています。
Twitterは、だれもが平等に意見が言えるため、特定のメディアから発せられる情報よりも偏りがなくて信用できる、と思っている人は多いと思います。しかし実際には、マスク氏が例えばクーリエ・ジャポンに5月28日に掲載されているインタビュー記事でも指摘していますが、1人の人物や1つの団体が10万などという数のアカウントを運営して影響力をでっち上げようとするケースがかなりあるとされています。
Twitterは、子供など若年者も閲覧しますが、「みんながこう言っているからそうなんだろう」と信じてしまうことが、私自身気になっていました。テレビよりも偏りがなく、多様な意見に触れられて、多様な意見の中から自分の意思を決めている、と錯覚してしまう恐れがあるのではないかと思います。
テレビであれば、一緒に観ている家族がいて、発せられている情報について、その場で議論することができますが、子供一人がスマホでTwitterを見ている場合は、偏ったと思われる意見に傾倒しても気づくことができません。
マスク氏がTwitterのどこをどのように変えるのかは、実際のところわからないため、どうしてほしいか考えてみると、いろいろありえます。
匿名性ゆえに生じやすい過剰なバッシング問題もありますが、マスク氏は、言論の自由を重視する立場を主張しているようなので、この問題を解消する方向での動きはしないように思います。
あなたが触れている情報は、どれだけ偏っている?
2018年ごろから問題提起されているSNSの「フィルターバブル」問題についてはどうでしょうか。
インターネット上のサービスが各ユーザーに表示する情報を分析して「より好まれるものだけを表示するようになる」ことで、ユーザーが特定の情報から隔離されてしまうことを「フィルターバブル」と呼びます。当時は、検索エンジンのGoogleやSNSのFacebookがフィルターバブルの温床があるとして調査されました。
SNS上で一部のユーザーの意見だけがアルゴリズムによって取り上げられ、ニュースの一部の側面だけが目立つこととなってしまうことを「エコーチェンバー現象」と呼びます。自分と似た価値観を持つ人とつながりがちなSNSでは、自分の意見に対する同意を簡単に得られ、そこから自分の意見が社会全体の意見であると錯覚してしまうといった現象が生じやすくなることが懸念されています。
東京大学教授の鳥海不二夫氏が、Twitter上で自分がどれだけ偏った情報に触れているのかを可視化できる「エコーチェンバー可視化システム」のベータ版を2021年9月に公開し、話題になりました。自分自身がどれだけエコーチェンバー現象の中にいるか、つまり「自身がソーシャルメディア上でどれだけ偏った情報に触れて過ごしているのか」を可視化できるシステムです。
このようなシステムも、Twitterの問題に対するチャレンジですが、マスク氏が、利ザヤ目的での社会経済的操作ではなく、Twitterそのものの仕組みをよりよいものにしてくれることを期待したいと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。